感動するマーケティング

職場に感動を!「サイボウズ人事部感動課」から学ぶ、感動を呼ぶための5+1の要素。

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こんにちは。 SNSやコミュニティなどを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 ( @kei4ide ) です。

 

現在、様々な企業で、従業員の会社への愛着 ( 従業員エンゲージメント ) を高めることの重要性が叫ばれています。

 

理由は大きく2つあって、1つ目は採用です。経営資源においてヒトの価値が最も高まる中で、人材の離職を防ぐため。また、リファラル採用(社員紹介採用)などにより、優秀な人材を呼び込むためです。

2つ目は企業の評判形成です。SNSの発展により、企業の透明化が進んでいます。以前は、鬱々とした感情をもっている従業員の方がいても、簡単には顕在化しませんでしたが、今はSNSを通じて悪い噂はすぐに広がります。ブラックという烙印を押されてしまったがために、一気に顧客離れが起こってしまうケースも増えています。 逆に、情熱的に働いている社員が多い会社も顕在化しやすいため、そういう企業は好感を獲得し、ファンも増え、これまで以上に成長していくと思います。

 

この会社への愛着が成長につながっている企業のモデルケースとして名前があがりやすいのは、アメリカの「ザッポス(zappos)」でしょう。ザッポスが世界中から注目を集めるのは、その独自の組織の文化です。

 

  • 上司、部下といった階層構造や上下関係はなし
  • 1人1人の個性を尊重するワークスタイル
  • コアバリューにしたがって、個々人がザッポスらしさを体現

 

1,500名を超える規模にも関わらず、強力なザッポスカルチャーのもと、ホラクラシーと呼ばれる階層を設けない経営スタイルで業績をあげ、働いているスタッフの幸せが、顧客に感動 (Wow) を届ける源泉を創るという考えのもとで成長を続けています。まさに、『生きる伝説』です。ラスベガスにある本社オフィスの見学ツアーには、いまでも多くの人が参加しているそうです(いつか、行ってみたい!)。

 

そして、僕が、ザッポス級の生きる伝説だと思っているのが、グループウェアでお馴染みのサイボウズさんです。現在、創業20年で、社員数が連結で約600名。クラウド事業の躍進もあり、年間売上高は2012年度の約40億円から、2016年度は80億円越えと、ここ数年間で大きく成長されています。

 

僕が特にスゴいと思っているのは2つあって、1つ目は離職率です。なんと、5年連続で5パーセントを下回っているそうです! 平成28年の全業界の離職率の平均値が約15%で、IT業界は人材の流動が多いことを踏まえると、これは奇跡的な数値ですよね。「働きがいのある会社2017」女性ランキングの従業員100~999名企業部門では、堂々の1位を獲得しています。

 

そして2つ目は、サイボウズ社員のメディアへの出現頻度です。社長の青野さんが書かれた書籍『チームのことだけ、考えた。』によると、青野さんへの講演やメディアの取材は年間で100回にのぼっているとのこと。また、青野さんだけでなく、様々な部門・年代の社員の方々も、毎日のようにどこかで講演をしたり、取材を受けているとのことです。

僕も、この実感値があって、サイボウズ社員の方々を、よくイベントやメディアでお見かけしている印象が強いんですよね。そして、色々な角度からサイボウズの魅力や目指しているビジョンについて熱く語られるので、「サイボウズって本当に良い会社なんだな」と思わずにいられないんです。

 

このような背景から、サイボウズさんは、従業員の会社への愛着を成長につなげている企業として、とても学ぶべきことが多いと思っています。

 

その中で、僕が特に注目してほしいのが… 

「サイボウズ人事部感動課」です。

 

世界初で感動課を作ったとのことですので、今のところ、感動課がある企業はサイボウズさんだけではないのでしょうか (他にもあったら、ごめんなさい!)。 僕は、もっと多くの会社が、従業員の会社への愛着を高めるために、自社に感動課を導入したほうが良いと思っています。

 

今回のブログでは、サイボウズ人事部感動課が生まれた背景や、どんなことをされているのかなどを、メディアで語られている内容からまとめてみました。従業員やチームメンバーの会社への愛着を高めたいと思っている方は、是非、お読みいただけると嬉しいです!

 

 

サイボウズの原点

人事部感動課が生まれる背景についてお話していきたいのですが、 これを説明するには、サイボウズさんの歴史を紐解く必要があります。

 

突然ですが、皆さんは、前述したサイボウズ社長・青野さんの著書『チームのことだけ、考えた。』は読まれましたか? 読んでいない方は、是非読んでいただきたいです!

チームのことだけ、考えた。―――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

チームのことだけ、考えた。―――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

 

サイボウズさんが創業してから、今に至るまでの歴史が赤裸々に書かれているのですが、まず【第1章:多様化前のこと】に書かれている内容が衝撃的なんです。

すごく端的にまとめると、創業して短期間で大きく成長した反動で、成長に組織づくりが追いつかずに、極めてカオスな状態に陥ってしまったという話です。当時の離職率は28%。社内の雰囲気は悪く、お互いがお互いを批判する状態が続いていました。

 

26歳で起業し、3年後には上場。私は29歳で上場企業の役員になっていた。自分に自信があった。自分の実力だけでなく、運の強さにも自信があった。しかし、それは勘違いだった。私は経営がまったくできない、自信過剰な若造だった。特別な運も持ち合わせていなかった。上場企業の社長どころか、数人の部下を持つことすら危ういスキルしか持っていなかった。

 

そのことを自分なりに理解した。情けない気持ちで一杯だった。メンバーに申し訳なさ過ぎて、会わせる顔がないと思った。その当時、私の頭の中はネガティブなことばかり考えていて、歩いているときに「あの自動車が暴走して私をはねてくれないだろうか」と本気で思ったのを記憶している。

 

こちら、本からの抜粋です。当時の混乱ぶりが生々しく伝わる箇所だと思い引用させていただきました。初めて読んだ時も、今読んでみても、第1章のこの箇所は、ゾクゾクッとします。今のサイボウズさんの状態からは、とても想像がつかず、こんな過去があったのかと衝撃を受けました…。

 

この状態から青野さんが奮起していくエピソードが、とても感動的なのですが、それは是非本で読んでみてください!

 

サイボウズの目指す未来と、あるべき姿

カオス状態を抜け出すために、青野さん達が、まず行ったことは、全社員が心から共感できるビジョンとミッションを創ることでした。

 

その結果、「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」ことをビジョンに。「チームワークあふれる社会を創る」ことをミッションとすることが決まります。

 

そして、青野さんが解決したいと強く思っていたのが、社員の離職率の高さを下げることでした。チームワークあふれる社会を創ることをミッションとするのであれば、自分たち自身がレベルの高いチームワークを実践できる会社でなければならないということ。また、シンプルに、社員が楽しく働けていないことを重要な問題だと感じるようになったそうなんです。

 

そのために、組織のあり方を考えていくなかで辿り着いた結論が、多様性を重視し、1人1人が自分らしく生き、自分らしく働ける組織でした。ミッションに共感して集まった1人1人が自分らしくあること。そのために人事制度が足りないなら増やす。100人いれば100通りの人事制度を。1,000人になれば1,000通りの人事制度を。

 

実際、サイボウズさんの人事制度は、各社員が自分のライフスタイルに合わせて、働き方を選べる選択制になり、働く時間の長さや、オフィスか在宅 (リモート) かを選ぶことができるそうです。また、育児・介護休業は最長6年間、副業は原則自由など、「100人入れば100通りの人事制度を」という言葉通りに、人事制度を進化させ続けています。

 

サイボウズは"風土づくり"がスゴい

ただ、ここで一番注目すべきは、多様な人事制度を作っていることではなくて、個々人の都合を優先させるような制度があっても、会社がバラバラになっていないということなんですよね。

 

サイボウズというと、副業自由とか、働き方が自由とか、制度で語られることが多い印象があるんですが、サイボウズさんは、社内の "風土づくり" が圧倒的にスゴいと思っているんです。風土。社員の皆さんが持っている共通の価値観や姿勢みたいなことです。

 

サイボウズ社員の皆さんが、大切にしている言葉が2つあって、それが『公明正大』『自立』です。公明正大とは、シンプルに言うと、嘘をつかないことです。また、自立とは、「自分がどのように働きたいのか? そこから何を得たいのか?」を自問自答し、その答えを言葉にまとめ、周囲を動かしていくという自覚と責任を持つということです。

 

要は、多様性を重んじている組織なので、そもそも一人一人の価値観は違うわけです。そのため、自分がどう考えているのかを嘘をつかず、責任をもってお互いが真摯に伝え合わないといけないということですね。サイボウズ社内では、質問責任と説明責任を果たすことから逃げてはいけないと、よく言われるそうです。

 

このような風土は、一朝一夕で育つものではなく、サイボウズさんが時間をかけて社内に浸透させてきた賜物だと思います。この風土があるから、制度の悪用を防げるし、制度を制定時に込めた想い通りにワークさせることができているのだと思います。「風土改革のない、制度改革は効果なし。」という青野さんの言葉は名言だと思います。 

 

人事部感動課とは?

そして、 いよいよ、ここからが「人事部感動課」の話です

 

前述したように、サイボウズさんでは風土づくりをとっても大切にしています。青野さんも著書の中で、「風土づくりこそ経営の醍醐味であり、最も感動できる最高の業務だと考えている」と述べています。そして、この風土づくりに大きく貢献するために、2011年に生まれたのが人事部感動課です。

 

この感動課を生んだのは、組織づくり・風土づくりの中心人物として活躍されている副社長の山田さんです。山田さんが感動課を設立したことを社内のグループウェアに発表した時の文章が素晴らしくて、紹介させてください。

 

多くの人が人生の多くの時間を会社で過ごす。そして、多くの人が真剣に仕事と向き合い、一生懸命働いている。辛いことも、悲しいことも、数々の困難を乗り越えながら。にもかかわらず、会社で感動することが少ないように感じる。  

 

(中略)  昔、NHKの「プロジェクトX」という番組があり、好きだったのでよく見ていて、よく感動した。人の仕事で。そう考えると、自分たちの仕事でも、表現の仕方で、伝え方で、もっともっと感動できることがあるのではないかと思った。  

 

もちろん、夢も理想も志もなく、真剣に取り組んでいる人もいない。そんなところに感動はない。なので、そんなところで、無理やり感動を捏造するのでは決してない。  

 

大きな夢、大きな理想、高い志があり、それを実現しようと真剣に取り組んでいる人がいる。そこにある多くの感動を、「感動」として表現したいだけである。そんな感動を創りだしている人たちに、もっともっと感動してほしいと思う。  

 

職場に感動を。

 ※引用:「職場に感動を。 - ほぼ日の塾 発表の広場」より

 

僕も「プロジェクトX」はもちろん、「ガイアの夜明け」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」などで、同世代の方が頑張っている姿を見て、よく涙をしている1人なので、この文章を読んだときに、すごく共感できたんですよね。

 

サイボウズの社員の皆さんが頑張っている姿を、しっかりと編集して、頑張っている本人はもちろん、他の社員にも届けることで、お互いを讃えあう。そして、感動課という組織をつくることで、この風土を会社として根づかせる。この姿勢が、素晴らしいと思いました。

 

感動課は『職場に感動を!』をスローガンに、社内にある”感動の種”を探し、”感動の華を咲かせる”ことを業務ミッションとして掲げています。そして、その業務内容は多岐にわたっているそうです。

 

例えば、サイボウズさんでは新卒社員は入社すると3泊4日の合宿研修が毎年あるのですが、そこに感動課は同行します。研修の最終日に流す動画の作成が主な目的です。この研修では、新人の皆さんが自分自身の強みや弱みを考えるそうなのですが、その時のキーワードを散りばめたエンドロールを動画の最後に流すなど、かなりの手間暇をかけているようです。

 

新卒メンバーは最終日にプレゼンがあって、最後の夜は徹夜で準備をするそうなのですが、感動課も渾身の作品をつくるために徹夜で作業をしているそうです。熱い…。熱いですよね。

 

ちなみに、最終日は動画を見た後に、新卒メンバーが一人ずつ研修の感想を話していくのですが、この時に、何人のメンバーが涙を流すかで感動課は評価されるそうです。すごい評価基準ですよね(笑)。

 

感動課として必要な素質

そして、この「感動課」で課長として、ご活躍されているのが、福西さんです。

 

残念ながら僕は面識はないのですが、福西さんが書かれている以下の記事などを拝見し、その人柄や、笑いのセンス、感動課としての使命感に惚れ込み、勝手にファンになっております(笑)。感動課としての活動内容も具体的に知ることができますので、是非、お読みいただければと思います。

 

 

そして、福西さんに関する記事の中で、感動課として活躍するための素質を、上手く引き出していると思ったのが、以下のインタビュー記事です。

 

▼「職場に感動を。 - ほぼ日の塾 発表の広場

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この記事は、サイボウズさんの自社メディア「サイボウズ式」で、編集者として活躍されている明石さんが書かれています。この記事の中で、僕が特に感銘を受けたのが以下の内容です。 

 

  • 「そのヒトを喜ばせたい」という純粋な想いが大切で、感動課の仕事がルーティン化したら、感動課は終わり。
  • 「そのヒトを喜ばせたい」と思うためには、まずは相手に一回はハマってみること。ハマることができれば情がわいて、喜ばせたいと思える。
  • 相手にハマるためには、例えば、そのヒトが好きな趣味に、自分もハマろうとすることが大事。共通の趣味になれば、話題も広がって、仲も深まる。
  • 社員の日報を毎日全員分、欠かさず読む。500人を6年間読んでるから、もう何万件も読んでいる。その人に「ハマる」キッカケを常に探している。 

 

最後に明石さんが上手くまとめてくれていますが、「ヒトが好きだから、ヒトを知りたい。ヒトを介して、いろんなことを知りたい」という福西さんの生き方、姿勢が、とても素敵ですよね。「ヒトが好き」、「ヒトに興味を持って、いろんなものにハマれる」というのが、感動課として価値を発揮する上で必要な素質なのだと思いました。

 

別のインタビューで福西さんが「全員のことをちゃんと理解して、一人一人に喜んでもらえる、感動してもらえるようにしていきたい」と語っていらっしゃって、こういう福西さんのような方こそ、感動課に適任だと思いました。

 

感動を呼ぶための5+1の要素

そんな福西さんが、感動を生み出すために必要な要素を「kando5+1」として、まとめてくれています。 

 

  • 「努力」 努力なきところに感動なし
  • 「メッセージ」 伝えたいメッセージこそが感動の華を咲かせる
  • 「共感」 共感があればあるほど感動の華は大きくひらく
  • 「手間」 手間をかけることでメッセージがより深く響く
  • 「サプライズ」 サプライズが感動の種に芽を出させる

 

努力して失敗したとしても、その努力を讃えることが大切で、努力している姿こそ、感動の種になるということですね。そして、その努力から伝わるメッセージの存在と、そのメッセージへの共感が高まれれば高まるほど、感動の華は大きく咲くということでしょう。そして、それを手間暇かけて、サプライズ性も組み込みながら、社内に届ける努力が感動課には求められると。

 

そして、感動を最大化するための重要な「+1」として掲げているのが、「for you」です。

 

感動の種となる努力が自分のためではなく誰かのためだった場合、その感動は最大化するということです。お客様のため、チームメンバーのため、違う部門のメンバーのため…。誰かのために頑張る努力は、大きな感動を生むということですね。

 

正直、感動課として感動を生み出す続けるのは容易ではないと福西さんは言います。感動課を続けているうちに、サイボウズ社員の皆さんも、だんだんと慣れてきているので、感動を生み出すハードルが上がってきていると感じているそうです。確かに、同じ手は忘れられるまで使えないし、ハードクリエイティブな業務ですよね。

 

だからこそ、福西さんのような使命感を持った方を感動課として据えて( ご本人は大変だと思いますが )、職場に感動を生み出すことを企業は真剣に取り組んでいくべきだと僕は思います。

 

まとめ:最高のGIFTを探す

 

一番きれいな色ってなんだろう? 一番ひかっているものって何だろう?

僕は探していた最高のギフトを。君が喜んだ姿をイメージしながら。

※引用「GIFT / Mr.Children」

 

こちら、僕の大好きなMr.Children「GIFT」という曲の歌詞なのですが、感動課の活動や、福西さんの考えを知るにあたり、ふと、この曲が感動課が大切にしていることを、上手く歌い上げている気がしてきました。

 

降り注ぐ日差しがあって、だからこそ日陰もあって、

その全てが意味を持って、互いを讃えているのなら、

もうどんな場所にいても、光を感じれるよ 

※引用「GIFT / Mr.Children」

 

企業で働いていれば、成功する人もいれば、失敗する人も、努力が報われない人もいます。だけど、それぞれの努力には意味があって、そこにスポットライトを当て、お互いが讃えあえるようにする。それが感動課の大きな役割なのだと理解しました。

 

 

改めて、現在は、従業員の会社への愛着が、企業の成長にダイレクトに跳ね返る時代になってきました。そのためには、これまで以上に、企業の "風土づくり" が重要になってくるでしょう。

 

前述したザッポスでは「Chief Culture Officer (社内文化の責任者) 」という役職を設けるほど、風土づくりに力を入れています。また日本企業でも、サイボウズさんはもちろん、「働きがいのある会社」ランキングで3年連続1位をとっているVOYAGE GROUPさんがChief Culture Officer を導入したり、サイバーエージェントさんもカルチャー推進室を立ち上げるなど、風土づくりに力を入れる動きが広がってきています。

 

おそらく近い将来、Chief Culture Officer がいて、その下に感動課が当たり前のように存在する時代が訪れるのではないでしょうか。

 

その時には、是非、「Kando5+1」を胸に、職場に感動の華を咲かせる活動が、様々な企業で広がることを願っています職場に感動を