感動するマーケティング

『グレイトフル・デッド』と『ヤッホーブルーイング』が教えてくれたマーケティングのあるべき姿。

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こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

熱狂的に愛される製品や体験を作り、顧客も、社員も、ブランドに関わる全ての人たちの人生をハッピーに彩る。そんなブランドのことを“熱狂ブランド”と呼び、熱狂ブランドを提供している会社を“熱狂カンパニー”と呼んでいるのですが、熱狂カンパニーとして、心底尊敬してやまないのが、「よなよなエール」、「水曜日のネコ」などのクラフトビールでお馴染みの『ヤッホーブルーイング』(以下、ヤッホー)です。

 

ご存知の方も多いと思いますが、「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションを掲げ、バラエティのある美味しいビールを提供することにとどまらず、顧客の人生をより楽しく、豊かなものにするために様々な取り組みを行い、「いつかはノーベル平和賞をとりたい!」とまで豪語しているチャレンジング、かつ最高にオモシロイ会社です。

 

僕もヤッホーが主催するイベントに参加したり、メルマガ会員やSNSアカウントのフォロワーになっているのですが、様々な社員の方が、芸人のような仮装をしたり、ビールへのこだわりを熱く語ったり、クスっと笑えるシュールなコンテンツを届けてくれたりと、あの手この手で、お客様に喜んでいただくために全力を尽くしている姿を見て、いつも感心してしまいます。しかも、皆さん、とても楽しそうに取り組まれているんですよね。

 

「ヤッホーのような会社が社会に増えていけば、もっと世界は幸せになるはずだし、仕事も楽しいものに変わるはず!」と、マーケターとして志すうちに、「世の中に、ヤッホーのような熱狂的なファンを創りながら、自分たちも最高に楽しんでいる会社は他にないのだろうか?」と考えるようになりました。そういう会社を発見して、共通する要素を洗い出し、様々な業種・規模の企業に応用できる秘訣のようなものを得られないかと思ったんですね。

 

こうして、様々な企業の事例を見ていく中で、『ザッポス(Zappos)』だとか、『ホールフーズ(Whole Foods Market)』だとか、以前にブログで紹介した『メトロバンク(METRO BANK)』『伊那食品工業』などがヤッホーに近いのかなと思いましたが、最近、「もしかしたら、これがヤッホーに一番近いんじゃないのか…!?」と思う存在を発見しました。

 

その存在とは、伝説のロックバンド『グレイトフル・デッド(Grateful Dead)』です。

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 ※Wikipedia「グレイトフル・デッド」より

 

『グレイトフル・デッド』はアメリカで1960年代に生まれたバンドで、ビートルズやローリング・ストーンズと同じくらいアメリカでは人気や歴史があるそうなのですが、おそらく大半の日本人は、名前くらいは聞いたことがあるけど、それ以上は知らないのではないでしょうか(僕もそうでした)。グレイトフル・デッドはヒットチャートとは、ほとんど無縁の存在ながら、毎年のようにスタジアム・ツアーを行っていて、常にアメリカ国内のコンサートの年間収益では一、二を争う存在だそうで、あのスティーブ・ジョブズも熱狂的なファンだったそうです。

 

「あれ。会社じゃなくて、バンド?」というツッコミもあるかと思いますが、糸井重里さんが監修するなどして話題になったグレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶを読んだりしながら、グレイトフル・デッドの取り組みを知れば知るほど、グレイトフル・デッドとヤッホーは非常に似ていることが分かってきたんです。

 

例えば、ヤッホーは自分たちのことを“知的な変わりもの集団”と呼んでいて、世の中の知的な変わりもの達をブランドのコアターゲットに掲げていますが、グレイトフル・デッドこそカウンターカルチャー全盛期のころからの“知的な変わり者集団”であり、アメリカの、いや世界中の知的な変わりもの達を魅了し続け伝説となったバンドです。「これは、もうグレイトフル・デッドを掘り下げるしかない!」と僕は強く確信しました。

 

ということで、今回のブログでは、グレイトフル・デッドとヤッホーブルーイングという「知的な変わりもの」たちから、熱狂的なファンを創りながら、自分たち自身も最高に楽しむことのできるブランドを創るための「ヒント」を探っていきたいと思います。

 

グレイトフル・デッドとは「人生そのもの」

グレイトフル・デッドは、1965年から、バンドのリーダーであったジェリー・ガルシアが亡くなる95年までの間に、2300以上のライブを行いました。13枚以上発売したスタジオ録音のアルバムも売れたそうですが、バンドを別格の存在にしたいのが、独自の“ライブ体験”です。

 

派手な演出もなく、あっさりとライブが始まることや、ビルボードのヒットチャートにのっている曲がないこと、温かいコミュニティの雰囲気、そして何千人もが吸うマリファナの濃い煙など、すべてが独特で、何もかもが変わっているにも関わらず、奇妙な心地よさを感じ、その虜になってしまう人が続出したそうです。

 

グレイトフル・デッドのファンは「デッドヘッズ」と呼ばれています。ヒッピーのような自由人がデッドヘッズには多いと思っていましたが、大部分は、普段は名門大学に通っていたり、大企業で真面目に勤務している方々のようです。 そんなデッドヘッズにとってライブは、いつもの日常を抜け出して、自分を表現し、自由に楽しむことを許してくれる場であり、自分と考え方の似た仲間たちが集まる居心地の良い場所になっているそうです。

 

デッドヘッズは、もちろん、グレイトフル・デッドの音楽が大好きです。けれども、デッドヘッズにとってファン同士のコミュニティは、好きな音楽と共通の価値観を共有する仲間の集まりということで、音楽以上の意味があるようです。「ライブは、古くからの仲間であるデッドヘッズたちとの友情をあたためる場であり、新しいデッドヘッズたちとの出会いの場なんだ。グレイトフル・デッドは素晴らしい音楽と仲間が集まる場所を提供してくれる最高のバンドだよ!」。こんなコメントをするファンが少なくない規模で存在しているらしいんですね。

 

これって、スゴいことだと思いませんか!?ミュージシャンという枠を飛び越え、「人生そのもの」を彩る存在になっているというか…。グレイトフル・デッドのライブに行くと、顔なじみのデッドヘッズと再会して、演奏前や休憩時間にビールを飲みながら、それぞれの近況を報告しあう。まさに、「グレイトフル・デッドなしでは語れない人生」です。

 

そして、このような”共同体感覚”は、偶然の産物ではなくて、グレイトフル・デッドのメンバー達が意識的に創り上げていったようです(もちろん、熱狂的なデッドヘッズ達によってメンバーたちの想像を超えて、拡張&進化していったのではないかと思いますが)。例えば、ファン同士が交流する際の話のネタをつくるということで、1970年初頭からバンドの近況などを掲載した手の込んだ会報を定期的にファンの自宅に送ったり、ライブの録音を許可することで、録音テープの交換がファンの交流のきっかけになったりと、ファン同士のつながりや仲間意識が濃くなっていくような仕掛けを次々と実行していきました。「デッドヘッズ」というファンの呼び名も、ファン同士の共同体感覚を強める大きな後押しになっているのは間違いありません。

 

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※書籍 『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』よりグレイトフル・デッドのライブを楽しむデッドヘッズたちの写真を抜粋(著者撮影)

 

「宴」はヤッホーファンにとっての“同窓会”

さて、一方のヤッホーブルーイングです。ヤッホーの魅力の源泉は、もちろん、個性的な味わいのある美味しいエールビールです。看板商品の「よなよなエール」は世界三大ビール品評会の金賞やモンドセレクション最高金賞を何年も連続して受賞するなど、世界的に評価されています。また、「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY」というシリーズをはじめ、ビールの持つ可能性の広がりを感じてしまう美味しくて面白いビールを毎年毎シーズン届けてくれて、ヤッホーのおかげで、ビールライフが楽しく豊かなものになっているのは間違いありません。

 

ただ、ヤッホーファンにとってヤッホーを別格の存在に導いているのは、「宴」をはじめとした“ファンイベント”だと僕は確信しています。「宴」というのは、ヤッホーの様々なビールや、ビールと相性がよくて、美味しい料理を楽しむことのできる「よなよなビアワークス」というお店(本当におススメ。特に、ローストチキンは絶品)を会場に、80名程度のヤッホーファンを集めて定期的に開催するヤッホー主催のファンイベントで、ヤッホー社員の皆さんも毎回多数参加されています。

 

今でも、初めて、宴に参加した時のことを覚えています。宴の最大の魅力。それは、「よなよなビアワークス」のビールや料理の食べ放題だと当初は思っていました。好きなヤッホーのビールをたくさん飲めて、あのローストチキンや旨いソーセージを食べまくる…、確かに、考えただけで胸熱です。しかし、そうではなかったんです(もちろん、食べ放題も大きな魅力ですが)。

 

まず、宴の会場に入ると、ヤッホーの社員さんからニックネームをシールに書いて、胸に貼ることを推奨されます。ヤッホー社員はお互いをニックネームで呼び合う文化なので、宴でもそれを踏襲したいと。そして、宴が始まるのですが、ここからがビックリ。参加者は6名がけくらいのテーブルにそれぞれ座るんですが、そのテーブル内での交流が、まずスゴい!ヤッホー社員の司会の方から、テーブル内で自己紹介をするように促されるのですが、ヤッホーのビール好きという共通の趣味嗜好を持っているからなのか、ニックネームの効果なのか、アルコールの力なのか、初対面とは思えないくらい、会話がとても弾むんですね。「何年ぐらい前からヤッホー飲んでます?」、「この間、発売されたあのビール飲みました?」、「今度やるヤッホーのイベント行きますか?」…とか、こんな具合にネタが尽きないんです。しかも、途中からヤッホーの社員さんも加わってくれて、会話がどんどん盛り上がっていくんです。

 

そして、会が始まってから一時間くらい経つと、はじめに座っていたテーブル以外の方とも交流するようになってきて、顔に「よなよな」のシールを張ることを強烈に薦めてくるチャーミングなおじさんだとか、ヤッホーが好きすぎて、自分でオリジナルグッズを作ってきているデザイナーの方(ちなみに、めちゃくちゃクオリティが高い)など、面白くて個性的な方々と、次々と遭遇するようになるんです。そして、場が盛りがってきたタイミングで行わる終盤の「よなよなウルトラクイズ」!これが、また盛り上がるんです!…と、こんな具合のイベントなのですが、会が終了して帰るころには、初めて会ったヤッホーファンやヤッホー社員の方々とFacebookの連絡先を交換していたり、「また、宴で会いましょう!」なんて言って、別れたりするんですね

 

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※「宴」のイベントの様子(参照元:「ただの飲み会にあらず!年間契約イベントレポート ~宴 feat. 年間契約~」よなよなの里 エールビール醸造所 公式通販サイトより) 

 

10年以上も前からヤッホーを応援している大ベテランのヤッホーファンの方がおっしゃっていた言葉がとても印象に残っているのですが、「宴」などのヤッホー主催のイベントは“同窓会”みたいなもので、参加すると、気心の知れたヤッホー社員の方々はもちろん、これまでのイベントで知り合ったファンの方々と再会できるのが最高に楽しいし、そういう人たちとヤッホーのビールを飲みかわしながら、楽しい時間を過ごせるのが嬉しいとおっしゃっていたんですね。これ、すごい良くわかります!僕もヤッホーのイベントに参加するたびに魅力的な人との出会いがあって、この同窓会って表現はピッタリだなと思いました。

 

そして、イベントで知り合った社員さんが、その後、ヤッホーのメルマガやWebサイト、SNSなどで登場したりすると、「おっ、頑張ってるな。応援しなきゃ」みたいな感じで、友達が活躍していて嬉しいような感覚になったり、SNSで繋がっているファンの方々がヤッホーに関する投稿をしたりすると、“いいね”やコメントをしあったりしていて、気がつくとヤッホーが生活の一部になっているんですね。「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションをヤッホーは掲げていますが、まさにヤッホーのおかげで、僕の人生が豊かになったのは間違いないですし、同じようなことを思っているヤッホーファンはたくさん存在していると思います。もう、ここまでくるとファンにとってヤッホーの存在は、明らかにクラフトビールメーカーという域を超えているわけです

 

“共同体感覚”をいかに創りだすか 

ここまで読んでいただくと、グレイトフル・デッドとヤッホーが行っていることが、近いといった意味がご理解いただけたのではないでしょうか? ブランドの魅力が体現される場(グレイトフル・デッドであれば“ライブ”。ヤッホーであれば“宴”)を創り、個性的なブランドに惹かれて集まってくるファン同士をユニークなやり方でつなげ、その結果、ファンの中に強烈なブランドへの、またファン同士の“共同体感覚”を創りだす。両者とも、これが実現できているんです。

 

そして、このファンが抱いている“共同体感覚”は、ブランドが提供する体験価値を確実に引き上げていると思います。デッドヘッズたちは、初めてグレイトフル・デッドのライブに訪れたファンに対して、グレイトフル・デッドを愛する仲間として、素晴らしい時間を味わってもらえるように、自分流のライブの楽しみ方を伝授したり、お気に入りのマリファナをシェアしたりと、フレンドリーでオープンな人が多かったそうです。僕が知っているヤッホーファンの方々も、初めて宴に参加した方に楽しんでもらいたいという想いから、テーブルのトークを積極的に盛り上げたり、ヤッホーの魅力を一生懸命語っていたり、人によっては、酔っぱらいすぎてしまった方の介抱や、後片付けのお手伝いを申し出るなど、まるで社員のような動きをしている方もいらっしゃいます。

 

このように、熱狂的なファンがブランド体験価値を高め、その結果、新しい熱狂的なファンが増えていく。そんな素敵なサイクルが回っているんですね。そして、このようなブランドを応援してくる熱狂的なファンの方々の姿は、ヤッホー社員の皆さんのモチベーションを大いに高めてくれることは、間違いないでしょう。

 

熱狂的なファンを創りながら、自分たち自身も最高に楽しむことのできるブランドを創るために必要なコト。それは、いかにファンとブランドの、そして、ファン同士の“共同体感覚”を創出できるかだと僕は思います。

 

「どうやってファンと通じ合うか?」

「ファン同士が仲間意識を持てるような、”共通の価値観”とは何か?」

「ファン同士の”交流を促すキッカケ”をいかにつくるか?」

「ファンとブランド、ファン同士が”一体感を持つことを後押しができる施策”の展開はできないか?」

 

このような問いに対する答えを考え、顧客も、社員も、ブランドに関わる全ての人たちの人生をハッピーに彩る熱狂ブランドを増やしていきたいと思います。皆さんも、是非、自社のブランドに当てはめて、考えてみていただけると幸いです!

 

 

…さて、最後に、グレイトフル・デッドは前述のとおり、愛すべきデッドヘッズたちとともに、ロックの音楽史で伝説となっているバンドです。僕は、ヤッホーも、「ビールに味を!人生に幸せを!」という旗印のもと、最高に面白くて個性的で愉快なヤッホーファンたちと共に、きっとグレイトフル・デッドのような伝説のブランドとなってくれるのではないかと期待してやみません。

 

ヤッホーファンにとって聖地と呼ばれている「超宴」というイベントがあります。これは軽井沢のキャンプ場で行われる一泊二日のファンイベントで1,000人規模の人数が集まります。このイベントは、すでに伝説となっていて、ヤッホー社員も、ヤッホーファンも、はじめてヤッホーのイベントに参加した人も含めて、皆で最高の空間を創り上げている最高のイベントになっています。

 

そして、この秋、2017年10月7日(土)。なんと、この超宴が、神宮外苑軟式球場で初めて開催されます!!!公式サイトには、以下のようにイベントを紹介していました。

 

「よなよなエールの超宴」とは、よなよなエールファンとヤッホーブルーイングスタッフで創り上げるBIGなファンイベント。

よなよなエールを通した、新しい出逢いや発見がつまった超!HAPPYな宴です。

 

 

生産者と消費者という垣根を越えて、ヤッホーブルーイングというブランドのもと、一緒になって盛り上がる。その体験を味わうことのできるビッグチャンスです!ビール好きな方はもちろん、志のあるマーケターの方は、足を運ぶことを激しくお奨めします!!!そして、是非、会場で一緒に乾杯をしましょう!

▼超宴の素晴らしい空間を感じることができるオフィシャル動画があるので、是非、見てみてください!


よなよなエールの超宴 in 新緑の北軽井沢2017 after movie

 

 

≪参考図書≫

48期連続増収増益!奇跡の会社『伊那食品工業』の「戦わない経営」とは?

こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

企業の経営の在り方について話をするときに、よく「近江商人の三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」を引用して熱く語る経営者や事業担当者の方って多いですよね。この考え方は、素晴らしいと思いますし、否定する人は、ほとんどいないと思います。

 

でも、当たり前ですが、これを実現するのは、なかなか難しいですよね。企業の成長が優先され、高い利益目標が課せられる中で、顧客はもちろん、従業員、仕入れ先など、全てのステークホルダーが皆ハッピーになる状況を創りだすのは、困難の極みです。しかも、技術環境が刻々と変わり、グローバル規模での影響を受ける現代において、三方よしの状況を中長期的に持続させることは“奇跡”といっても過言ではないでしょう。

 

その中で、従業員や地域から支持され、さらに、48期連続増収増益を成し遂げている、まさに奇跡の会社が存在しているということを、最近知りました。48期連続ですよ!48期!

 

みなさん、『伊那食品工業』という寒天メーカーをご存知でしょうか?

 

伊那食品工業は長野県伊那市に本社があり、従業員数が500名程度の地方の中小企業です。ところが、この会社は寒天の製造で国内シェア80%、世界シェア15%を占めている寒天の世界的トップメーカーで、48年間増益増収、しかも、売上高経常利益率は10%以上という経営の教科書でお手本にすべき偉業を達成しています(現在の年商は約200億 ※2016年12月期)。この偉業の秘密を探ろうと、様々な業種・業態の経営者の方々が頻繁に視察に訪れているそうで、あのトヨタの豊田章男社長も伊那食品工業の経営から学んでいることが多いとのことです。

 

この伊那食品工業の素晴らしいところは、単に経営の数字だけではなく、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是にしていて、創業以来一度もリストラを行わず、同業者とも戦わず、とことん環境に配慮した工場をつくるなど、社是を具体化した経営で成長していることです。

 

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※著者撮影 

 

伊那食品工業のことを知ってから、「顧客から末永く愛される企業やブランドを世の中に多く生み出していきたい」と志すものとして、この企業の存在をもっと多くの人に知ってもらいたいと思うようになりまして、今回のブログでは、目先の利益より、社員の末永い幸せを築くために伊那食品工業が貫いてきた「戦わない経営」について紹介したいと思います。

 

無理な成長は追わない

繰り返しになりますが、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是に掲げている伊那食品工業。この社是を実現するために、創業者である塚越会長は、3つの経営方針をつくったそうです。

 

最初の1つ目は、「無理な成長は追わない」ということ。これは、景気やトレンドに踊らされないことを意味しています。普通、好景気や業界的に追い風の時には、攻めの経営で設備投資や人員の増強などに、お金をかけたくなってしまうのがヒトの性ですよね。しかし、状況が変わって、不景気や向かい風になると、それが過剰投資という事態をまねき、人件費の削減やリストラを敢行したり、ラインを動かすために大幅なディスカウントに走るなど、企業やブランドの価値や信頼を落とす結果になってしまうことが多々あります。

 

もちろん、顧客や社会から求められる商品やサービスを提供するという面で、世の中の動きをキャッチすることは重要です。ただ景気やトレンドは日々変わっていくものであるという前提に立ち、自分たちの目指す姿に対して、何をすべきかを冷静に考えよとおっしゃっているわけです。

 

会社の業種や規模、歴史や時代背景、マーケットの変化、地球環境、かかわる人々の幸せ、人に迷惑をかけないことといった視点まで含めて、総合的に判断して「最適成長率」を見極めることが、経営にとって重要だと塚越会長は言います。成長のない企業には夢がなく、すぐれた人材も集まらないし、企業内の士気もやる気も育たないので、成長することが重要だということは、百も承知です。ただ、やみくもに成長をすることを善とせずに、社員の能力や会社の体制を整えながら、景気やトレンドに流されずに、一歩一歩着実に成長していこうということですね。

 

この方針にそって経営していることがよくわかるエピソードが、2005年の寒天ブームです。「○○が体にいい」「××で血液をさらさらに」など、テレビや雑誌では様々な食材が取り上げられブームになりますよね。2005年には、その白羽の矢が寒天に当たり、「カロリーが低くてダイエットにいい」などと紹介されたわけです。伊那食品工業は寒天のトップメーカーですから、全国各地から注文が殺到しました。普通なら、注文が殺到すれば増産しようということになると思いますが、塚越会長は「すべて断ってください。これは一過性の流行です。必ず廃れ、そのあとには必ず嫌なことが起こる。その時に社員を犠牲にしたくない」と明言したそうです。

 

「ご注文いただいて、ありがとうございます。しかし、わが社が一番大切にしているのは社員です。社員に残業させることはできませんので、せっかくのご注文ですが今は対応できません」と、電話や手紙で謝罪したりしながら注文を断っていたそうですが、社員の方々から、「商品がほしくて困っている人たちがいるのですから、応えてあげましょう。社長が私たちのことを気にしてくださっているのは十分わかっています。私たちはかまいませんから」という声があがり、結局増産することにしましたが、社員にとって無理のない範囲内にとどめたそうです。翌年、塚越会長が予想した通りブームは去りましたが、伊那食品工業にとって、少しも慌てることはなかったと塚越会長はおっしゃっています。

 

創った人の苦労と喜びを正しく伝える

また、「無理な成長は追わない」という軸で、とても印象深いのが、製造している寒天商品を一般の大型スーパーで売らないという点です。伊那食品工業では「かんてんぱぱ」というブランドを展開して、200~300種類の商品アイテムを持っています。「かんてんぱぱ」の存在を知った大手スーパーから、「とても良い商品なので、ぜひ、我々のスーパーで売らせてほしい」と交渉が入ることが多々あるそうです。

 

しかし、伊那食品工業は、創った人の喜びと苦労を正しく顧客に伝えたいという想いにのっとり、生産から顧客の販売まで一貫して行う事業の在り方を目指しています。現在は、通販での販売を始め、本社工場や全国の営業拠点に併設した場所で直営の店舗を構えており、それ以外のルートでの販売はしていません。単に商品を売るのではなく、商品を創る上での想いを顧客と共有してこそ価値があるという考えなので、自分たちのコントロールが効かない流通経路はとらない方針なんですね。

 

僕も、初台駅近くの東京営業所の1階にある「かんてんぱぱカフェ 初台店」にお邪魔させていただいたのですが、「かんてんぱぱ」の各商品の詳しい説明はもちろん、試食コーナーが充実していたり、商品の楽しみ方を伝える冊子や、伊那食品工業の社内報も配っていたりと、お客さんに商品や自社の想いを伝えようとする姿勢を強く感じることができました

 

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※著者撮影 ( 「かんてんぱぱカフェ 初台店」にて) 

 

全国展開している大手スーパーの注文を受ければ、年間で、何十億単位の売上がもたらされる可能性もありながらも、誘惑に負けずに自分たちの目指す成長にあった道を選ぶ。正直、なかなか、この決断はできないですよね…。ほとんどの会社は1年単位や、3年単位の事業数値を追いかけていますし、特に株主からの圧力が強い場合は、目先の利益に飛びついてしまうことが多いと思います。上場していないからこそできるといえば、それまでかもしれませんが、この中長期的なビジョンを持ち、トレンドや誘惑に踊らされない姿勢こそが、伊那食品工業が持続的に成長できている要因として大きいのではないでしょうか。

 

オンリーワンな存在になり、敵をつくらない

3つの経営方針の残り2つは「敵をつくらない」ということと、「成長の種まきを怠らない」ということです。

 

「競合からシェアを奪え!」とか、「他社を圧倒しろ!」といった怒号に近い言葉が飛び交い、同業者を“商売敵”と呼ぶことも多いビジネスにおいて、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」を目指す伊那食品工業は、なんと、自社の繁栄の陰で泣いている企業やヒトがたくさん存在していることを前提とした成長は目指さないと公言しているのです!

 

そのためには、他社と同じ土俵に立たないように、この世になかった商品、他社では真似できない商品、しかも、顧客や世の中の需要を満たすオンリーワンな商品を開発し続けないといけません。そのために、注力しているのが、「成長の種まきを怠らない」ことです。これは、“研究開発”のことをさしていますし、“社員への投資”のこともさしています。

 

研究開発においては、「人材の1割を研究開発に」をテーマに、社内に研究室を設け、研究者を育て、寒天の原料である海藻や生産技術の本格的に取り組んできたそうです。その結果、食品以外にも、化粧品や医薬品、あるいは細胞培養するための素地など、さまざまな事業展開につながっているそうで、利益成長の土台となっています。

 

また、寒天の新しい用途開発やマーケティング展開を行うために、社員の方々に、さまざまな経験や、体験をしてもらうように心がけているとのことで、よその会社の工場の見学や、異業種が交流する研究会や講演会への参加をはじめ、寒天の原料の現地であるインドネシアやロシアへの出張も積極的に促しているとのことです。

 

特に、「スゴイな!」と思ったのが、伊那食品工業では、1973年から毎年1回ずつ、国内と海外への社員旅行を交互に続けているそうです。慰安や社員同士の親睦をはかることも目的に含まれていますが、一番の目的は社員の見聞を磨くことのようで、上質な空間を知ることで、マナーを身につけ、モラルを高めてもらいたいという想いから宿泊施設や食事は質の高いところをあえて選んでいるとのことです。社員旅行から帰ってきた社員がニコニコしながら、塚越会長曰く「とっても有意義でした!」とか、「社長、最高でした!」と言ってくれていて、社員のやる気や志気、そしてモラルを高めることができているとのことです。

 

このように、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」という社是に対して、全くブレない経営をしていることを知り、僕は心の底から感動しました。もちろん、スタートアップの企業や、業界内における一定のポジションの獲得を目指している状態の企業であれば、貪欲に成長を目指すというのも正しい姿だと思いますが、市場全体が成熟を迎え、モノの豊かさからココロの豊かさを求めはじめている現代において、伊那市食品工業の経営姿勢は学ぶべきところが多いと思います。

 

21世紀のあるべき経営者の心得

最後に、伊那食品工業の塚越会長が自分の経営に対する考えを綴った著著『いい会社をつくりましょう』の中に書かれている「21世紀のあるべき経営者の心得」を紹介したいと思います。

 

  1. 専門のほかに幅広く一般知識をもち、業界の情報は世界的視野で集めること。
  2. 変化し得る者だけが生き残れるという自然界の法則は、企業経営にも通じることを知り、すべてにバランスをとりながら常に変革すること。
  3. 永続することこそ企業の価値である。急成長をいましめ、研究開発に基づく種まきを常に行うこと。
  4. 人間社会における企業の真の目的は、雇用機会を創ることにより、快適で豊かな社会をつくることであり、成長も利益もそのための手段であることを知ること。
  5. 社員の士気を高めるために、社員の「幸」を常に考え、末広がりの人生を構築できるように、会社もまた常に末広がりの成長をするように努めること。
  6. 売り立場、買う立場はビジネス社会において常に対等であるべきことを知り、仕入先を大切にし、継続的な取引に心がけること。
  7. ファンづくりこそ企業永続の基であり、敵をつくらないように留意すること。
  8. 専門的知識は部下より劣ることはあっても、仕事に対する情熱は誰にも負けぬこと。
  9. 文明は後戻りしない。文明の利器は他社より早くフルに活用すること。
  10. 豊かで、快適で、幸せな社会をつくるため、トレンドに迷うことなく、いいまちづくりに参加し、郷土愛をもちづつけること。

 

どうですか? とても、素晴らしい心得だと思いましたし、このような心得をもった経営者の方々が一人でも多く存在するようになったら、もっと豊かな社会になるのではないかと思います。

 

「より大きく、より早く」と成長を急ぐ気持ちもわかるのですが、目の前の従業員や関係者の幸せを考えながら、「最適成長率」を見極め、着実に社会に貢献できる経営や事業展開を目指していきたいですね!

 

≪参考図書≫

≪参考記事など≫

銀行に熱狂!? 英国銀行『メトロバンク』のチャレンジャー戦略がヤバい

こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

マーケティングについての理解と知識を深めようと、日々、様々な書籍を読み漁っているのですが、「この会社の戦略はスゴい…。チャレンジャー戦略の鏡だ!」と驚愕した海外企業のケースを発見しました。

 

みなさん、イギリスの銀行『メトロバンク(METRO BANK)』をご存知ですか?

 

ロイズ、バークレイズ、ロイヤルバンクなどの大手銀行「ビック5」がひしめくイギリスにおいて、1世紀ぶりに誕生した新銀行で、2010年に開業してから破竹の勢いで急成長。現在、イギリス全土で店舗を展開しており、イギリスで最も活気ある金融サービスブランドと呼ばれているそうです。

 

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※「メトロバンク」公式サイトよりスクリーンショット

 

まず、何がすごいかって、「Changing the way Britain banks (ばかげた銀行ルールを変える) 」という『メトロバンク』のミッションです。「これまでの銀行は、業界のルールに縛られており、顧客目線になっていない。顧客にとって必要とされる銀行サービスを提供するのが我々メトロバンクである」という、挑戦的かつ刺激的な旗印を掲げています。顧客向けのコーポレートスローガンが『JOIN THE REVOLUTION』ですよ。日本の銀行で、こんな刺激的なスローガン、見たことないですよね。

 

大手銀行の縄張りだった市場に風穴をあけて、急成長しているメトロバンク。大手企業がひしめく業界において、シェアを獲得していきたいチャレンジャー企業やブランドにとって、非常に学びの多いケースだと思いましたので、今回のブログでは、『メトロバンクのチャレンジャー企業としての競争戦略』について紹介させていただきます。

 

顧客を熱狂させるサービス

 

メトロバンクが戦略を立てる上で、目を付けたポイント。それは営業時間が短いこと、そして行員の態度が悪いことなど、多くの生活者が既存の銀行サービスに対して強い不満をいだいていることでした。働いている人や子育てをしている人、長時間通勤をしている人にとって、銀行が平日の午前10時から午後4時までしか空いていないのは非常に不便です。おまけに、銀行の窓口担当者の態度は、お世辞にも愛想がいいとは言えない状況のようで、やたらと横柄な態度をとる銀行員は、イギリスのコメディーの定番キャラクターとなっていたそうです。

 

実際、ロンドンのキャス・ビジネススクールのレポートによれば、イギリスの個人口座の77%、法人口座の85%を占めている大手銀行のビッグ5には、2008~2014年半ばに2100万件の苦情が寄せられたそうです。大手銀行は、やる気のない従業員、不満を抱える顧客、世間からの信頼の低さなど、「長年培われた悪しき文化」の中でもがき苦しんでいて、この文化を一掃するには数十年はかかるだろうとレポートは警告していました。

 

そこで、メトロバンクは大胆にも、祝日で休むのはクリスマスなど年4日だけ。それ以外は年中無休で、営業時間は平日が朝8時から夜8時まで。土曜日は夜6時まで、日曜日は午前11時から午後4時まで店を開くという業界の常識を覆す方針をとったのです。

 

そして、イギリスの銀行というと、対応の遅さと長蛇の列が有名だそうで、口座の開設では、大手銀行だと1週間後の予約しか取れない場合もあるそうですが、メトロバンクでは予約は必要なく15分で口座を開設でき、デビットカードとクレジットカードも即時発行されるとのこと。そして、なんと、そのスピードを活かして、ドライブスルーの店舗まで作っているそうです!これは、スゴい!

 

このようなサービスだけでなく、顧客体験を高めるために、現場のスタッフは陽気なサービス精神を発揮し、笑顔で元気よく顧客を迎えるよう教育されており、イギリスの銀行で初めてペット同伴の来店を歓迎しただけでなく、子供にはキャンディーを、ペットの犬にはビスケットまで配っているそうです。そして、店舗空間も顧客に親しみを感じてもらえるように、店舗は全面ガラス張りの洗練された建物で、店舗の中の様子が分かるようになっています。そしてスタッフのドレスコードは、女性スタッフは赤いドレスに黒のブレザーか、黒いドレスに赤のブレザー。男性スタッフは白いシャツに赤いネクタイのスーツ姿で統一。お固い銀行の印象は全然感じませんよね。

 

▼こちらの動画をご覧いただくと、メトロバンクの目指しているものや、サービスの具体的なイメージをつかんでいただけると思います。


The Metro Bank Journey

 

メトロバンクの店舗内には、「NO STUPID RULE」という書かれたサインが様々なところにありますが、既存の大手銀行の馬鹿げたルールに飽き飽きしていた生活者の心をメトロバンクはガッチリと掴んでいるんですね。 

 

 メトロバンクが選んだトレード・オフ 

でも、ここで考えてほしいのが、ほぼ年中無休で、朝8時から夜8時まで営業するというのは、人件費をはじめ、コストが大きく膨らみますよね。ビッグ5が営業時間を限定してきた最大の要因は、長時間営業を実施することのコストが主な原因でした。

 

では、メトロバンクはどうやって長時間営業を実現したのか? その秘密は、商品設計にあります。メトロバンクは出店先のすべての地域で、預金金利を最低水準に設定していて、これにより浮いた資金を活用して、営業時間の拡大を成し遂げているそうです。つまり、ビッグ5と比べて、メトロバンクに預金しても利息は少なく、預金金利の面では、極めて低水準なサービスしか提供しないかわりに、営業時間の面では飛び抜けたサービスを提供するという選択肢をとっているのです。

 

また、顧客対応の面でも、このようなトレード・オフをとっています。例えば、銀行の現場スタッフとしてベストな人材としては、接客態度と業務処理能力の両面で最高レベルの人材ですよね。だけど、有能で愛想がいいスタッフは、どの企業からも需要が高いので、このようなスタッフを雇おうとすると、採用費で膨大なコストがかかってしまう。

 

そのため、メトロバンクでは、業務処理能力は課題があっても、情熱とコミュニケーション能力に長じた人材を採用することにしました。こうしてフレンドリーで熱心なスタッフをそろえた結果、メトロバンクのスタッフは笑顔で顧客を出迎えて、待ち時間に読むための新聞を手渡し、雨の日は顧客の車の前まで見送るなど、他の銀行と違って、親切で、愛想がよくて、優しいといったポジティブな評判が広がっていったのです。

 

その反面、業務処理能力に長けた人材が手薄になるというマイナス面も発生します。銀行で取り扱うのは、専門性の高い金融商品が多いので、専門知識や技能が乏しければ、顧客に手際よく商品を説明するのは難しいですよね。そこで、メトロバンクでは、取り扱う金融商品の種類を徹底的に絞り込んでいるそうです。従来の銀行業界が重視してきた取扱商品の豊富さという面では、圧倒的に最下位です。しかし、このような思い切った選択をとったからこそ、驚くほどフレンドリーな接客を実現できているわけです。

 

すべてが最高には無理がある。切り捨てる勇気を持つ

マイケル・ポーターの「戦略の本質(1996年)」という有名な論文の中にトレード・オフの重要性が、このように書かれています。

 

“ マネジャーたちは「トレード・オフは解消することが望ましい」という考え方を身につけてきた。しかし、トレード・オフがなければ、持続的優位は獲得できない。 ”

 

“戦略とは、競争においてトレード・オフを作ることなのである。 ”

 

つまり、ビジネスにおいて選択肢があった際に、競合他社が躊躇するような選択肢を勇気をもってとれるか? これかそが競争戦略を策定する上で、欠かせない要素ということです。トレード・オフがないところに、差別化は創れないし、持続的な競争優位も生まれないということですね。

 

ただ、これって言うのは簡単ですが、実際は難しいです…。僕も会社で担当しているサービスのこれからの戦略についてメンバーと話し合うことが多いのですが、やっぱり、サービスを提供する側からすると全ての面で良いサービスを顧客に提供したくなってしまうんですよね。また、どこかの部分で質を落とすことに対する不安もあります。「本当にここを捨ててしまって良いんだろか…。これによって顧客離れが起きないだろうか…。」、 そんな思いに苛まれ、結局、どっちつかずの選択肢をとってしまうことも多いです。

 

しかし、メトロバンクしかり、サウスウエスト航空やザッポスなど、大手企業がひしめく業界に風穴をあけて躍進していると称賛されている企業は、どこかで戦略的にトレード・オフをとっているんですよね。僕の敬愛する「よなよなエール」でお馴染みのヤッホーブルーイングのてんちょ(井手直行社長) もトレード・オフの重要性をセミナーなどでよく語っています。

 

やはり、経営資源の量や、規模の経済ではかなわないチャレンジャー企業は、顧客視点でリーダー企業に対して(もしくは市場に対して)、顧客が抱えている不満やニーズを見出し、リーダー企業が採用したくても選択できない選択肢を勇気をもって実行することが重要だということを、改めて、メトロバンクのストーリーを知って思い知りました。

 

最後に、メトロバンクの共同創業者のバーノン・ヒル氏と、その奥さんであるシャーリー・ヒル氏の言葉を引用して締めくくります。

 

「イギリスの銀行家が同じようなことを始めようと考えたとする。彼は10人の友人を集め、10人のコンサルタントを雇い、なぜやれないのかを示す100の理由を考え出すだろう」

 

「大銀行は我々が何をしているのかを理解している。だが自分たちのビジネスモデルの分析となると、お決まりのROI分析を使うだけで、そのモデルがどのように機能しているかを明らかにできない。状況を打破するには、思い切ってやってみることが大事だ。だからこそ、たいていの物事はこれほど退屈なんだ。誰も思い切ろうとはしないからね」

 

「既存の銀行を見てください。みな同じことをして競争しています。ロイズのテーマカラーは緑、バークレイズは青ですが、扱う金融商品も、支店の営業時間も、何もかも同じなのです。それを競争と呼べるのかもしれませんが、顧客に選択肢があるとは言えません。私たちは選択肢を提示しています。やっていることが違うのです。

 

「メトロバンクは私たちのためではなく、顧客のために存在しています。私たちが行うことのすべては、顧客を喜ばせるためです。メトロバンクのメッセージ、姿勢、文化がそのあらわれです。多くの従業員がよその銀行を訪れ、写真を撮り、私たちに送ってくれます。『ひどいと思いませんか』という言葉とともに。私たちは、他の誰もやらないことをやっている。そう心から信じています

 

う~ん、本当にカッコいい…。こういう熱いビジネスを展開できるようになりたいですね!

 
≪参考図書≫

モノからコトへ。『フジロック』にマーケターが行くべき理由

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こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

みなさん、毎年、欠かさず楽しみにしている恒例イベントって、ありますか?

 

僕の場合、それはフジロックです!初めて参加したのは2014年だったのですが、その時の体験と衝撃がすごくて、それからは毎年参加するようになりました。今年も参加しまして、興奮覚めやらぬなか、このブログを書いています。

 

ちなみに、フジロックというと、どういう印象がありますか?

 

フジロックに参加する前の僕の印象だと、「音楽好きの玄人向けのフェス」というイメージでした。アーティストのラインナップも渋めの洋楽アーティストが多いし、場所(新潟県の湯沢町苗場スキー場)も遠いし、宿泊も必要だし、チケット代も結構高い(1日券で17000円、3日券で約4万円)。その結果、3日間全部参加しようとすると、宿泊費&交通費含め10万円近くかかってしまう…。そのため、音楽雑誌を愛読していて、タワレコに通うような、音楽にどっぷりハマっている人たち向けのフェスだと思っていたわけです。僕も音楽はもちろん好きですが、「フジロックはちょっと敷居が高いな…」と思って、特に関心をもっていませんでした。

 

しかし、会社の先輩から、「フジロックを楽しむには、別に音楽に詳しくなくても大丈夫!フジロックは”音楽フェス”という枠を超えて、色んな切り口から感動を提供してくれる。人の気持ちを動かすマーケターになりたいのなら、絶対に参加したほうが良い。というか、参加しなさい!」といったようなことをプレゼンされまして、すさまじい熱量に押され参加したのですが、全くその通りでした!

 

ということで、今回のブログでは、フジロッカー歴4年目と熟練フジロッカーズと比べると経験値はまだまだ低いですが、僕なりに「マーケターがフジロックに行くべき理由」を伝えていこうと思います。

 

時代は”モノ消費”から”コト消費”へ

さて、フジロックの話をする前に、マーケティングに起きている潮流の話をさせてください。「モノ消費”から”コト消費”へ」。こんな言葉を新聞やニュースなどで見かけることが多くなってきました。市場が成熟し、生活に必要なモノは、ほとんど手に入っている現代において、人々の関心は「モノ」の所有欲を満たすことから、経験や体験、思い出、人間関係、サービスなどの目に見えない価値である「コト」に移行してきているという話ですね。”物質的な豊かさ”から”ココロの豊かさ”に興味関心が移ってきているという話として、よく使われます。

 

確かに、FacebookやInstagramなどのSNS上の投稿を見ていても、「○○を購入したよ」とか「この●●(商品やブランド名)がおススメ」といったモノ起点の投稿より、「今日、こんな体験をした!」とか「こんな思い出ができました」といったコト起点の投稿のほうが圧倒的に多い印象がありますよね。マーケティングを行う側からすると、機能として満足を与えることはもちろん大事ですが、顧客のココロを満たす(動かす)ことの重要度が増してきているといえるでしょう。

 

どのアーティストが出演するかは二の次。フジロックという空間が好き!

「”モノ消費”から”コト消費”へ」ということを考えたときに、フジロックほど、”コト価値”を創出できている空間は、なかなかないと思います。

 

よく音楽フェスの話になると、「今年は、××(アーティスト名)が、○○のフェスにでるらしいから、○○に行こうぜ」という会話になることが多いですよね。音楽フェスに行く動機として、自分が好きなアーティストが出演するから参加するといった理由が大半を占めていると思います。でも、フジロックは、そうじゃないんですね。もちろん、出演するアーティストも大事ですが、フジロックに参加すること自体に大きな価値を見出している人がとても多いのがフジロックの特徴です。

 

まず、フジロックの魅力を語る上で、苗場の山々に囲まれた景観の素晴らしさは絶対に欠かせません!豊かな森と澄みきった渓流。都会に慣れ親しんでいるものにとって、とても開放的な空間が広がっているんですよね。また、夜の景色も幻想的で心をうたれます。森の中に飾り付けられた沢山のミラーボール。カラフルなイルミネーション・アートで彩られたボードウォーク。昼間とはまた違った魅力を感じることができます。そして、この最高のシチュエーションの中で織りなすライブアクトは、他のライブ会場と比べて別格の味わいをもたらしてくれます。

 

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そして、フジロックの魅力として、よく語れるのが、“ご飯の美味しさ”“会場のクリーンさ”です。「フェス飯」とも呼ばれる屋台での食事は昔から評価が高いようで、日本酒や”もち豚”といった地元・新潟の名産品が数多く出品されているのに加え、ヨーロッパやアフリカなど世界各国の料理が味わえるエリアなど、飲食のこだわりがスゴイ。そして、飲食が充実しているにも関わらず、会場にゴミが少ないんです!フジロックは「世界一クリーンなロックフェス」と世界中で評価されているほどで、来場者にはゴミの回収と分別に協力してもらうように、積極的に働きかけています。

 

また、フジロックの面白い点として、楽しみ方に縛りがないということもあげられるかと思います。フジロックは親子連れでも楽しめるように、会場内にキッズランドと呼ばれる子供が遊べる場所があったり、川遊びもできたりするので、子供たちと夏の思い出を作ることがメインという方もいれば、フジロックの会場を探索することがメインという方もいます。僕の知り合いの一人は、フジロックの空間で飲むビールと食べ物が”おかず”で、音楽は供え物のようなものだと断言していました(笑)

 

「苗場の美しい景色」、「参加者の会場に対するリスペクト」、「食事の美味しさ」、そして、アーティスト達による素晴らしいパフォーマンスが加わることで、フジロックは最高の空間を作り出しています。2016年9月に全世界の音楽フェスティバルを規模、経済効果、影響力、観客動員数から総合的に格付けしたランキング「世界の最重要音楽フェスティバルランキング」というのが発表されたのですが、「フジロック」は、なんと、世界第3位にランクインしているんです!これってスゴくないですか!?ちなみに、日本の他の音楽フェスだと、100以内に「サマーソニック・東京」が74位にランクインされていました。

 

来場者はフジロックの「価値共創者」

そして、僕がフジロックの素晴らしいところを語る上で、特に強調したいのが、来場者の皆さんのマインドです。先ほど、会場にゴミが少ないという旨を書きましたが、これは運営側の努力だけではなくて、来場者側の「フジロックを最高のフェスにしよう」「苗場の自然を大切にしよう」という意識が高いから成り立っていると思うんですよね。

 

「自分のことは自分で」「助け合い・譲り合い」「自然を敬う」

その上で、音楽と自然を自由に楽しみ、出演者、来場者、スタッフの全員で創り上げていくフェスティバル。それがフジロック・フェスティバルです。

 

この言葉は、フジロックを運営するスタッフの方々が、フジロックに参加する来場者に向けたメッセージとして掲げているものです。そして、20年を超える歴史の中で、フジロックを愛してやまないフジロッカーズに、このメッセージは浸透していき、まさに全員で創り上げているフェスティバルになっていると思います。ちなみに、フジロックの会場内にあるボードウォークは地元の人たちと共同でフジロッカーズのボランティアのメンバーで作っているそうで、まさにファンが参加するだけでなく、創り上げる側に回っていると言って良いでしょう。

 

常々思うのですが、”コト価値”を極めるには企業からの一方的な発信だけでなくて、顧客を巻き込んだ価値づくりが重要になってきていると僕は考えています。例えば、ディズニーランドも”夢の国”と呼ばれていますが、運営しているオリエンタルランドやキャストの努力だけでなく、訪れるゲストが、「ディズニーランドで素敵な思い出を作ろう」という想いのもと、“思いやり”をもった行動や、「ディズニーの世界観を楽しもう」という積極的な姿勢が“夢の国”を創りだしていると思うんですね。

 

ディズニーランド、スターバックス、無印良品…などは、顧客との”価値共創”を創りだしているブランドとして、マーケティングに関する書籍やニュースでモデルケース事例として取り上げられることが多いと思うんですが、僕は、その中に、フジロックも入れたほうが良いと本気で思っています。

 

最後に

このように、フジロックは奇跡的な空間を創り上げることに成功しているわけですが、フジロックも初めから今の状態があったわけではないし、今後もこの状態を繋げていくためには新しいチャレンジも必要なわけで、そこにマーケターとしては学ぶことがとても多いと思っています。

 

「顧客を感動させたい!熱狂させたい!」という志のあるマーケターの方は、是非、一回はフジロックに参加して、この空間を肌で体験してもらいたいです。熱狂は苗場にあります!

 

☆フジロックの風を感じることができる素晴らしいオフィシャル動画(こちらは2016年のダイジェストムービ。2017年版が楽しみ!)があるので、是非、見てみてください!

 


20th Anniversary FUJI ROCK FESTIVAL’16 Aftermovie

『乃木坂46』から学ぶ「競争優位を創る源泉」

こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

みなさん、いきなりですが、「乃木坂46」のメンバーの名前を5人以上、言えますか?

 

僕は、一ヶ月前、同じ質問を友人からされましたが、2人しか言えませんでした…。

 

その友人は広告会社に身を置いているのですが、「マーケターとして、世の中を熱狂させているトレンドに対するアンテナが弱すぎる!乃木坂から、ファンマーケティングのありかたをもっと学んだほうが良いよ」と力説されまして、そこまで言われたら調べてみるかと動きはじめて、はや一ヶ月……。

 

個人としても、マーケターとしても、メキメキとハマってしまいました(^O^)

 

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※著者撮影(約2万円ほどする、神宮ライブのDVD(完全生産限定盤)も購入してしまいました。なかなかのハマりようです!)

ブランドマーケティングの支援を行っていると、「いかに持続的な競争優位を獲得するか?」という話によくなります。様々なブランドがひしめく熾烈な競争環境の中で、自社の商品やサービスが利益をあげ続けるための優位性をどう創っていくのかという話です。

 

アイドル戦国時代と言われる現代において、アイドルグループ界の頂点に登りつめたといわれる乃木坂46…。これは、明らかに乃木坂が競争優位を築くことができているということですよね。

 

ということで、今回のブログでは、個人の主観的な仮説を大量に混ぜながら、「乃木坂46における競争優位の源泉とは何か?」ということと、「マーケターとして乃木坂から学ぶべきことは何か?」について、ファン初心者の身で恐縮ですが、心のままに展開していきます。

 

競争優位を構築するための3つの基盤

さて、乃木坂について論じる前に、競争優位を獲得するために必要な要素を整理したいと思います。競争優位や競争戦略というと、マイケル・ポーター先生が有名ですが、ポーター先生の理論をかみ砕き、”ストーリー”という視点を加えて執筆された『ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件』という書籍の内容が、非常にわかりやすかったので、引用させていただきます。

 

企業、または、ブランド(商品・サービス)が競争優位を築くための3つのポイントは、以下の3つ。

  1. 業界の競争構造
  2. ポジショニング (Strategic Positioning)
  3. 組織能力 (Organizational Capability)

 

「業界の競争構造」というのは、自社が身を置いている業界が、「もうかりやすい業界なのか?それとも、もうかりにくい業界なのか?」という話です。業界の競争構造を分析する方法としては、ポーター先生のファイブフォース分析が有名ですね。既存同業者との関係、新規参入企業の脅威、代替品の脅威、売り手の交渉力、買い手の交渉力…といった5つの視点から、業界内の競争構造を分析するという手法です。

 

「ブルーオーシャン戦略」という言葉にあるように、競合が少なく、外部環境からの圧力も低い、さらに参入障壁も高い最高の業界に身を置けば、それだけで持続的な競争優位が達成できるでしょう。ただ、そんなブルーオーシャンに身を置くことは、ほぼ夢のまた夢で、ほとんどの企業は競争の厳しいレッドオーシャンに身を置いています…。そのため、「業界の競争構造」以外の「ポジショニング」と「組織能力」が非常に重要ポイントになってきます

 

競争を勝ち抜くための本質としては、競合他社と”違い”を創り、“違い”を顧客に評価してもらうことです。書籍の中で紹介されていたレストランの例が、非常に分かりやすいのですが、他のレストランとは違うメニューやレシピを作り”違い”をはかるのが、「ポジショニング」。他のレストランとメニューは一緒だけど、厨房内やホールのオペレーションがすぐれ、競合と比べて質の高いサービスを提供することにより“違い”をはかるのが、「組織能力」です。

 

例えば、セブンイレブンは、コンビニ業界のなかで圧倒的なシェアを得ていますが、他のコンビニと比べて、「ポジショニング」での差は、ほぼないですよね。では、なぜ、ここまでセブンイレブンが強いのかというと、圧倒的に「組織能力」に要因があるわけです。様々な要因があると思われますが、最も重要なものとして語られるのが、「仮説検証型発注」と呼ばれる発注システムです。これは、コンビニの本部に発注を委ねるのではなく、各店舗の店長が地域の特徴をもとに発注内容を決め、本部がそれをサポートし、各店舗にとって最適な発注内容についてPDCAサイクルを回していくというシステムです。現在は、他のコンビニ各社も「仮説検証型発注」を模倣しようと取り組んでいるそうですが、セブンイレブンが、さらに先にいっていて、なかなか追いつけない状態だそうです。

 

セブンイレブンは、「組織能力」で競争優位を創りだしましたが、ベストな選択肢としては、「ポジショニング」と「組織能力」のどちらかを極めるというのではなく、「ポジショニング」で他社との”違い”を明確に創り、そのベクトルに沿って「組織能力」を高めていく掛け合わせができるのが理想です。

 

 乃木坂46における「ポジショニング」

ここから、乃木坂46に話を戻しましょう。乃木坂の場合、当たり前ですが、アイドル業界に身を置くことが前提にあるため、競争優位を築くためのポイント①「業界の競争構造」は期待できません。レッドオーシャンな業界の中で、戦っていくことが前提になります。ということで、②「ポジショニング」と③「組織能力」で競争優位を築いていく必要があるわけです。

 

さて、アイドルグループでポジショニングというと、でんぱ組のように『秋葉原文化との融合』や、BABY METALのような『ヘビメタとの融合』など、強いポジショニングを行うことで差別化をはかることは可能ですが、AKB48の公式ライバルとしてデビューした乃木坂は、秋元康さんがプロデュースで、大多数のメンバーが、センターなどの選抜の座をかけて争う、AKBグループのフォーマットを流用していることもあり、わかりやすい差別化が難しいという制約があります。

 

そんな制約下での乃木坂46のポジショニング。それは総合プロデューサーの秋元康さんがおっしゃっていたのですが、AKB48グループを体育会系だとしたら、乃木坂は女子高の文科系というポジショニングです。元気いっぱい、笑顔全開なアグレッシブな女の子たちが多いアイドルグループの王道のAKBと比べて、乃木坂46はアイドルっぽくない容姿端麗で自分のこだわりを大切にしていそうな女の子たちがアイドルとして頑張っているという印象です。

 

ミュージックビデオなどを見ていても、このポジショニングの差はでていて、例えば、AKBでYoutube上で最も再生回数の高い『Everyday、カチューシャ』のMVは、メンバーが水着で元気いっぱいに踊っていて、いかにもアイドル全開な印象です。それに比べ、乃木坂の夏のヒット曲である『裸足でSummer』のMVを見ると、上智、慶応、青山大学とかにいそうなセンスの良い女子大生たち(完全に主観ですw)が、おしゃれキャンプをして夏を楽しんでいる風景をまとめたような仕上がりになっています。

 


乃木坂46 『裸足でSummer』

 

このポジショニングの良いところは、これまでアイドルに関心が薄い層のファン獲得に成功しているという点です。特に言われているのが、容姿端麗でこだわりを持っているメンバーを意識的に採用した結果、まいやん(白石麻衣)の『Ray』や、なぁちゃん(西野七瀬)の『non‐no』など、多くのメンバーがファッション雑誌の専属モデルとして活動しており、女性からの支持を大きく得ているということです。乃木坂の握手会に行けば全体の2割が女性ファン。また、20万部以上売れた「白石麻衣写真集 パスポート」の購入者の3割は20代女性とのことです。

 

ファンを感動・熱狂させる「組織能力」の源泉 

ということで、独特の「ポジショニング」を築き、新しい層の顧客獲得にすることに成功した乃木坂ですが、これだけで、大きく成功したわけではなく、ポジショニングで定めたベクトルにそって、ファンを感動・熱狂させる「組織能力」が競争優位を築く上で原動力になっているのは間違いありません。

 

組織能力を高める要因としては、「”AKBの公式ライバル”という看板」と「AKB流のチームビルディング」が効いているのではないかと思っています。これは、秋元康さんがプロデュースをしていないと実行できないので、他のアイドルグループでは模倣したくても模倣が難しい要素です。

 

芸能人としてのキャリアも、グループとしての実績も何もない状態で、当時アイドルグループの頂点に君臨しているAKBの公式ライバルとしてデビューをし、SKEやNMB、HKTのように地域からの応援も期待できないなか、「AKBのようにブレイクできるのか?」という疑問符をなげかけながら、活動を続けていくプレッシャーは相当のものがあったと思います。

また、センターや選抜といった場所をメンバー間で競いあわせることで、AKB流のマネジメントにより、グループとしてはもちろん、メンバー各人のパフォーマンスの成長を大きく促したのではないでしょうか(メンバーたち自身は、ものすごく大変だったと思いますが)。そして、グループとして大きく成功した今でも、「AKB流のチームビルディング」によりとどまることなく成長を続けていると思います。

 

その様子は、『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』というドキュメンタリー映画を見ていただくと、よくわかると思います。オトナからプレッシャーをかけられる中、周りと比較されたり、自分と向き合ったり、いろんな想いを抱えながら、戦っているんだなぁと、心の底から感動しました…。(この映画、本当に多くの方に観てもらいたい。)

 


7月10日(金)公開『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』本予告/公式

 

最後に

独自の「ポジショニング」をとりながら、そのベクトルを強化し続ける「組織能力」も高い。乃木坂46が多くの人を熱狂させることができるわけです。もちろん、乃木坂の魅力はこれだけではないのは確かです。例えば、乃木坂は楽曲の素晴らさや、ダンスやライブでのパフォーマンスもそうですし、「NOGIBINGO!」や「乃木坂工事中」などのバラエティー番組での頑張りなど、他にも色んな魅力があると思います。ただ、持続的な競争優位を築けている要因として、この「ポジショニング」と「組織能力」というのは、大きな要因になっていると思います。

 

乃木坂46の躍進を見て、マーケターとして思うことは、しっかりと戦略を持つことの重要性です。『ストーリーとしての競争戦略』に、戦略の本質は「違いをつくって、つなげること」であると書いてありました。

 

「自分が担当しているブランド、商品、サービスと競合との”違い”は何なのか?」

「その”違い”を強化するために、どのような仕組みや組織体制が必要なのか?」

 

熾烈な競争環境が続く中で、ブランドの持続的な競争優位性を創っていくために、この2つを念頭に入れてマーケティングに取り組む大切さを、改めて教えられました! 乃木坂46をあまりキャッチできていないマーケターさん、是非チェックしてみてください。きっと学ぶことが多いと思いますし、応援したくなると思いますよ♪