Instagram上でコミュニティ形成!投稿件数50万超のH.I.S.『#タビジョ』から学ぶコミュニティ・マーケティングの流儀
こんにちは!SNSやコミュニティなどを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 ( @kei4ide ) です。
いよいよ、2017年が終わろうとしています。
今年は「インスタ映え」という言葉が流行語大賞をとったり、「インフルエンサー」という言葉が一般の方にも知られるようになったりと、誰もが情報を発信して受け取る時代になってきたことを実感する一年でした。
個人の影響力が高まる中で、企業と生活者の関係も大きく変わったように思います。生活者を囲い込もうとする戦略がことごとく失敗する一方で、生活者を消費者と捉えず、価値を高めていく仲間・同志とみなし、一緒に価値を創っていくコミュニケーションに大きな期待が寄せられ始めていると感じています。
その中で、僕が素晴らしい取り組みだと思っているのが、旅行会社のエイチ・アイ・エス(以下、H.I.S.)さんが行っている『#タビジョ』です!
H.I.S.さんが、2016年3月にスタートしたこの施策は、Instagramアカウント(@tabi_jyo)と#タグ(#タビジョ)を中心に、旅好きの女性と接点を持ち、コミュニケーションを通じて関係性を深めながら、旅先の魅力を発見したり、旅行の楽しみ方をタビジョの方々と一緒に作っていくコミュニティ・プロジェクトです。
▼Instagramアカウント「@tabi_jyo」
▼Instagram#タグ「#タビジョ」
どうですか? すごくないですか!?
オジさんの僕には眩しすぎるくらいキラキラとした旅先での写真が「タビジョ」のアカウントでは、たくさん紹介されています。
また、驚くのは、Instagram上で「#タビジョ」をつけた投稿件数。なんと…
50万枚超!!
このように、旅好きな女性の方々が、「#タビジョ」という#タグでつながり、お互いの旅先での体験をシェアしたり、学びあったり、刺激しあったりするコミュニティがInstagram上で生まれているんです。
「#タビジョ」をつけた投稿で素晴らしいものは、公式アカウントが紹介するのですが、「公式アカウントに紹介されるのが目標!」という方が多くいらっしゃるくらい、とても盛り上がっているコミュニティになっています。
現在、H.I.S.さんでは、タビジョの方々から投稿が多い場所をスムーズに回れるツアーや、タビジョの方々と一緒に考えたツアーを『タビジョツアー』と題し、販売しています。
▼タビジョツアーの例
※『H.I.S.旅する女子のためのツアー「タビジョツアー」』よりスクリーンショット
ちなみに、売行きは好調とのこと!
確かに、Instagram上で、「私もこんな場所・空間にいってみたい!」という顧客の感情をつくり、そのスポットに訪れる便利でお得なツアーを提供すれば、タビジョの皆さんから需要が起こるのは納得できますよね。
「#タビジョ」はコミュニティ・マーケティングに関心がある方だけではなくて、SNSマーケティングを実行する中で、「いいね」は生まれているんだけど、共感と購買が結びついていないという課題をお持ちのSNS担当者の方にとっても、学びになることが非常に多いと僕は思います。
今回の記事では、「#タビジョ」をはじめ、H.I.S.のSNS運用を担当されているH.I.S.のコーポレート・コミュニケーションチームの丹下陽一郎さんから聞いたお話をもとに、「#タビジョ」が生まれた背景や、コミュニティが育っていくまでの過程、これからの展望を紹介していきます。
#タビジョを始めた背景:企業発信のみのSNS運用に限界が…
この「#タビジョ」ですが、プロジェクトを始めた理由のひとつには、SNSを通じたコミュニケーションに課題を感じていたことがあるそうです。
H.I.Sさんは、2012年から開始したInstagramの公式アカウントをはじめ、TwitterやFacebook、LINEなどSNSを活用している企業として知られています。
ただ、丹下さん曰く、「ソーシャルメディアは、生活者とブランドとの双方向コミュニケーションの場とよく言われます。それを実現したいと考え運用していたのですが、正直なところ、それがなかなか実感できていませんでした」と悩みを持たれていたそうです。
SNS上で、ファンの方々から反応がいい投稿は、ボリビアのウユニ塩湖や、南太平洋に浮かぶ水上コテージといった、いわゆる「絶景」の写真が多く、寄せられるコメントは、「いつかは行ってみたい」というものが大多数で、その後の購買といったアクションに、なかなか結びつかなかいという課題がありました。
そんな中で、丹下さん達が興味をもったのが、インスタグラマーの方々の旅に関する投稿でした。インスタグラマーが投稿する旅先の写真の中で人気を集めているものを見ると、そこは必ずしも「絶景」とは限らず、町中のカフェだったり、道沿いに何気なく並ぶ古い壁だったりしています。そして、本人と友だちの姿が写り込んでいるものが、ほとんどであることに気づいたそうです。
インスタグラマーの方々が発信する情報を見てヒトが動くポイントは「リアリティ」。要は、同じ国、同じ場所でも、企業がお勧めするより、お客さまと距離感が近い人がごく主観的にお勧めしたほうがリアルだし、「同じような体験をしたい」といった強い共感が生まれるのではないかと仮説が生まれたそうなんですね。
そこで、旅好き・写真好きのインスタグラマーとつながるプラットフォームを構築し、そうした方々の投稿内容を共有いただきながら、新たな旅のきっかけづくりができないかと考えたのが、「#タビジョ」を始めるキッカケだったそうです。
#タビジョの成長の過程
どうやって、「#タビジョ」は現在の状態まで大きく成長することができたのか?それには4段階のフェーズがあったそうです。
①認知獲得期
当たり前ですが、始めは「#タビジョ」というハッシュタグ自体の投稿件数は0ですし、認知もないわけです。まずは、旅先で素敵な写真を投稿する際に「#タビジョ」をつけて投稿することを知っていただく取り組みが必要となります。
立ち上げ時には、ハワイ旅行中に、ハッシュタグ「#タビジョ」を付けて写真を投稿し、H.I.S.ホノルル支店に来店して頂くと、「アサイーボウル」のクーポンをプレゼントする施策を実施するなど、H.I.S.の部署と連携し、#タグをつけていただくための取り組みを実施されていました。
※「かわいい女子旅の写真集 #タビジョ」よりスクリーンショット
しかし、最初はなかなか投稿件数が伸びなかったそうで、更なるモチベーション向上策として、2つの取り組みを実施しました。
1つ目はH.I.S.さんのオウンドメディア「Like The World」の記事をタビジョに作成を依頼することです。「#タビジョ」をつけて、しばしば投稿してくれていた方に、旅先のおすすめスポットを紹介する記事を書いていただきました。このタビジョの方が書いた記事が広くシェアされ、「#タビジョ」に関する認知が高まったとのことです。
※「また訪れたいステキな場所!マルタ島フォトスポット5選! | Like the World Magazine」よりスクリーンショット
もう1つは、「タビジョマップ」の作成。これは外部企業とのコラボ施策で、「#タビジョ」で投稿された写真の場所をマップに表示するという取り組みで、マップ上に自分の写真が使われることに喜んでいただき、これも認知拡大のきっかけになったそうです。
※「ロサンゼルス観光マップ | 日本最大級のSNS映え観光情報 スナップレイス」よりスクリーンショット
この第1フェーズである認知獲得期を終えて、「#タビジョ」での投稿件数は1万枚ほどになりました。丹下さん曰く、「この1万枚までは投稿件数の伸びに苦戦したが、これを超えるとタグの存在が認識され始め、写真が集まるスピードが一気に上がりました」とのことです。
②イベントで親近感醸成期
次の第2フェーズでは、タビジョの方々との関係を深めることを目的とし、オフラインイベントである「タビジョMeet Up」を開催しました。コミュニティの立ち上げから、7ヵ月後の2016年の10月~12月の展開です。そもそもイベントを実施するきっかけになったのは、Instagramで「旅好きの女子と会って話がしたい」というコメントが多くあったからだそうです。
イベントでは、写真撮影術をレクチャー。「イベントには数十人が参加してくださったのですが、実際に会って話したことでお互いに親近感がわいたのか、イベント以降ではユーザー間のコミュニケーションが活発になりました。また公式アカウントへのコメントも増加しました」と丹下さんは言います。
▼「タビジョMeet Up」についてまとめた「COMPASS」さんのレポート記事
▼「タビジョMeet Up」に参加されたタビジョの方のブログ記事
さらに、第1フェーズから行っているタビジョマップのエリアの拡充も実施。オンラインとオフラインを使い分けながら、コミュニティを強化することが重要であることに気づかれたそうです。
③派生コンテンツ拡充期
2017年1月から3月の期間に行った派生コンテンツ拡充が第3フェーズです。コミュニティに一番大きな変化が起きたのはこの時期だそうです。
1つ目の変化は、地方コミュニティの発生。「関西タビジョ会」を作りたいというリクエストがユーザーから届き、H.I.S.として公式に認め、SNS上で紹介すると、他のユーザーからも同じようなコミュニティをつくりたいという声があがったそうです。現在は沖縄や埼玉など、8ヵ所で、タビジョの地方コミュニティ「タビジョ会」が存在しています。
※「H.I.S.旅する女子のためのタビジョ『タビジョ会』」よりスクリーンショット
2つ目の変化は、公式インスタグラマーの選定。タビジョでは数名のインフルエンサーを公式インスタグラマーとして認定し、活動していただいています。インスタグラマーの選定では、フォロワー数ではなく、コミュニティにいかに貢献してくださっているかを重要視しているそうです。
※「タビジョ公式インスタグラマー」よりスクリーンショット
この公式インスタグラマーには、Instagramのストーリー機能を用いて海外から旅先のレポートを実施してもらっていて、タビジョ公式アカウントの人気コンテンツになっているそうです。
「加工のテクニックで見せる写真とは違って、ストーリーは気軽な日常、つまり等身大の旅行を届けやすいと考えました。今も月に2~3名のタビジョレポーター(※)を海外派遣していますが、その期間はストーリーの視聴者数やアクションが非常に増えます。皆さん楽しみにしていただいているようです」と丹下さんは言います。
※「#タビジョ」では、タビジョレポーターというプログラムを現在実施しています。特定のエリアを旅行して頂き(旅行費用はH.I.S.が負担)、そのエリアの新たなフォトジェニックスポットを開拓いただき、最新レポートを作成いただくことを目的に実施しています。募集告知はタビジョの公式Instagramアカウントで行われます。
この段階で「#タビジョ」の投稿件数は、10万枚を突破。毎月2万枚ほどの投稿が行われるようになりました。また、この時期から前述のタビジョツアーの販売を開始しました。幅広い年代の女性やカップルにも人気が広がり、「フォトジェニック」というニーズを満たすポイントを押さえていることが、ツアーに人気が集まった要因なのではないかと丹下さんはとらえているとのことです。
④コラボによる規模拡大期
最後は2017年の4月から現在までの第4フェーズ。これまでの規模をより大きくすることを目的とした施策を実施されています。
まずは、「タビジョMeet Up」での他社とのコラボレーション。例えば、KIRINさんの「旅する氷結(R)」とのコラボでは、ハワイをモチーフにした新商品の発売日に、ハワイ好きな女子を集めて実際に商品を試飲しながらハワイについて語り合う場を用意しました。
※「『夏』と『海』が大好きなタビジョ厳選!『わたしのハワイの1日~定番カフェをお洒落に撮る編』」よりスクリーンショット
「自社だけでは、扱うコンテンツや規模を拡大させるにしても限界があります。外部企業さんとの接点を見出すことで、コミュニティの皆さんの満足度もより上がります」と丹下さん。
また、タビジョツアーでは、派生版として「母娘(ハハコ)ツアー」を展開。これはアンケートで「母親と一緒に旅行してみたい」という声が多く、実現させた企画だそうです。
さらに「タビジョはじめてツアー」も発売。コミュニティの中で多数のフォロワーを抱えているタビジョメンバーは、頻繁に旅に関する質問や相談を受けているそうで、先輩タビジョが初めての旅行でも安心しておすすめできるツアーとして企画されました。
※「H.I.S.旅する女子のためのツアー「タビジョマツアー」母娘(ははこ)タビジョイエローナイフ5日間」よりスクリーンショット
⑤これからの展望
このように、タビジョの方々との関係性を深めながら、他の企業も巻きこみつつ、コミュニティを育てていっている「#タビジョ」ですが、丹下さん曰く、今後の展望として、これまで静止画とテキストで行っていた旅のレポートを動画に広げていきたいとのことです。
また、Pinterestで公式アカウントを立ち上げる予定とのことで、「SNSが過去の思い出をシェアするのと違って、Pinterestは未来のためのアイデアを集めるという特徴があります。そこで、タビジョが旅行する前にどんな計画やアイデアを考えているかを可視化できれば、他の旅行者の参考にもなり、いろんな人に喜んで活用してもらえるのではと考えています」と丹下さんは言います。
このような施策を新たに追加しながら、「タビジョツアー」などの提供サービスの充実や、タビジョと外部企業とのコラボレーションをさらに強化させ、「#タビジョ」をより良いコミュニティに育てていきたいとのことです。
まとめ
このように、「#タビジョ」コミュニティが、どのように育ってきたのかを紹介させてきましたが、いかがでしたでしょうか?
#タグをつけて投稿したくなるようなモチベーションを設計し、オンラインとオフラインの施策を組み合わせながら、タビジョの方々と関係性を強化。そして、商品の共創や、公式インスタグラマー、タビジョレポーター、外部企業とのコラボレーションなど、タビジョの方々のモチベーションが高まる施策を次々と実行することで、コミュニティの熱量と規模を高めていった「#タビジョ」。
コミュニティというと、オウンドメディア上に自社コミュニティサイトを立ち上げたり、FacebookグループやLINEグループを活用したコミュニティを立ち上げるのが一般的なイメージで強い中、「#タビジョ」はInstagramというプラットフォームを軸に強いコミュニティを創り上げました。
Instagramは#タグで検索するユーザーが多く、共通の興味関心でつながりが生まれやすいプラットフォームです。要は、#タグを起点にゆるやかなコミュニティがいくつも形成されているわけですよね。
「インスタ映え」という言葉に象徴されるように、少なくてもこれから数年はInstagramが人々の興味関心をつなぐプラットフォームとしてリードしていくと思われます。また、数多くのメディアやコンテンツが乱立する中で、自社のオウンドメディアにユーザーを誘導することの難しさは年々高まってきています。
ですので、コミュニティ・マーケティングに取り組む方は、「#タビジョ」のようにInstagramをコミュニティのプラットフォームの軸にするという事を、1つの選択肢として持っていただきたいと思います。
最後に、「#タビジョ」がこれから、どのように発展していくのか非常に楽しみです!
旅行業界、コミュニティ・マーケティング、SNS運用という面で、これからのマーケティングのあり方のヒントとなると思いますので、これからも注目していきたいと思います!
《参考記事》