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銀行に熱狂!? 英国銀行『メトロバンク』のチャレンジャー戦略がヤバい

こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

マーケティングについての理解と知識を深めようと、日々、様々な書籍を読み漁っているのですが、「この会社の戦略はスゴい…。チャレンジャー戦略の鏡だ!」と驚愕した海外企業のケースを発見しました。

 

みなさん、イギリスの銀行『メトロバンク(METRO BANK)』をご存知ですか?

 

ロイズ、バークレイズ、ロイヤルバンクなどの大手銀行「ビック5」がひしめくイギリスにおいて、1世紀ぶりに誕生した新銀行で、2010年に開業してから破竹の勢いで急成長。現在、イギリス全土で店舗を展開しており、イギリスで最も活気ある金融サービスブランドと呼ばれているそうです。

 

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※「メトロバンク」公式サイトよりスクリーンショット

 

まず、何がすごいかって、「Changing the way Britain banks (ばかげた銀行ルールを変える) 」という『メトロバンク』のミッションです。「これまでの銀行は、業界のルールに縛られており、顧客目線になっていない。顧客にとって必要とされる銀行サービスを提供するのが我々メトロバンクである」という、挑戦的かつ刺激的な旗印を掲げています。顧客向けのコーポレートスローガンが『JOIN THE REVOLUTION』ですよ。日本の銀行で、こんな刺激的なスローガン、見たことないですよね。

 

大手銀行の縄張りだった市場に風穴をあけて、急成長しているメトロバンク。大手企業がひしめく業界において、シェアを獲得していきたいチャレンジャー企業やブランドにとって、非常に学びの多いケースだと思いましたので、今回のブログでは、『メトロバンクのチャレンジャー企業としての競争戦略』について紹介させていただきます。

 

顧客を熱狂させるサービス

 

メトロバンクが戦略を立てる上で、目を付けたポイント。それは営業時間が短いこと、そして行員の態度が悪いことなど、多くの生活者が既存の銀行サービスに対して強い不満をいだいていることでした。働いている人や子育てをしている人、長時間通勤をしている人にとって、銀行が平日の午前10時から午後4時までしか空いていないのは非常に不便です。おまけに、銀行の窓口担当者の態度は、お世辞にも愛想がいいとは言えない状況のようで、やたらと横柄な態度をとる銀行員は、イギリスのコメディーの定番キャラクターとなっていたそうです。

 

実際、ロンドンのキャス・ビジネススクールのレポートによれば、イギリスの個人口座の77%、法人口座の85%を占めている大手銀行のビッグ5には、2008~2014年半ばに2100万件の苦情が寄せられたそうです。大手銀行は、やる気のない従業員、不満を抱える顧客、世間からの信頼の低さなど、「長年培われた悪しき文化」の中でもがき苦しんでいて、この文化を一掃するには数十年はかかるだろうとレポートは警告していました。

 

そこで、メトロバンクは大胆にも、祝日で休むのはクリスマスなど年4日だけ。それ以外は年中無休で、営業時間は平日が朝8時から夜8時まで。土曜日は夜6時まで、日曜日は午前11時から午後4時まで店を開くという業界の常識を覆す方針をとったのです。

 

そして、イギリスの銀行というと、対応の遅さと長蛇の列が有名だそうで、口座の開設では、大手銀行だと1週間後の予約しか取れない場合もあるそうですが、メトロバンクでは予約は必要なく15分で口座を開設でき、デビットカードとクレジットカードも即時発行されるとのこと。そして、なんと、そのスピードを活かして、ドライブスルーの店舗まで作っているそうです!これは、スゴい!

 

このようなサービスだけでなく、顧客体験を高めるために、現場のスタッフは陽気なサービス精神を発揮し、笑顔で元気よく顧客を迎えるよう教育されており、イギリスの銀行で初めてペット同伴の来店を歓迎しただけでなく、子供にはキャンディーを、ペットの犬にはビスケットまで配っているそうです。そして、店舗空間も顧客に親しみを感じてもらえるように、店舗は全面ガラス張りの洗練された建物で、店舗の中の様子が分かるようになっています。そしてスタッフのドレスコードは、女性スタッフは赤いドレスに黒のブレザーか、黒いドレスに赤のブレザー。男性スタッフは白いシャツに赤いネクタイのスーツ姿で統一。お固い銀行の印象は全然感じませんよね。

 

▼こちらの動画をご覧いただくと、メトロバンクの目指しているものや、サービスの具体的なイメージをつかんでいただけると思います。


The Metro Bank Journey

 

メトロバンクの店舗内には、「NO STUPID RULE」という書かれたサインが様々なところにありますが、既存の大手銀行の馬鹿げたルールに飽き飽きしていた生活者の心をメトロバンクはガッチリと掴んでいるんですね。 

 

 メトロバンクが選んだトレード・オフ 

でも、ここで考えてほしいのが、ほぼ年中無休で、朝8時から夜8時まで営業するというのは、人件費をはじめ、コストが大きく膨らみますよね。ビッグ5が営業時間を限定してきた最大の要因は、長時間営業を実施することのコストが主な原因でした。

 

では、メトロバンクはどうやって長時間営業を実現したのか? その秘密は、商品設計にあります。メトロバンクは出店先のすべての地域で、預金金利を最低水準に設定していて、これにより浮いた資金を活用して、営業時間の拡大を成し遂げているそうです。つまり、ビッグ5と比べて、メトロバンクに預金しても利息は少なく、預金金利の面では、極めて低水準なサービスしか提供しないかわりに、営業時間の面では飛び抜けたサービスを提供するという選択肢をとっているのです。

 

また、顧客対応の面でも、このようなトレード・オフをとっています。例えば、銀行の現場スタッフとしてベストな人材としては、接客態度と業務処理能力の両面で最高レベルの人材ですよね。だけど、有能で愛想がいいスタッフは、どの企業からも需要が高いので、このようなスタッフを雇おうとすると、採用費で膨大なコストがかかってしまう。

 

そのため、メトロバンクでは、業務処理能力は課題があっても、情熱とコミュニケーション能力に長じた人材を採用することにしました。こうしてフレンドリーで熱心なスタッフをそろえた結果、メトロバンクのスタッフは笑顔で顧客を出迎えて、待ち時間に読むための新聞を手渡し、雨の日は顧客の車の前まで見送るなど、他の銀行と違って、親切で、愛想がよくて、優しいといったポジティブな評判が広がっていったのです。

 

その反面、業務処理能力に長けた人材が手薄になるというマイナス面も発生します。銀行で取り扱うのは、専門性の高い金融商品が多いので、専門知識や技能が乏しければ、顧客に手際よく商品を説明するのは難しいですよね。そこで、メトロバンクでは、取り扱う金融商品の種類を徹底的に絞り込んでいるそうです。従来の銀行業界が重視してきた取扱商品の豊富さという面では、圧倒的に最下位です。しかし、このような思い切った選択をとったからこそ、驚くほどフレンドリーな接客を実現できているわけです。

 

すべてが最高には無理がある。切り捨てる勇気を持つ

マイケル・ポーターの「戦略の本質(1996年)」という有名な論文の中にトレード・オフの重要性が、このように書かれています。

 

“ マネジャーたちは「トレード・オフは解消することが望ましい」という考え方を身につけてきた。しかし、トレード・オフがなければ、持続的優位は獲得できない。 ”

 

“戦略とは、競争においてトレード・オフを作ることなのである。 ”

 

つまり、ビジネスにおいて選択肢があった際に、競合他社が躊躇するような選択肢を勇気をもってとれるか? これかそが競争戦略を策定する上で、欠かせない要素ということです。トレード・オフがないところに、差別化は創れないし、持続的な競争優位も生まれないということですね。

 

ただ、これって言うのは簡単ですが、実際は難しいです…。僕も会社で担当しているサービスのこれからの戦略についてメンバーと話し合うことが多いのですが、やっぱり、サービスを提供する側からすると全ての面で良いサービスを顧客に提供したくなってしまうんですよね。また、どこかの部分で質を落とすことに対する不安もあります。「本当にここを捨ててしまって良いんだろか…。これによって顧客離れが起きないだろうか…。」、 そんな思いに苛まれ、結局、どっちつかずの選択肢をとってしまうことも多いです。

 

しかし、メトロバンクしかり、サウスウエスト航空やザッポスなど、大手企業がひしめく業界に風穴をあけて躍進していると称賛されている企業は、どこかで戦略的にトレード・オフをとっているんですよね。僕の敬愛する「よなよなエール」でお馴染みのヤッホーブルーイングのてんちょ(井手直行社長) もトレード・オフの重要性をセミナーなどでよく語っています。

 

やはり、経営資源の量や、規模の経済ではかなわないチャレンジャー企業は、顧客視点でリーダー企業に対して(もしくは市場に対して)、顧客が抱えている不満やニーズを見出し、リーダー企業が採用したくても選択できない選択肢を勇気をもって実行することが重要だということを、改めて、メトロバンクのストーリーを知って思い知りました。

 

最後に、メトロバンクの共同創業者のバーノン・ヒル氏と、その奥さんであるシャーリー・ヒル氏の言葉を引用して締めくくります。

 

「イギリスの銀行家が同じようなことを始めようと考えたとする。彼は10人の友人を集め、10人のコンサルタントを雇い、なぜやれないのかを示す100の理由を考え出すだろう」

 

「大銀行は我々が何をしているのかを理解している。だが自分たちのビジネスモデルの分析となると、お決まりのROI分析を使うだけで、そのモデルがどのように機能しているかを明らかにできない。状況を打破するには、思い切ってやってみることが大事だ。だからこそ、たいていの物事はこれほど退屈なんだ。誰も思い切ろうとはしないからね」

 

「既存の銀行を見てください。みな同じことをして競争しています。ロイズのテーマカラーは緑、バークレイズは青ですが、扱う金融商品も、支店の営業時間も、何もかも同じなのです。それを競争と呼べるのかもしれませんが、顧客に選択肢があるとは言えません。私たちは選択肢を提示しています。やっていることが違うのです。

 

「メトロバンクは私たちのためではなく、顧客のために存在しています。私たちが行うことのすべては、顧客を喜ばせるためです。メトロバンクのメッセージ、姿勢、文化がそのあらわれです。多くの従業員がよその銀行を訪れ、写真を撮り、私たちに送ってくれます。『ひどいと思いませんか』という言葉とともに。私たちは、他の誰もやらないことをやっている。そう心から信じています

 

う~ん、本当にカッコいい…。こういう熱いビジネスを展開できるようになりたいですね!

 
≪参考図書≫