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48期連続増収増益!奇跡の会社『伊那食品工業』の「戦わない経営」とは?

こんにちは!様々な業界の企業様を対象に「顧客から愛されるブランド」になるための戦略策定や後方支援を行っている井手と申します。

 

企業の経営の在り方について話をするときに、よく「近江商人の三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」を引用して熱く語る経営者や事業担当者の方って多いですよね。この考え方は、素晴らしいと思いますし、否定する人は、ほとんどいないと思います。

 

でも、当たり前ですが、これを実現するのは、なかなか難しいですよね。企業の成長が優先され、高い利益目標が課せられる中で、顧客はもちろん、従業員、仕入れ先など、全てのステークホルダーが皆ハッピーになる状況を創りだすのは、困難の極みです。しかも、技術環境が刻々と変わり、グローバル規模での影響を受ける現代において、三方よしの状況を中長期的に持続させることは“奇跡”といっても過言ではないでしょう。

 

その中で、従業員や地域から支持され、さらに、48期連続増収増益を成し遂げている、まさに奇跡の会社が存在しているということを、最近知りました。48期連続ですよ!48期!

 

みなさん、『伊那食品工業』という寒天メーカーをご存知でしょうか?

 

伊那食品工業は長野県伊那市に本社があり、従業員数が500名程度の地方の中小企業です。ところが、この会社は寒天の製造で国内シェア80%、世界シェア15%を占めている寒天の世界的トップメーカーで、48年間増益増収、しかも、売上高経常利益率は10%以上という経営の教科書でお手本にすべき偉業を達成しています(現在の年商は約200億 ※2016年12月期)。この偉業の秘密を探ろうと、様々な業種・業態の経営者の方々が頻繁に視察に訪れているそうで、あのトヨタの豊田章男社長も伊那食品工業の経営から学んでいることが多いとのことです。

 

この伊那食品工業の素晴らしいところは、単に経営の数字だけではなく、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是にしていて、創業以来一度もリストラを行わず、同業者とも戦わず、とことん環境に配慮した工場をつくるなど、社是を具体化した経営で成長していることです。

 

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※著者撮影 

 

伊那食品工業のことを知ってから、「顧客から末永く愛される企業やブランドを世の中に多く生み出していきたい」と志すものとして、この企業の存在をもっと多くの人に知ってもらいたいと思うようになりまして、今回のブログでは、目先の利益より、社員の末永い幸せを築くために伊那食品工業が貫いてきた「戦わない経営」について紹介したいと思います。

 

☑無理な成長は追わない

 

繰り返しになりますが、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是に掲げている伊那食品工業。この社是を実現するために、創業者である塚越会長は、3つの経営方針をつくったそうです。

 

最初の1つ目は、「無理な成長は追わない」ということ。これは、景気やトレンドに踊らされないことを意味しています。普通、好景気や業界的に追い風の時には、攻めの経営で設備投資や人員の増強などに、お金をかけたくなってしまうのがヒトの性ですよね。しかし、状況が変わって、不景気や向かい風になると、それが過剰投資という事態をまねき、人件費の削減やリストラを敢行したり、ラインを動かすために大幅なディスカウントに走るなど、企業やブランドの価値や信頼を落とす結果になってしまうことが多々あります。

 

もちろん、顧客や社会から求められる商品やサービスを提供するという面で、世の中の動きをキャッチすることは重要です。ただ景気やトレンドは日々変わっていくものであるという前提に立ち、自分たちの目指す姿に対して、何をすべきかを冷静に考えよとおっしゃっているわけです。

 

会社の業種や規模、歴史や時代背景、マーケットの変化、地球環境、かかわる人々の幸せ、人に迷惑をかけないことといった視点まで含めて、総合的に判断して「最適成長率」を見極めることが、経営にとって重要だと塚越会長は言います。成長のない企業には夢がなく、すぐれた人材も集まらないし、企業内の士気もやる気も育たないので、成長することが重要だということは、百も承知です。ただ、やみくもに成長をすることを善とせずに、社員の能力や会社の体制を整えながら、景気やトレンドに流されずに、一歩一歩着実に成長していこうということですね。

 

この方針にそって経営していることがよくわかるエピソードが、2005年の寒天ブームです。「○○が体にいい」「××で血液をさらさらに」など、テレビや雑誌では様々な食材が取り上げられブームになりますよね。2005年には、その白羽の矢が寒天に当たり、「カロリーが低くてダイエットにいい」などと紹介されたわけです。伊那食品工業は寒天のトップメーカーですから、全国各地から注文が殺到しました。普通なら、注文が殺到すれば増産しようということになると思いますが、塚越会長は「すべて断ってください。これは一過性の流行です。必ず廃れ、そのあとには必ず嫌なことが起こる。その時に社員を犠牲にしたくない」と明言したそうです。

 

「ご注文いただいて、ありがとうございます。しかし、わが社が一番大切にしているのは社員です。社員に残業させることはできませんので、せっかくのご注文ですが今は対応できません」と、電話や手紙で謝罪したりしながら注文を断っていたそうですが、社員の方々から、「商品がほしくて困っている人たちがいるのですから、応えてあげましょう。社長が私たちのことを気にしてくださっているのは十分わかっています。私たちはかまいませんから」という声があがり、結局増産することにしましたが、社員にとって無理のない範囲内にとどめたそうです。翌年、塚越会長が予想した通りブームは去りましたが、伊那食品工業にとって、少しも慌てることはなかったと塚越会長はおっしゃっています。

 

☑創った人の苦労と喜びを正しく伝える

 

また、「無理な成長は追わない」という軸で、とても印象深いのが、製造している寒天商品を一般の大型スーパーで売らないという点です。伊那食品工業では「かんてんぱぱ」というブランドを展開して、200~300種類の商品アイテムを持っています。「かんてんぱぱ」の存在を知った大手スーパーから、「とても良い商品なので、ぜひ、我々のスーパーで売らせてほしい」と交渉が入ることが多々あるそうです。

 

しかし、伊那食品工業は、創った人の喜びと苦労を正しく顧客に伝えたいという想いにのっとり、生産から顧客の販売まで一貫して行う事業の在り方を目指しています。現在は、通販での販売を始め、本社工場や全国の営業拠点に併設した場所で直営の店舗を構えており、それ以外のルートでの販売はしていません。単に商品を売るのではなく、商品を創る上での想いを顧客と共有してこそ価値があるという考えなので、自分たちのコントロールが効かない流通経路はとらない方針なんですね。

 

僕も、初台駅近くの東京営業所の1階にある「かんてんぱぱカフェ 初台店」にお邪魔させていただいたのですが、「かんてんぱぱ」の各商品の詳しい説明はもちろん、試食コーナーが充実していたり、商品の楽しみ方を伝える冊子や、伊那食品工業の社内報も配っていたりと、お客さんに商品や自社の想いを伝えようとする姿勢を強く感じることができました

 

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※著者撮影 ( 「かんてんぱぱカフェ 初台店」にて) 

 

全国展開している大手スーパーの注文を受ければ、年間で、何十億単位の売上がもたらされる可能性もありながらも、誘惑に負けずに自分たちの目指す成長にあった道を選ぶ。正直、なかなか、この決断はできないですよね…。ほとんどの会社は1年単位や、3年単位の事業数値を追いかけていますし、特に株主からの圧力が強い場合は、目先の利益に飛びついてしまうことが多いと思います。上場していないからこそできるといえば、それまでかもしれませんが、この中長期的なビジョンを持ち、トレンドや誘惑に踊らされない姿勢こそが、伊那食品工業が持続的に成長できている要因として大きいのではないでしょうか。

 

☑オンリーワンな存在になり、敵をつくらない

 

3つの経営方針の残り2つは「敵をつくらない」ということと、「成長の種まきを怠らない」ということです。

 

「競合からシェアを奪え!」とか、「他社を圧倒しろ!」といった怒号に近い言葉が飛び交い、同業者を“商売敵”と呼ぶことも多いビジネスにおいて、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」を目指す伊那食品工業は、なんと、自社の繁栄の陰で泣いている企業やヒトがたくさん存在していることを前提とした成長は目指さないと公言しているのです!

 

そのためには、他社と同じ土俵に立たないように、この世になかった商品、他社では真似できない商品、しかも、顧客や世の中の需要を満たすオンリーワンな商品を開発し続けないといけません。そのために、注力しているのが、「成長の種まきを怠らない」ことです。これは、“研究開発”のことをさしていますし、“社員への投資”のこともさしています。

 

研究開発においては、「人材の1割を研究開発に」をテーマに、社内に研究室を設け、研究者を育て、寒天の原料である海藻や生産技術の本格的に取り組んできたそうです。その結果、食品以外にも、化粧品や医薬品、あるいは細胞培養するための素地など、さまざまな事業展開につながっているそうで、利益成長の土台となっています。

 

また、寒天の新しい用途開発やマーケティング展開を行うために、社員の方々に、さまざまな経験や、体験をしてもらうように心がけているとのことで、よその会社の工場の見学や、異業種が交流する研究会や講演会への参加をはじめ、寒天の原料の現地であるインドネシアやロシアへの出張も積極的に促しているとのことです。

 

特に、「スゴイな!」と思ったのが、伊那食品工業では、1973年から毎年1回ずつ、国内と海外への社員旅行を交互に続けているそうです。慰安や社員同士の親睦をはかることも目的に含まれていますが、一番の目的は社員の見聞を磨くことのようで、上質な空間を知ることで、マナーを身につけ、モラルを高めてもらいたいという想いから宿泊施設や食事は質の高いところをあえて選んでいるとのことです。社員旅行から帰ってきた社員がニコニコしながら、塚越会長曰く「とっても有意義でした!」とか、「社長、最高でした!」と言ってくれていて、社員のやる気や志気、そしてモラルを高めることができているとのことです。

 

このように、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」という社是に対して、全くブレない経営をしていることを知り、僕は心の底から感動しました。もちろん、スタートアップの企業や、業界内における一定のポジションの獲得を目指している状態の企業であれば、貪欲に成長を目指すというのも正しい姿だと思いますが、市場全体が成熟を迎え、モノの豊かさからココロの豊かさを求めはじめている現代において、伊那市食品工業の経営姿勢は学ぶべきところが多いと思います。

 

21世紀のあるべき経営者の心得

 

最後に、伊那食品工業の塚越会長が自分の経営に対する考えを綴った著著『いい会社をつくりましょう』の中に書かれている「21世紀のあるべき経営者の心得」を紹介したいと思います。

 

  1. 専門のほかに幅広く一般知識をもち、業界の情報は世界的視野で集めること。
  2. 変化し得る者だけが生き残れるという自然界の法則は、企業経営にも通じることを知り、すべてにバランスをとりながら常に変革すること。
  3. 永続することこそ企業の価値である。急成長をいましめ、研究開発に基づく種まきを常に行うこと。
  4. 人間社会における企業の真の目的は、雇用機会を創ることにより、快適で豊かな社会をつくることであり、成長も利益もそのための手段であることを知ること。
  5. 社員の士気を高めるために、社員の「幸」を常に考え、末広がりの人生を構築できるように、会社もまた常に末広がりの成長をするように努めること。
  6. 売り立場、買う立場はビジネス社会において常に対等であるべきことを知り、仕入先を大切にし、継続的な取引に心がけること。
  7. ファンづくりこそ企業永続の基であり、敵をつくらないように留意すること。
  8. 専門的知識は部下より劣ることはあっても、仕事に対する情熱は誰にも負けぬこと。
  9. 文明は後戻りしない。文明の利器は他社より早くフルに活用すること。
  10. 豊かで、快適で、幸せな社会をつくるため、トレンドに迷うことなく、いいまちづくりに参加し、郷土愛をもちづつけること。

 

どうですか? とても、素晴らしい心得だと思いましたし、このような心得をもった経営者の方々が一人でも多く存在するようになったら、もっと豊かな社会になるのではないかと思います。

 

「より大きく、より早く」と成長を急ぐ気持ちもわかるのですが、目の前の従業員や関係者の幸せを考えながら、「最適成長率」を見極め、着実に社会に貢献できる経営や事業展開を目指していきたいですね!

 

≪参考図書≫

≪参考記事など≫