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マーケター必読!『人生の勝算』(前田裕二著)から学ぶ熱狂的なファンのコミュニティを創る秘訣とは?

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 こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

いきなりですが、みなさん、仮想ライブ空間『SHOWROOM』で代表を務めている前田裕二さんの著書『人生の勝算』は読まれましたか?

 

まだ読んだことがないという方は、今すぐ読んでもらいたいです!!!!

★ちなみに、キングコング西野さんのブログで、『人生の勝算』の中身を試し読みすることができます。まずは、この第一章「人は絆にお金を払う」だけでも読んでもらいたい!

 

“エンゲージメント”、“ロイヤリティ”といった「顧客との感情的な結びつき」を高めていくことの重要性は、企業のマーケティングに取り組む方なら誰もが知っていることだと思いますし、モノの価値での差別化が難しくなりつつある現代において、その重要度はますます高まってきていますよね。

 

このテーマに関して書かれた書籍は、世の中にたくさん出回っていますし、僕も散々読んできているつもりなのですが、この『人生の勝算』は、1位、2位を争うくらい学びがありました!ヤッホーブルーイング、乃木坂46、福岡ソフトバンクホークス…などなど、熱狂的なファンに沢山囲まれて、ビジネス的にも成功している存在には、この本に書いてある「愛されるため(応援されるため)に必要な要素」が確かに入っているんですよ。

 

前田さん曰く、熱狂的なファンのコミュニティが形成される上での重要なエッセンスとして以下の5つをあげています。

  1. 余白の存在
  2. 客から中の人へ
  3. 仮想敵を作ること
  4. 秘密やコンテキストなどの共通言語を共有すること
  5. 共通目的やベクトルを持つこと

※2は、私の解釈で書籍に掲載されていた表現から少し変えています。

 

ということで、「ブランドの熱狂的なファンをつくっていきたい。増やしていきたい」と思っているマーケターの方々のお役に立てればと思い、今回は、この5つのエッセンスに関して僕自身の解釈も入れながら、解説していきたいと思います。

 

完璧な存在よりも、見守りたくなる存在へ

まずは「① 余白の存在」。ここが、とにかく重要です!

 

完璧すぎる人間よりも、多少の粗や欠点がある人間のほうが魅力的。これは、ほとんどの人が、共感いただけるのではないでしょうか。また、完璧すぎると、「私がいてもいなくても、この人にとっては関係ないだろうな」ということで、愛情が持ちづらいということもあるかと思います。

 

これまでブランディングというと、ブランドが掲げるコンセプトに沿って緻密に創り上げていくものだと考えられてきたと思います。何かしら施策を実行しようとすると、「ブランドのガイドラインにのっとれ」とか、「クオリティ管理は入念に」など、“完璧さ”を重視する傾向が強かったと思うんです。

 

しかし、前述したとおり、完璧なものに“愛情”を抱きづらいというのが人間です。一時的なオドロキや感動は発生するかもしれませんが、長い目で見たときに、そういった完璧すぎるものへの愛情は、なかなか生まれづらいのではないかと思うんですね。

 

ここで、考えなきゃいけないのが“余白”の存在です。余白とは、「かまってあげなきゃ」とか「応援してあげようかな」と思わせるような“弱み”や“ツッコミどころ”のことです。

 

前田さんの本で、とても印象的なのがスナックの話です。「シャッター通り」という言葉があるように、地域の商店街は、どこも経営的に苦しんでいます。そのような廃れゆく商店街において、唯一元気なのがスナックということで、なぜスナックが生き残っているのかというと、食料品や日用品などのモノを売っている商店は郊外のショッピングモールやECサイトなどに価値を奪われているのに対して、スナックは“ママとの繋がり”や、“ママや常連仲間との温かいコミュニケーションの場”を提供しているので、価値が消滅しにくいというわけです。

 

そして、スナックのママは若くて綺麗な女性である必要はなく、例えば一緒にお酒を飲んだお客さんより先に潰れても良いし、どこか頼りなくても良いとのこと。プロフェッショナルとしては粗だらけですが、その未完成な感じが、逆に共感を誘い、仲間を作るそうで、「みんなでこのママを支えよう」という結束力が生まれ、コミュニティが強くなるそうなんですね。

 

この“余白”って、すごい大切だと思っていて、僕の愛する「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイングも、社長をはじめ、様々な社員の方々がファンイベントやSNSなどで登場するのですが、やっぱり完璧さをもって接するという感じではなくて、どこかに愛嬌のある“余白”があるんですよね。本来は、プロフェッショナルとして振舞わないといけないかもしれない場で、あえて、少しゆるんだ対応をしているというか。

 

これは、アイドルやスポーツチームでも一緒です。例えば、僕は乃木坂46にドハマりしていますが、なぜハマっているかというと、「かわいい女の子達を見て癒されたい」といった感情ではなくて、やっぱり「放っておけない」とか、「応援したい」なんですよ(もちろん、癒されたい感情がゼロではないですが)。「学校に行きたくないから乃木坂に入った」みたいな理由の女の子が、様々な苦難や葛藤を抱えながら、ステージで最高の輝きを放つ。しかし、その先には、また新たな壁が…。みたいな戦っている姿をみて、おもわず「応援したい」という気持ちがどんどん醸成されていっているわけです。アイドルとして苦しむ姿は一切表に出さず、笑顔で最高のパフォーマンスを続ける。それも一つの美しい姿かもしれませんが、あえて、彼女達がもがき苦しんでいる姿をファンに見せる。秋元康さんのファン心理に対する深い理解、恐るべしです。

 

このように、愛されるブランド、応援されるブランドになるためには、完璧な存在として立ち振る舞うのではなく、あえて余白の部分を顧客と共有し、「見守ってあげたい」、「支えてあげたい」、「応援したい」といった余白への共感を生むことが重要になると僕は確信しています。

 

みんなで叶える物語

そして、“余白”があるからこそ、発生するのが「② 客から中の人へ」です。

 

例えば、スナックの話でいうと、前田さんが通っているスナックではママが本当にずぼらで、すぐに酔いつぶれてしまったりして、お客さんがグラスを洗ったり、お酒を作ったりしているそうで、お客さんと店員の境目がなくなってきているようなんですね。そして、一度、店員というゾーンにまで行ってしまったお客さんは、お店が自分の居場所でもあり、守るべき城だと思うようになって、結果的に通い続けてしまうそうで、「今月はお店が苦しそうだから、ボトルを一本多く入れよう」とか「飲み放題だけど、高いお酒を頼みすぎないようにしよう」など、お客さんながら、完全にお店側の目線で行動を起こすようになるらしいんですね。

 

このように余白をうまく演出し(スナックのママの場合は天然かもしれませんが)、顧客にブランドに対する“共同体感覚”を醸成していくことが、顧客のロイヤルティを高めることに最もつながるのではないかと思っています。

 

ブログ記事「『グレイトフル・デッド』と『ヤッホーブルーイング』が教えてくれたマーケティングのあるべき姿。」でも書きましたが、ヤッホーブルーイングさんも、こういう現象が起こっていて、ヤッホーの熱狂的なファンの方々は、ヤッホーさん主催のファンイベントに参加すると、会場を積極的に盛り上げたり、ヤッホーの魅力を一生懸命語ったり、酔っぱらいすぎてしまった方の介抱や、後片付けのお手伝いを申し出るなど、まるで社員のような動きをしている方が多いんですよね。

 

アイドルやスポーツチームでも一緒で、例えば、乃木坂46の常連ファンは、まるで自分たちが運営側のように自分の押しメンやグループ全体を応援しています。僕がスゴイと思った事例を一つ話すと、中田花奈さんというメンバーが乃木坂46にいるのですが、ファン有志の「中田花奈生誕祭実行委員会」という団体があって、なんと、8月6日の中田さんの誕生日の時に、乃木坂46の公式運営事務局の許可と広告代理店の協力をもらって、中田さんの誕生日祝いのポスターを乃木坂駅に掲載しているんですね。これ、スゴくないですか!?また、実行委員会の方々のコメントがよくて、中田さんの誕生日を祝うことはもちろん、いかに中田さんのことを、一般の通行人の方々にも知ってもらうか、ということも大きな目的だと言い切っているんですね。まさに中の人になっています。

 

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※Twitterアカウント「乃木坂46中田花奈生誕委員会2017@nkyk_prpr」さんのツイートよりスクリーンショット 。

 

このように「自分も一緒にこのブランドを育てているんだ」「自分たちが頑張って、このブランドを大きな存在にしていこう」といった“共同体感覚”を感じる顧客やファンを増やしていくことがファンのコミュニティをより強固にすることにつながっていくのです。そして、これを実現するには中心にいるブランドや企業の“余白の存在”が大切で、余白と共同体感覚の醸成は切っても切り離せない関係と言えるでしょう。

 

コミュニティの絆を強くするスパイス 

そして、ファンのコミュニティの絆を強くする後押しをするのが、「③ 仮想敵をつくること」「④ 秘密やコンテキストなどの共通言語を共有すること」「⑤ 共通目的やベクトルをもつこと」の3つです。

 

まず、“仮想敵”をつくること。僕は平和主義者なので、この表現はあまり好きではないのですが、確かに仮想敵をつくることで、ファンの団結が深まることはよくあります。例えば、アップルの熱狂的な信者たちにとって仮想敵はIBMやマイクロソフトです。初代Macintosh発売時にIBMのコンピューターを世界を支配するビッグブラザーに見立てたTVCMは有名ですよね。乃木坂46であれば、「AKBの公式ライバル」としてデビューしている段階で、当時アイドル界の頂点に君臨するAKBを”仮想敵”に仕立てられていて、「いつかはAKBに負けないグループに育てていこう」ということで、ファンの心が結束したことは言うまでもありません。

 

次に、秘密やコンテキストなどの“共通言語”を共有することも大切です。いわゆる“お約束”みたいなものですが、スポーツの応援や、アイドルのライブなどを見ていると、必ず、「こういう時には、この掛け声」とか「このシーンでは、この身振り手振り」といったお約束のようなものがあります。一見さんからすると、初めはとっつきづらいのですが、常連のファンの方の動きを見ながら、「こういう時には、こういう風にすれば良いのか…」などと、みんなに合わせて動いているうちに、だんだん自分も熱狂の輪の中に入ってきて、気が付けばハマっていたといった経験はありませんか?ファンじゃないと知らない世界。だけど、それを知っていることで、自分もファンの一員になったと強く自覚することができる共通言語をコミュニティ内でつくり、それを共有することが大事なのです。

 

そして、最後がコミュニティ内で共通目的”などの“ベクトル”を持つことです。乃木坂46であれば、「自分たちの応援で、AKBを超える最高のアイドルグループに育てていこう」。ヤッホーブルーイングであれば、「多くの人にヤッホーの魅力を伝えよう」。福岡ソフトバンクホークスであれば、「日本のプロ野球界から、世界に通用する球団を生み出そう」など、ファンがその目標・目的に対してワクワクし、一つになれる強力な旗印が必要になります。顧客目線でのミッションやビジョンですね。顧客にこのような共通目的を抱いていいただくためにも、企業側は自分たちの描いているミッション・ビジョンを熱く伝えていく必要があります。

 

このように、この3つのスパイスが掛け合わさることで、顧客はそのブランドやブランドを取り巻くコミュニティにより愛情を感じ、熱狂の輪が深まっていきます。

 

企業主導のコミュニティに“熱狂”は生まれない

ということで、熱狂的なファンのコミュニティが形成される上で、重要なエッセンスの5つをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

 

僕は仕事柄、様々なブランドの「ファンコミュニティ」と言われるものをチェックしているのですが、世の中には、“企業主導”のコミュニティ“ユーザー主導”のコミュニティがあると思っています。

 

みなさんだったら、どちらのコミュニティに参加、もしくは、応援したいですか?

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僕だったら、絶対に“ユーザー主導”ですね。

 

正直、「顧客を囲い込みたい」、「顧客を管理していこう」といった上から目線の企業主導のコミュニティは、ほとんど上手くいっていないように思います。企業側の目論見が透けて見えて参加者が萎えてしまうというのもありますし、そもそも、「自分がいようがいなかろうが、このブランドにとって関係ないな」と思ってしまった瞬間に、そのコミュニティに参加するモチベーションがなくなってしまうんですよね。こうなると、ポイントを与えるとか、商品を贈るとか、物理的なメリットを提供し続けない限り、成立しないコミュニティになってしまうわけです。

 

逆に、「皆さんと一緒に、こういう事を実現していきたく、力をかしてくれませんか?」、「企業一人の力では限界があるので、みなさんの力が必要なんです」といった低姿勢で、顧客に対して、ある意味、すがるようなコミュニティのほうが上手くいっている印象があります。人間、頼られた時のほうが、力が発揮しやすいものですし、前田さんが上手いことをおっしゃっているのですが、すでにでき上がった「他人の物語」を受け取るよりも、仮に完璧でなくても自分がコンテンツに介在できる「自分の物語」のほうが、得られる充足感は高いと思うんですよね。こういうコミュニティの場合、参加者はモノをもらうどころか、ブランドやコミュニティを盛り立てるためにお金や時間を費やすなど、与える立場に変わることすらあります。クラウドファンディングや、前田さん達が運営しているSHOWROOMなどを見ていると、この現象は明らかですよね。

 

“余白”をあえて演出し、余白に共感した顧客を“中の人”に変え、また、仮想敵や共通言語、共通目的をつくることで、コミュニティ内の熱量を高める。

 

これからの時代、中長期的に成長していくブランドには、熱狂的なファンのコミュニティが必ず必要になってくると思います。ファンコミュニティを強固なものに育てるためにも、この『人生の勝算』から教わった5つのエッセンスはしっかりと胸にとどめておくようにしたいです。

 

《参考図書》

 

《参考記事》