感動するマーケティング

自治体や企業から相談が殺到! 読者と強いつながりを形成する『ことりっぷ』から学ぶコミュニティ・マーケティングの流儀

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 こんにちは。SNSやコミュニティなどを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 ( @kei4ide ) です。

 

コミュニティマネージャーとして活躍されている方々からお話を伺い、コミュニティを運用する際の考え方や、コミュニティがもたらす価値について学ぶ『コミュニティ・マーケティングの流儀』

 

今回お話を伺ったのは、『ことりっぷ』のWebメディアやアプリの立ち上げから、マーケティング戦略、コンテンツ企画、SNS活用、企業や自治体との共同プロジェクトなど、『ことりっぷ』のコミュニティ・マーケティング全体をプロデュースしている株式会社昭文社の平山高敏さんです。

 

『ことりっぷWeb - 週末に行く小さな贅沢、自分だけの旅。』

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『ことりっぷアプリ』

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『ことりっぷ』というと、「女子旅」とか、「おしゃれなガイドブック」というイメージを想起される方が多いと思いますが、なんとなく『ことりっぷ』らしさって、ありますよね。上手く言葉で表現しづらいですが、かわいらしく、ゆったりしていて、丸みがあって、無理をしていない感じというか。Instagramで「#ことりっぷ」をつけて投稿している方々の画像を見ても、このようなニュアンスの雰囲気が共通して含まれていると思います。


現在、この『ことりっぷ』が醸し出す雰囲気や世界観を核として、編集部や読者を横断した「ことりっぷコミュニティ」が形成され、コミュニティに価値を強く感じた自治体や企業から様々な相談が持ち込まれているそうです。今回は、平山さんから、コミュニティが生まれるまでの経緯や、コミュニティがもたした価値、コミュニティを形成する上で気を配っている点などをお伺いしました

 

コミュニティ・マーケティングを行う上でも、メディアビジネスのこれからを考える上でも、『ことりっぷ』の取り組みは学ぶことが多いと思いましたので、お読みいただけると幸いです。

 

『ことりっぷ』のコミュニティが生まれるまで

 まず初めに、これまでの『ことりっぷ』の歩みをご紹介させてください。『ことりっぷ』が創刊されたのは2008年。若い女性をターゲットに、掲載情報を厳選し、小型化・軽量化、シンプルでかわいいデザインを採用。この戦略が功を奏し、「女子旅」といえば『ことりっぷ』と代名詞になるくらいに旅好きな女性たちの間で大きな支持を得ていきました。今や、書店の旅行のガイドブックコーナーには『ことりっぷ』が必ず置かれていると言っても過言ではないですよね。

 

そして、「ガイドブックに載っていないところに行きたい」という好奇心が強い読者からのニーズに応えるために、2013年8月には『ことりっぷWeb』、2014年5月には雑誌の『ことりっぷマガジン』、そして、2015年にはアプリを開始。紙のガイドブックのように「エリア」ではなく、「テーマ」で区切った旅の情報や旬の情報を掲載し、「次の休みはどこへ行こう?」と考えている読者に向けて旅先を提案できるようになりました。

 

さらに、旅先で見つけたおススメスポットや、地元のお気に入りスポットを投稿し、共有し合える機能がアプリに備わったことで、『ことりっぷ』好きで、「旅に求めるもの」や「好きなもの」が近い人同士をつなぐコミュニティが形成されました。アプリでは自分が「イイね」と思う投稿を見つけたときに、投稿主の出身地をはじめ、その人の背景がわかるため、「熊本県出身なんですね!今後、行こうと思っているんです。他におススメのスポットはありますか?」といった具合に、ユーザー同士のQ&Aが多く生まれているそうです。アプリの現在のダウンロード数は約60万で、そのうちアクティブユーザーは約3割とのことで、オドロキのアクティブ率です。

 

このコミュニティが誕生したことで、編集部の方が気づかなかった地域の魅力を発見できたり、『ことりっぷ』編集部が作成する記事中に投稿されたスポットを紹介することで、「ことりっぷが、私のお気に入りスポットを紹介してくれた!」とユーザーから喜んでもらえたりと、コミュニティを通して、お互いがハッピーになれる関係が築けているそうです。

 

『ことりっぷ』ではコミュニティを更に発展させるため、アプリ上で多くの支持を集めている人気ユーザーを招いた交流会や、イベント、ワークショップなど、リアルな場でのつながりを持てるイベント企画も積極的に開催しています。定員に対して数倍の応募が殺到することも多いそうです。実際に、イベントでユーザーの方々とお会いすると、コミュニケーション能力の高い人が多く、イベントでの参加者同士の情報交換も盛んなようで、ユーザーの方々とのやりとりで、嫌な思いをしたことは一度もないとのことです。

 

紙のガイドブックという編集部から読者への一方通行の情報発信から始まった『ことりっぷ』ですが、コミュニティを通じて、読者と一緒に『ことりっぷ』らしさを創っていくスタイルに徐々にシフトをしていっています。

 

読者との「強いつながり」に価値を感じ、様々な企業・自治体がコラボを打診

そして、この読者との「強いつながり」に価値を感じ、現在、毎週のように様々な企業や自治体から『ことりっぷ』とのタイアップやコラボの企画が持ち込まれているとのことです。

 

例えば、「観光客を誘致したい」、「地域に興味をもってほしい」といった課題をもつ自治体から編集協力という形で経費を肩代わりいただき、その地域を取材し、新しい魅力を掘り起こすための『ことりっぷ』らしい旅行プランを作成したり。また、ファッションブランドや食品などで、『ことりっぷ』が醸し出す雰囲気・世界観を自社ブランドにも取り入れていきたい企業が『ことりっぷ』とコラボレーションをしてグッズを作成することも増えてきているそうです。

 

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※(『ことりっぷWeb |「カルビーぽてとりっぷ」×「ことりっぷ」がコラボ♪ 4つのご当地味が本日発売』よりスクリーンショット)

 

従来型のメディアのマネタイズ手段である記事広告といった手段だけでなく、『ことりっぷ』では、読者との「強いつながり」を築いているため、例えば、『ことりっぷ』らしさを知り尽くしたユーザーの方々を招いたモニターツアーを開催したり、そういった方々を対象にリサーチを実施したり、一緒に商品企画をしたりと、様々な提案が依頼主の自治体や企業にできるわけです。

 

現状、『ことりっぷweb』の月間PVは約1,000万、月間のユニークユーザー数は約100万人とのことですが、「大事なのはPVそのものではなく、読者の心がどう動いたか、どんな行動に結びついたか。それを丁寧に拾うことで、PVとは違った指標で価値を提案していけると考えています」と平山さんはおっしゃっていました。

 

僕も、この考え方には大賛成で、PVやUUの数を競い合う「量」の競争は消耗戦になってくると思っていて、読者と世界観や価値観を共有し、読者の気持ちや行動に影響を与える「質」が、これからのメディアの価値として問われてくると思っています。そういう意味で、「ことりっぷ」の一連の取り組みは、メディアビジネスを考えるうえで、学ぶべきことが非常に多いと思います。

 

『ことりっぷ』のコミュニティが活性化している要因

それでは、なぜ『ことりっぷ』は読者との「強いつながり」を形成することができたのかについて話をすすめていきましょう。『ことりっぷ』というブランドを軸としたコミュニティがここまで盛り上がった理由は何なのかという話です。お話を伺う中で、僕は大きくは以下の3点が要因として大きいのではないかと思いました。

 

◇要因①:ブランド力を磨いてから、コミュニティをスタート

「ブランド力が強い」というと漠然とした響きになると思いますが、ブランド力というのは、主に以下の要素の掛け合わせになります。①ブランド認知(ブランド名の知名度)、②ブランド連想(ブランド名を聞いた時に連絡するイメージの強さ)、③知覚品質(連想した際のイメージ通りの品質・体験を提供できているか?)、④ブランドロイヤリティ(ブランドに対する愛着度)。

 

『ことりっぷ』の場合、コミュニティを始める前に数年をかけて、このブランド力をしっかり蓄えているわけですね。どの本屋さんに行っても販売されている『ことりっぷ』の知名度(①)。『ことりっぷ』といえば、「女子旅」だし、忙しなく観光地を回るのではなく、心地よいペースで、かわいいスポットを巡るといったイメージの結びつきの強さ(②)。『ことりっぷ』を持って旅をしたときの心地よさを体感した人が多数存在(③)。結果、『ことりっぷ』は旅好きな女性を中心に大きな支持を集めている(④)。

 

おそらく、『ことりっぷ』がコミュニティを紙のガイドブックの創刊と同じタイミングで立ち上げていたら、ここまで強いコミュニティの形成はできていなかったのではないかと思います。しっかり、『ことりっぷ』らしさを醸成して、それに強く共感している読者の方々がコミュニティに集まっているからこそ、トラブルもなく、強固なコミュニティが築けていると思うんですね。

 

自社ブランドのコミュニティを立ち上げたいという時に、現時点における自社ブランドのブランド力を計算せずに立ち上げてしまって、結果、ヒトが集まらないとか、メンバーの方向性がバラバラでまとまらず、結果、失敗するというケースが多いように僕は思います。そのため、ブランドを軸としたコミュニティを立ち上げる際には、ブランド力をある程度磨きあげてから、立ち上げるということを強くオススメしたいです。

 

◇要因②:主催者側が、コミュニティの方向性を明示し続ける

『ことりっぷ』コミュニティは、『ことりっぷ』らしい価値観で旅や生活をとらえている仲間たちが集まっているからこそ、分かり合えるし、通じ合えるし、その結果、心地よいコミュニティが醸成できているわけです。つまり、『ことりっぷ』らしさをメンバーがある程度共有できていることがコミュニティを形成する上で重要になっているということですね。

 

しかし、この『ことりっぷ』らしさというのは、ボンヤリとしたものなので、例えば、昔からコミュニティにいるヒトと、新しくコミュニティに加入した方の間にギャップが生じる可能性もありますよね。加入タイミングによる差、世代間の差、住んでいる地域による差、様々なポイントでズレが生じる可能性があるわけです。

 

そのため、『ことりっぷ』では、「"らしさ"って、こういうことですよね」だとか、「こっちの方向に向かいますよ」といったメッセージが含まれたコンテンツを編集部から発信し、『ことりっぷ』らしさをコミュニティ内で共有できるように心がけています。その一つの手段として注力しているのが、「タネ」と呼ばれている編集部のコラム記事です。

 

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※(『ことりっぷWeb |ことりっぷweb編集部のコラム「タネ」。 』よりスクリーンショット)

 

このようなコラム記事を中心に、『ことりっぷ』らしさをコミュニティ内で共有し、コミュニティに生じるズレを締めていっているんですね。もちろん、ヒトによっては編集部が発信した『ことりっぷ』らしさに対して、「私の思っている『ことりっぷ』らしさとは違う…」と違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、コミュニティを健全なものに保っていくために、あえて振り返らないようにしているとのことです。

 

コミュニティを運営して参加人数が多くなってくると、どうしても様々な価値観をもつ人が増えていきます。その中で、このコミュニティは、「どこを目指しているのか?」、「どういう場であるのか?」といったコミュニティが向かっている方向性を明示していかないと、コミュニティはバラバラになってしまいます。

 

「メンバーが自走していくコミュニティを目指したい」といった声をよく聞きますが、どんなにコミュニティメンバーが自走していても、コミュニティの方向性を明示するという「舵取り」の役割をコミュニティマネージャーは手放してはいけないと思います。『ことりっぷ』は、この舵取りを懸命におこなっているからこそ、「強いつながり」をもったコミュニティを形成できているわけですね。

 

◇要因③:コミュニティリーダー(スターユーザー)に真摯に向き合う

『ことりっぷ』のコミュニティには、「スターユーザー」と呼ばれる編集部公認の『ことりっぷ』らしい投稿を積極的に発信してくれるメンバーの方々がいらっしゃいます。編集部と一緒になって、『ことりっぷ』らしさをコミュニティに発信し、コミュニティを活性化してくれるコミュニティ・リーダーのような存在の方々です。現在、スターユーザーは40名ほど、いらっしゃるそうです。

 

平山さん達がスターユーザーを選定するときの条件としてあげているのは、大きく以下の3つです。

  1. 『ことりっぷ』っぽい投稿ができているか?(写真だけでなく、文章も見ているそうです)
  2. 投稿に対して、他のユーザーから共感が生まれているか?(「いいね」がついているか)
  3. 他のユーザーからコメントがあった場合、丁寧に対応しているか?

 

そして、この条件に該当するユーザーの方々に対して、「『ことりっぷ』の価値を一緒につくっていく仲間として活動していただけませんか?」と、編集部から声をかけ、自分たちの想いを伝え、スターユーザーとして活動いただくようにしているとのことです。東京近郊にお住まいがある方であれば、基本的にお会いして、編集部の想いを伝えることに努めているそうなんです。

 

その努力もあって、スターユーザーの方々の投稿を見ると、まるで『ことりっぷ』のガイドブックを読んでいるような感覚になる投稿ばかりなんですよね。実際、『ことりっぷ』の編集部のほうでもスターユーザーの方々が投稿した写真を、紙面やWeb記事で使わせていただいたり、紹介させていただくことも多いそうです。また、ユーザーからのコメントに対しても丁寧に返信されていて、コミュニティ活性化の大きな要因にスターユーザーの方々がなっているのがわかります。

 

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※(『ことりっぷアプリ』よりスクリーンショット)

 

また、このように活躍してくれているスターユーザーの方々に対して、『ことりっぷ』編集部では、感謝の気持ちをこめて、新しい旅の魅力を発見してもらうモニターツアーに優先的に参加していただいたり、スターユーザーを集めた謝恩会を開いたりしているそうなんですね。

 

コミュニティの活性化を考えると、コミュニティマネージャーを含めた主催者以外で、コミュニティの盛り上げ役を務めていただけるコミュニティリーダーの存在が重要になるのは間違いありません。僕が思うリーダーに求めたい基準は3つで、1つは、コミュニティが掲げるミッションへの強い貢献欲求があること。2つ目は行動が伴うこと。3つ目はフォロワーが生まれていること。まさに、『ことりっぷ』では、この基準に合致しているユーザーの方々を、スターユーザーとして、丁寧に真摯に誠実に、仲間として迎え入れ、コミュニティを盛り上げる役割を担っていただいているんですよね。

 

コミュニティリーダーの育成に課題をもっているコミュニティマネージャーの方は、『ことりっぷ』の取り組みは学ぶところが多いのではないかと思います。

 

まとめ

 ということで、『ことりっぷ』の取り組みを紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?

 

…と、メディアの在り方について語る平山さん。「メディアのコミュニティ化」という話が様々なところでなされているように、メディアビジネスを行う中で、読者との強いコミュニティを形成ができるかどうかはメディアの価値を語る上で欠かせないテーマになってきています。平山さんが語るメディアが長く愛される存在になるために必要な4つの要素(世界観、テーマ、背景、愛情)はメディア運営の話ではなく、コミュニティ運営においても必要となる4要素だと捉えることができると思います。

 

みなさんも、自信が運営するコミュニティの価値を高めていくために、この4要素に対して向き合っていただきたいと思います。

 

最後に、平山さん、お話しを聞かせてくれてありがとうございました!!

『ことりっぷ』の取り組みが、皆さんのコミュニティの企画や運営にとってプラスになれば幸いです。

今回の「コミュニティ・マーケティングの流儀」は以上となります!