感動するマーケティング

"ファンづくり"に大切なコト。それは「二段構え」《乃木坂46から学ぶマーケティング》

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こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

『ファンづくり』というテーマと向き合うに当たり、最近ハッキリとわかってきたことがあります。

 

それは、愛され、応援される企業やブランドになるためには、【二段構え】が必要だということです。

 

最初の【一段目】とは、魅力がわかりやすい技を持つということです。例えば、デザインが良いとか、味が美味しいとか。まず、この一段目がないとファンになっていただくのは難しいでしょう。

 

ただ、この一段目だけだと、熱狂的なファンを育てるのは難しいんですね。なぜなら、デザインが良いもの、味が美味しいものは、世の中にいっぱい溢れているからです。一時的なファンになってはくれても、浮気をする対象が沢山あるので、深い関係までに、なかなか落ちていかないんです。

 

そこで重要なのが【二段目】になるのですが、二段目の技とは全てをさらけ出して共感と信頼を獲得することです。アナ雪の歌詞のごとく、“ありのままの姿”を見せることです。つまり、「どういう不安や悩みを抱えているのか?」、「どういう想いや展望を抱いているのか?」、「今、どんな気持ちでいるのか?」などをプライドや恥じらいを捨てて、キチンと届けるということです。

 

ほとんどの企業は、一段目の技を磨くことには熱心なのですが、二段目の技を磨くことに躊躇しています。なぜなら、“ありのままの姿”を見せることは、勇気がいるからです。恥ずかしいし、弱い部分なんか見せたくないですよね。また、企業の規模が大きくなればなるほど、これまで培ってきたブランドイメージが崩れるとか、広報のガイドラインがキッチリ決まっているとかで、発信できることに厳しい制約がある環境にあったりします。

 

だけど、世の中を見渡した時に、【二段構え】の技をもっている存在こそが、熱狂的なファンを沢山作っているという事実に気づいたんです。

 

そう考えるきっかけをくれたのは、現在アイドル業界で最も勢いがある乃木坂46で、今、人気No1といってもいい『西野七瀬』の存在です。通称、ななせまる、なぁちゃん。僕が乃木坂にドハマりするきっかけとなった存在でもあります。

 

今回のブログでは、僕が西野七瀬を通じて乃木坂46の熱狂的なファンになっていった過程を振り返りつつ、なぜ、この【二段構え】が『ファンづくり』において重要なのかを伝えたいと思います。

とにかく「かわいい」。一段目の技により、なぁちゃんに興味を持ち始める

まずは、僕が乃木坂にハマっていった過程について、お付き合いください。

 

僕が乃木坂46に興味を持ちはじめたのは、今年の6月ごろです。『乃木坂46から学ぶ「競争優位を創る源泉」』というブログ記事の中に書いたのですが、乃木坂ファンの友人から「マーケティングを学ぶものとして、トレンドである乃木坂46にもっと注目しなさい」という熱い推奨がきっかけでした。

 

そこで、テレビ東京の『乃木坂工事中』を見始めところ、バナナマンがMCをしていることもあって、バラエティ番組として普通にオモシロいんです。そこで『乃木坂工事中』を見続けているうちに、めちゃくちゃ可愛いし、空気感も好きだと思えるメンバーがいることに気付いたんですね。それが西野七瀬でした。

 

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「乃木坂46待望の2ndアルバム 「それぞれの椅子」 2016年5月25日(水)リリース!| 乃木坂46 OFFICIAL WEB SITE」よりスクリーンショット 

 

なぁちゃんは、白石麻衣とWセンターを組んだり、単独センターも経験したり、ファンとの握手会でも人気No1だし、女性誌「non-no」でモデルを務めるなど、いわゆる乃木坂の顔です。2016年に発売した写真集『風を着替えて』は、広瀬すずのフォトブックを超えて、年間写真集女王を獲得しています。

 

まさに、【二段構え】の【一段目】ですね。かわいい。空気感が良い。キャラクターが好き。非常にわかりやすい魅力です。

 

だけど、西野七瀬が単なる可愛いだけのアイドルであれば、僕はハマってなかったと思います。なぜなら、見た目が良くて、空気感が素敵なアイドルや女性タレントは、それこそ沢山いるからです。TVはもちろん、ネット動画や、SNS上で可愛い女の子たちが次から次へと登場してくる時代です。

 

しかし、一段目の技にやられて、西野七瀬に興味を持ち始めた僕は、西野七瀬の「これまで」について知りたくなり、色々と検索をし始めたんですね。ここからが真の熱狂の始まりでした…。

 

涙の分だけ成長してきた、なぁちゃん。

乃木坂46は2017年でデビュー5周年。高校2年生の時に乃木坂のオーディションを受けたなぁちゃんも、今は23歳。この約5年間の「西野七瀬の成長物語」が、めちゃくちゃ熱くて、涙なしには見れないんです

 

なぁちゃんは、もともとゲーム好きな内気な女の子で、極度の人見知りで友だちもいなくて、いつも家でゲームばかりしていたとデビュー前の自分を語っています。そんな自分の娘を変えたかったお母さんが乃木坂46のオーディションを薦めたそうで、「アイドルという職業は、自分の性格上、絶対に向いてない…」と思いながらも、「暗い自分を変えたい」という気持ちで応募したとのことです。

 

デビュー当時、TVの企画で、街頭で乃木坂46をPRするためにティッシュ配りをするんですが、通行人に冷たい態度を取られたなぁちゃんは、恐怖のあまりにティッシュを配ることができず、その場で泣き崩れてしまうんですね。バラエティ番組の収録中にも、自分のコメントに不安になって泣いてしまうことが何度もあったりと、自分への自信のなさを隠しきることができない状態でした。

 

そんな弱い自分を変えるエピソードとして有名なのが、4枚目のシングルの選抜メンバー発表です。

 

最前列の常連となった今の西野七瀬からするとオドロキですが、デビューした時のなぁちゃんのポジションは3列目。乃木坂の場合、最前列と2列目のメンバーを『福神』と呼び、福神を目指してメンバーは頑張るわけですが、なぁちゃんは3枚目のシングルで初めて福神に入ることができました。だけど、4枚目のシングルにおいて、それまで親の意向で学業に専念するために活動を休止していた秋元真夏(通称、まなったん)が復帰早々に福神入りすることになり、なぁちゃんは3列目に戻るということが告げられました。

 

この時のショックは相当のものだったようで、号泣しながら母親に「大阪帰る!」と電話したり、まなったんとは、その後1年4カ月もの間、一言も会話をしなかったそうです(スゴいですよね…)。

 

しかし、この一件のおかげで、自分の中に眠る負けず嫌いな一面に気づいたり、「もっと前に出よう」という積極性を意識するようになったりと、なぁちゃんの中で何かが変わったようで、「自分を変えたのは秋元真夏です」と後にインタビューで語っていました。今では、2人はグループを引っ張っていく存在として、とても素敵な関係になっています。

 

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「乃木坂46「気づいたら片想い」特集 - 西野×秋元ガチトーク | 音楽ナタリー」よりスクリーンショット

 

その後、成長していく西野七瀬の姿で特に印象的なのが、マカオタワーからのバンジージャンプです。

 

福神にも復帰し、ついに8枚目のシングルでセンターに選ばれたなぁちゃん。TV番組の企画でシングルのヒットを祈願して「世界一高いバンジージャンプ」と言われているマカオタワーからバンジージャンプをすることに。番組内で、何度も何度も泣いていたなぁちゃんですが、泣きながらも勇気を振り絞って「8枚目シングル、ヒットしますように!」と叫び、マカオタワーから飛び立つ姿は「今まで見たことのない西野七瀬」でした

 

”ありのままの姿”をさらけだして、「共感」を重ねる。

「乃木坂46の歌声、歌詞が誰かにとって大切な曲になったらいいなって思うし、そうやってできる立場にいることって、ありがたいことだし、誇りに思います」 

「それぞれのメンバーがいろんなところで活躍して、そこで力をつけたりして、それを乃木坂46に持って帰ってきて、グループとしてもっと大きくなっていきたいなって思います」

 

こんなコメントを言えるくらい、デビュー当時と比べて、見違えるほど成長した西野七瀬。今でも、基本ネガティブで控えめ目だけど、その分、頑張り屋さんだし、やるときはやってくれます。

 

自分に自信がない…。

前に出るのが怖い…。

自分の想いを表現するのが苦手…。

 

こういう悩みを抱えている人って、世の中に、結構多いんじゃないかなと思います。僕もそうです。なので、なぁちゃんが抱えている悩みって、とても共感できるし、自分ごと化できるんです。

 

そんな西野七瀬が勇気を出して、様々なことに挑戦していく姿に、ファンは勇気をもらえるし、応援したくなるし、成長していく姿を見て「自分もがんばろう」と思えるんですよね。

 

つまり、これが【二段目】なんです。”ありのままの姿”をさらけだして、「共感」を重ねること

 

もし、こういう苦悩や葛藤、悩み苦しむ姿が裏に隠れていて、表にでてくるのは笑顔でアイドル活動を頑張る西野七瀬だけだったら、ここまでの熱狂は絶対に生まれていないと思います。あの泣いてばかりいた頃のなぁちゃんを知っているし、「今でも、悩みを抱えながら頑張ってるんだろうなぁ」と思うから、より応援したくなるんです。

 

そして、こんな具合に西野七瀬を掘り下げていくうちに、乃木坂46の他のメンバーも同様に共感できるストーリーを抱えていることを知り、僕の熱狂はグループ全体に飛び火していきました。初代センターの苦悩と葛藤を抱えた生駒里奈の物語、グループを成長させるために先頭で引っ張ってきた白石麻衣の物語、最年少メンバーとしてアンダーからセンターまで全てを経験してきた齋藤飛鳥の物語…。その全てが熱く、「乃木坂で誰が一番好き?」という質問に対して、気が付くと「好きなメンバーが多すぎて、答えられない…」という状態に変わっていったのでした。まさに、乃木坂の曲にある『気づいたら片思い』状況です。

 

★乃木坂46の各メンバーの物語に興味がある方は、このドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』を見てください。涙なしにみれません…。


7月10日(金)公開『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』本予告/公式

 

”ありのままの姿”をさらけだして、共感を生むのはエンタメだけでない。 

ここまで、アイドルの話をしてきましたが、この【二段構え】というのは、他のエンターテインメントでも一緒だと思います。

 

例えば、ミュージシャンの場合、【一段目】は楽曲のメロディや歌詞のキャッチーさだとか、ビジュアルの良さとかだったりします。だけど、【二段目】であるアーティストのバックボーンとか、考えている人生観、悩みや葛藤など、アーティストの内なる部分にファンが触れ、共感することで、熱狂が生まれると思うんです。

 

僕はMr.Childrenの超絶熱狂的なファンですが、それは楽曲が素晴らしいという事だけではなくて、桜井さんの価値観、生き方に強く共感しているからだと確信しています。ミスチルの曲って、桜井和寿という人間の”ありのままの姿”をぶつけてきている気がするんですよね。人間が持っている明るい部分も、暗い部分も、喜怒哀楽の全てをさらけだしていると思うんです。『しるし』や『HANABI』みたいな無垢で純粋な曲もあれば、『フェイク』や『REM』みたいなドロドロとした欲望や渇きを表現したような曲もあって、「うわぁ~、ここまで言っちゃうんだ…」と思わず唸ってしまいますし、その飾らない姿がカッコいいと思うし、共感できるし、信用もできる。

 

おそらく、皆さんが心から熱狂しているミュージシャンや芸能人、スポーツ選手に対して、「なぜ自分は、そんなにハマっているんだろう?」と考えてみると、きっと同じようなことが言えるのではないでしょうか。はじめのうちは、シンプルに作品や見た目、プレイ姿に惹かれたけど、考え方や価値観に触れて、共感を重ねていくたびに熱狂状況になっていった。そんなことはないですか?

 

だけど、これってエンタメ業界の話だけじゃなくて、メーカーやサービス業といった企業やブランドでも同様だと思うんです。

 

例えば、「Apple」

 

最初は、iPhoneやMacBookといった商品のデザインや機能といった部分で惹かれていくと思うんですが、それだけだと、Apple信者と言われるような熱狂的なファンがこんなに多くは生まれていないだろうと考えています。やっぱりスティーブ・ジョブズが自分の全てをさらけ出して、自分の生い立ちや、製品に対する想い、会社のビジョンについて熱く語ったり、Apple社の挫折と栄光のストーリーを共有しているからこそ、Appleへの熱狂が世界中で起こっていると思うんですね。

 

僕が大好きな、よなよなエールでお馴染みの「ヤッホーブルーイング」もそうなんですよ。

 

ヤッホーさんが美味しいビールを提供したり、面白いファンイベントを開く会社だけであれば、正直、ここまでドハマりしていないと思います。僕がヤッホーさんに対する熱狂度が凄まじく向上したのは、社長である井手さんの書籍『ぷしゅ。よなよなエールがお世話になります』を読んでからなんですね。この本を読んだ人はわかると思いますが、今の超アグレッシブな井手社長からは想像ができないくらい、昔の井手社長は受け身なサラリーマンなんですよ。でも、そんな井手社長が様々なことを経験しながら、成長していって、今のヤッホーを築いていくストーリーが、とても共感できるんですね。そして、「こんな僕でもできたのだから、きっと、あなたにもできる」という巻末のメッセージにグッとくるわけです。

 

モノ消費からヒト消費へ

 

「あるがままの心で生きようと願うから、人はまた傷ついてゆく。

 知らぬ間に築いていた自分らしさの檻の中でもがいているなら、誰だってそう、僕だってそうなんだ。」

 

ご存知、Mr.Childrenの『名もなき詩』の歌詞ですが、やっぱり、”あるがままの姿”をさけだすって、とても勇気がいることだと思うんですよね。

 

でも、飾られた広告や企業都合の情報発信に対する生活者の信用が下がり続けている現代において、【二段構え】で顧客と向き合うことができる企業こそ、ファンを獲得できるし、成長できる企業なのではないかと思います。

 

モノの価値だけで差別化が難しい時代において、「モノ消費からコト消費へ」とよく言われますが、SHOWROOMの代表である前田裕二さんが「モノ消費からヒト消費」の時代になりつつあると書籍でおっしゃっていたのをみて、上手い表現だなと思いましたし、その通りだと思います。

 

もちろん、【一段目】となる商品やサービスを磨くことを怠ってはいけません。だけど、そこにとどまらず【二段目】となる”ありのままの姿”を伝えることを勇気をだして実施する。

 

そして、ありのままの姿を伝えようと思うなら、SNSとかリアルイベントとか、双方向かつ生活者と距離感が近いところで実施していただきたいです。コメントを受け付けない一方的な発信の場でやっていても、顧客から信用されずらいからです。

 

規模が大きい会社でこれをやるのは難しいのは重々承知していますが、是非、検討してみてほしいし、フットワークが軽い会社であれば、【二段構え】を意識的に実行してみてほしいです。

 

きっと、乃木坂46のように、泣き笑いをともにしながら、夢に向かって一緒に進んでくれる熱狂的ファンを育てることができるのではないかと思います!

 

≪超参考図書≫ 

今回、【二段構え】というフレーズを使わせていただきましたが、このフレーズは、自撮りIT女子・ネット文化探究者として、幻冬舎plusで連載を執筆するなど活躍中のりょかちさん(Twitter: @ryokachiiがセミナーの中でお話しされていたフレーズで、りょかちさんの考え方をベースに、自分なりの解釈を織り交ぜて、今回ご紹介しています。

 

ちなみに、りょかちさんの書籍『インカメ越しのネット世界』は、ソーシャルメディア時代における若い世代の考え方を学ぶには、最高の良書ですので、10代~20代向けにプロモーションやマーケティングに取り組むマーケターの方は、絶対に読んだほうがいいです!もちろん、そうじゃない人も読んでもらいたい。自撮り文化や動画共有アプリが盛り上がる背景にある本質など、ユーザー心理を抑えながら、わかりやすく教えてくれます。

 

インカメ越しのネット世界 (幻冬舎plus+)

インカメ越しのネット世界 (幻冬舎plus+)

 

マーケターは書を捨てハマスタへ出よ!横浜DeNAベイスターズの「超集客術」とは?

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こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

ここ数年、百貨店をはじめ、様々な業界の商業施設から集客が難しいと嘆く声をよく聞くようになりました。ネット上のショッピング機能が充実し、多様なエンタメコンテンツが溢れる現代において、わざわざお店に足を運んでいただくための顧客の来店動機をつくることが厳しいと。

 

そんな集客に悩みを抱えているマーケターは、今すぐハマスタに行ってもらいたい!!

 

なぜなら、横浜ベイスターズをDeNAが2011年に買収してから5年間、プロ野球チームとしては成績が低迷しているにも関わらず、ハマスタにヒトを集めまくっているからです!

※ちなみに、ここ6年間のベイスターズの順位は6位→6位→5位→5位→6位→3位。プロ野球ファンであれば、泣けてくる状態で、やっと昨年から日の目を見せ始めました!

 

買収した2011年と2016年を比較すると、ハマスタの年間観客動員数は1.76倍(110万人⇒194万人)。満員試合数に関しては、2011年はたったの5試合だったのが、2016年には主催試合72試合中54試合が満員です。スゴくないですか!?ちなみに、ベイスターズが日本一になった98年でも満員試合は32回だったそうです。つまり、この5年間で奇跡的な成長を遂げているわけです。

 

「商業施設への集客を成功させるヒントはベイスターズ、そしてハマスタにアリ!」と思い、初代横浜DeNAベイスターズ社長で、2016まで導いた池田純さんの書籍を読み漁ったり、沸騰現場であるハマスタに自ら足を運んでみた結果、そのヒントらしきものを掴むことに成功しました!

様々な成功要因があると思いますが、次の3つが大きなポイントだと僕は思っています。

  • 提供価値を拡張する
  • 戦略ターゲットを定める
  • 共通の価値観を育む

ということで、今回のブログでは、「横浜DeNAベイスターズの超集客術」と題し、上記の3点から商業施設が現代において集客を成功させるためのポイントについて、お話ししていきたいと思います。

 

プロ野球ファン人口は大きく減少。昔と同じやり方は通用しない。 

さて、まず1つ目の「提供価値を拡張する」です。

 

さて、突然ですが、ベイスターズの試合を見にハマスタへ行くことによる顧客への”提供価値”とは何でしょうか?

 

  • プロ野球を生の迫力でみることができる。
  • プロ野球選手たちに会える。
  • 選手たちを直接応援できる。
  • 応援団の中に入って、応援合戦を楽しむ。

 

例えば、こんな回答が思い浮かびますよね。

ただ、これは全部、“熱狂的なプロ野球ファン”じゃないと響かない提供価値なんですね。

 

残念ながら、現在、プロ野球ファンの人口は大きく減ってきています(僕も熱狂的なプロ野球ファンなので、とても悲しいのですが)。調査会社のマクロミルと三菱UFJリサーチ&コンサルティングが共同で実施した「2016年スポーツマーケティング基礎調査」によると、2006年の12球団のファン人口は、合計4,138万人。同じ調査で2011年のプロ野球ファン人口は3,685万人。直近の2016年は、なんと2,747万人。このように、どんどん減ってきているんです。ちなみに、このファン人口とは、球場に足を運ぶ観客だけではなく、テレビ観戦や、あるいはニュースで試合結果だけを追う形で球団を応援する人も含む広い意味でのファンだそうです。

 

僕は現在33歳ですが、僕らが小学生から高校生の時は、常に巨人戦が全国放送で流れていたり、プロ野球チップスが流行ったり、自分の応援しているチームが負けると翌日機嫌が悪くなる面倒くさい先生がいたりと、日常にプロ野球と触れ合う機会が豊富にあったんですよね。だけど、全国放送から巨人戦が消え、サッカーなどのスポーツだけでなく、多種多様なエンタメコンテンツが溢れる現在、そりゃあ、自然に考えれば、プロ野球ファンの人口は減るはずです。

 

つまり、プロ野球やベイスターズに興味をもってもらい、その流れで球場に足を運んでもらうという昔の考え方で観客を集めようと思っても、効果が見込めなくなってきているということなんです。少なくても、ファン人口が減ってきているので、プロ野球ファンだけを狙った戦略だと、経営数値は伸びていかないわけです。

 

じゃあ、どうすれば良いか? その答えは、熱狂的なプロ野球ファン以外の人達を呼び込むために、ハマスタの提供価値を拡張する必要があるということです。

 

戦略ターゲットは「アクティブ・サラリーマン」

そもそも、提供価値を拡張するには、まず誰を対象に価値を提供するのかという、“戦略ターゲット”を定める必要があります。ここが2つ目の「戦略ターゲットを定める」ということですね。

 

はじめに、ベイスターズのマーケティングチームは、ハマスタの来場者を大きく3つに分類しました。

  • ヘビー層=年10回以上の来場者
  • ミドル層=年4~9回の来場者
  • ライト層=年3回以下の来場者

 

その中で、ライト層で増加傾向があったのが、30~40代の働き盛りの男性だったようで、彼らに対して来場理由を調査してみると、プロ野球を見に来たという回答が当然多いわけですが、それに加えて「“でっかい居酒屋”に行くような気分で、生の野球をつまみにビールと会話と雰囲気を楽しみにきている」という顧客心理が見えてきたそうなんですね。

 

30~40代の男性といえば、仕事終わりに飲みにいったり、土日もアウトドアやスポーツを積極的に楽しんでいる層が多くいます。彼らを「アクティブ・サラリーマン」と名づけ、アクティブ・サラリーマン達にアフター6や休日のアクティビティを選ぶ感覚で、ハマスタを選んでもらい、ハマスタの魅力を知ってもらえれば、きっと平日には会社の同僚、休日には奥さんや子供を連れて来てくれるはず!このような狙いで、戦略ターゲットをアクティブ・サラリーマンに定めたそうです。

 

例えば、試合後にチケットを持っている人なら誰でもグラウンドで遠投を体験できる「オヤジだらけの遠投大会」。野球をやっていた人たちをターゲットにした「夢のプロテスト体験」。他にも、球場の外でビアガーデンを運営して、「食べて勝!B食祭」と称して神奈川のさまざまなB級グルメを集めるイベントを実施するなど、積極的にアクティブ・サラリーマンたちの足をハマスタに向ける施策を次から次へと展開し、「居酒屋ではなく、今日はハマスタに行こう!」といった機運を戦略的に高めていったそうなんですね。

 

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※著者撮影 :ハマスタの外には、ベイスターズの試合の様子がわかる大型スクリーンが併設された屋台やビアガーデンがあって、チケットをもっていなかったとしてもハマスタに向かいたくなる施策が展開されています!

 

ハマスタのエンターテインメントのレベルがヤバい!実際に足を運んで感じたこと。 

僕もアクティブ・サラリーマンを自負していますが、先日、実際にハマスタに足を運んでみて、そのエンターテインメントレベルの高さに衝撃をうけました。

 

現在のハマスタはアクティブ・サラリーマンにとどまらず、アクティブ・サラリーマン達が連れてくる女性社員・彼女・奥さんなどの女性客、また、子供たちやファミリーで楽しめる“総合エンターテインメント施設”にハマスタは成長しています。プロ野球の熱狂的なファンじゃなくても、めちゃくちゃ楽しめる仕掛けが満載なんです!

 

まず、とにかく飯とビールがウマい!

 

特に声を大にして強調したいのが球団オリジナル醸造ビールの『ベイスターズ・ラガー』と『ベイスターズ・エール』の素晴らしさです。「野球観戦にビールはつきものなのだから、最高のビールを提供したい」という想いで、アメリカやドイツを訪問しまくって、「横浜ベイブルーイング」など一流の醸造家たちと組んで仕上がったハマスタでしか飲めない限定ビールです。ロゴのデザインもカッコいいですよね。屋外球場で風が気持ちいいというのも手伝ってか、最高に美味しく感じます。

 

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※Webページ「球団オリジナル醸造ビール | 横浜DeNAベイスターズ」よりスクリーンショット

 

そして、お客さんを飽きさせない工夫がスゴい!

 

例えば、毎回イニングの間には、何かしらの企画が実施されます。『BAYSTARS SUPER BAZOOKA』と呼ばれるスーパーカーがグラウンドに登場&徘徊し、バズーカでプレゼントをスタンドに発射しまくる企画とか、『ズドーン!BIGグローブ』というファン参加型のイベントで、外野に急遽BIGグローブを出現させ選ばれた参加者はBIGグローブ目がけて遠投にチャレンジするという企画があったり。まぁ、とにかくイニング間の企画が次から次にでてくるので、トイレにいく暇がないほどです(笑)

この他にも球場の様々な場所でちょっとしたイベントをやっていたり、フォトスポットが会ったり、展示物があったりとお祭りのような賑わいを作っています。

 

そして、特に見てほしいのが、ヒーローインタビューから勝利の花火までの締めの演出で感動的なんです!

 

ヒーローインタビューを行う際に、球場の照明を暗くするのですが、ファンが持っているペンライトがベイスターズカラーの青で輝き、ハマスタ全体がと美しくて幻想的な空間に変わるんですよ!試合の興奮醒めあらぬ中で、ファンと選手、そしてファン同士の一体感を強めてくれる演出なんです!

 

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※著者撮影

 

また、『Victory Celebration』と呼ばれる勝利後の花火のクオリティがスゴいです。いや、花火というよりショーですね、完全に!ハマスタのグラウンドに花火が設置され、近距離で花火を見るんですが、テンションがあがる音楽やスクリーンの映像に合わせたショーが繰り広げられんです。プロ野球の試合で、ここまでのクオリティの花火ショーを見たことがなかったので、衝撃を受けたと同時にファンを喜ばせようとする姿勢に感動しました。

 


横浜DeNAベイスターズ/3戦連続のVictory Celebration!!/2017.8.24 横浜DeNAベイスターズ×広島東洋カープ うそにゃん 横浜スタジアム

※上記は一般の方の撮影の動画です。

 

このように、ハマスタは、プロ野球ファンが野球観戦を楽しむ場にとどまらず、プロ野球ファンでなくても、「同僚や家族との時間を楽しいものに変える」という価値を提供していて、”提供価値の拡張”に成功していることを身をもって実感しました。

 

一体感を生む演出。横浜愛を目覚めさせる 

そして、重要なポイントとして掲げている最後の3つ目が「共通の価値観を育む」という点です。共通の価値観を育むことで、ベイスターズとファン、またはファン同志の”共同体感覚”を築くということですね。

 

ベイスターズとファンにおける共通の価値観とは何か?

それは、『横浜が好き』ということと、『横浜の街を盛り上げたい』ということです。

 

スポーツチームはもちろん、商業施設を運営するときに「地域から愛される存在になることが大切だ」とよく言われますが、ベイスターズの横浜を愛する姿勢は、見習うべきことが非常に多いです!

 

例えば、選手のビジターユニフォームには親会社である”DeNA”のロゴが入ってないんですよ。「YOKOHAMA」だけなんです!これスゴくないですか!?ユニフォームって、広告スペース価値としては一丁目一番地なんです。そこからあえてロゴを外し、「横浜のチーム」であることをファンに示し、横浜を背負って敵地で戦っているわけです。

 

さらにベイスターズは2016年にハマスタを所有する株式会社横浜スタジアムを友好的TOB(株式公開買付け)しました。要はハマスタを"賃貸"から"持ち家"に変えたんですね。これもベイスターズが「今後も横浜に根付いていく」という強い意志表明の表れなんです。

 

そして、現在、ベイスターズは『I☆YOKOHAMA』(アイラブヨコハマと読みます)というプロジェクトを実行中です。「野球をきっかけに、横浜”を愛するすべての人々を一つにつなげたい」という、壮大なビジョンを掲げています。横浜スタジアム付近のエリアには「I☆YOKOHAMA」フラッグが至る所でたなびき、ハマスタでは、「I☆YOKOHAMA」のBIGフラッグを試合の途中に外野席の観客全員で掲げる演出を行っているんですね。

 

そして、僕が鳥肌が立つくらい感動したのが、試合終了後のヒーローインタビューです。

 

ヒーローインタビューの最後に選手もファンも「I☆YOKOHAMA」のタオルを掲げ、「I☆(LOVE)YOKOHAMA!」と選手もファンも一体となって叫ぶんです。これには本当に感動しました。まさに、ベイスターズを中心に、街と人々が繋がる瞬間を目のあたりにした気分でした。

 

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「DeNA買収から丸5年。低迷期を脱却し生まれ変わったベイスターズの今。| AZrena」よりスクリーンショット 

 

僕の感覚だと、横浜に暮らす人にとっての横浜愛は凄まじいものがあると思います。おそらく日本でも有数の地元愛が強い街なのではないでしょうか。

その横浜で暮らす人たちの中に眠る“横浜愛”を目覚めさせ、横浜愛を共に叫ぶことで、ファンの間に横浜の街や、ベイスターズという球団に対する愛着と帰属意識を深める。まさに、共通の価値観である”横浜愛”を軸に、共同体感覚が醸成されているといっていいでしょう。

 

”強い経営”により、ベイスターズの本当の躍進が始まる

ということで、“横浜DeNAベイスターズの超集客術”と題し、紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?

 

現在、集客に悩みを抱えている方は、ベイスターズに習い、この3つを考え抜いてほしいです。

  • 集客すべき戦略ターゲットを「スケールしそうかどうか?」「彼らが戦略ターゲット以外の顧客を呼んできてくれそうか」という目線を交えながら定める。
  • 戦略ターゲットの顧客心理を洞察し、提供価値を拡張する。
  • 施設と顧客、また顧客同士が共同体感覚を醸成できる“共通の価値観”をつくる。

 

この3つはマーケティングでコントロールできる範囲です。つまり、ベイスターズが負けようが、弱かろうが、ハマスタに足を運びたくなる動機をマーケティングのチカラで創りだしてきているわけです。僕はハマスタの熱気を帯びた雰囲気やハマスタで楽しんでいる人々を見て、「マーケティングのチカラって、やっぱりスゴい…」と改めて感動しました。ヒトの心を動かしたいマーケターの方は、是非、一度ハマスタに足を運んでみてください!

 

そして、最後になりますが、「横浜の街を元気にする」というベイスターズが掲げる公約を果たすには、やっぱりベイスターズのプロ野球における活躍が欠かせません

 

冒頭に紹介したようにハマスタの観客動員数は過去最高になったことをはじめ、球団と球場の一体経営の実現や、売上絶好調のオリジナルビールをはじめとする飲食代やグッズ代などの収入が大きく増えたことから、2011年は年間売上52億円だったのが16年は100億円以上。そして球団単体の利益は2011年が24億円の赤字だったのが、16年はついに5億円の黒字経営に入りました。

 

この“強い経営状態”に成長したことにより、いよいよコア事業であるプロ野球チームの強化施策に資金を回すことができます!選手の練習施設や育成プログラムの充実、評価すべき選手への報酬還元、柔軟な選手の補強施策など、強い経営状態だからこそ実現できることが、沢山あります。

 

きっと、ベイスターズの”強い経営”がチームを活性化させ、近い将来、セ・リーグ優勝、そして、日本一を獲得する日が訪れると僕は思います。

その瞬間、横浜の街が、どんな熱狂の渦を巻き起こすのか、楽しみでなりません!

頑張れ、ベイスターズ!

 

≪参考図書≫

≪参考記事など≫

ファンベースマーケティングの実践において、「クラウドファンディング」を選択肢に入れるべき理由

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こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

マスマーケティングで生活者の興味関心を獲得することが難しくなってきている現在において、ブランドのファンを大切にし、ファンと共にブランド価値を共創したり、ファンを通じてブランドの魅力を伝えるなど、ファンを中心にマーケティングコミュニケーションを展開していく「ファンベースマーケティング」という考え方が広まっているのは、みなさん、ご存知かと思います。

 

「自社のファンを増やしたい!」

「積極的に推奨してくれるアンバサダーを増やしたい!」

マーケターであれば、誰もが思っていることでしょう。

 

そこで、様々な業界のファンづくりの事例をみてきた僕としては、ファンベースマーケティングを実行するに当たり、この3つの流れが重要であると確信しています。

 

  1. ソーシャルメディアを活用し、”ファン”をつくる
  2. ファンの中で共感度が高い方を、コミュニティに招き、”協力者”をつくる
  3. ファンや協力者にクラウドファンディングを通じて支援してもらい、”仲間”をつくる

 

このなかで、今回、フォーカスしたいポイントは③のクラウドファンディングです!

 

ソーシャルメディアやコミュニティを活用したブランドコミュニケーションは知っているけど、「企業のマーケティングでクラウドファンディングを活用するって何それ?」と思われた方もいるかもしれません。「クラウドファンディングって、個人事業主やNPOなどが資金を集める際の手段じゃないのか?」と。

 

しかし、僕は、企業も積極的にクラウドファンディングという仕組みを活用すべきだと思っています。なぜなら、キングコングの西野さんの話やCAMPFIRE代表の家入さんの新刊「なめらかなお金がめぐる社会。 あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。」などを読んで、僕が解釈したクラウドファンディングの本質とは、資金を調達することではなく、“仲間をつくる”ことだからです。

 

ファンベースマーケティングの実践において、なぜ企業がクラウドファンディングを選択肢に入れるべきなのか?今回のブログでは、そのことについて説明していきます。

 

50円玉を50円で売る意味

まずは、クラウドファンディングの本質について、話をしたいと思います。

 

家入さんの本で、とても興味深いエピソードが紹介されていて、大阪の路上で50円玉を50円で売っているホームレスの方がいるそうなんです。お金の額面の価値だけで考えると、この行動の意味がわからないですよね。だけど、売っている本人からすると、50円玉を売ることでヒトとのコミュニケーションが生まれるので、そこに価値を見出しているんですね。

 

この話、深くないですか!?

つまり、お金がコミュニケーションツールになっているんです。

 

例えば、僕が10万円のギターを買って弾き語りライブをしようと思ったとします。そういう場合、貯金を崩して買うか、学生の身分であればバイトをしまくって、お金を貯めて買うほうが、話は早いじゃないですか。そこを、あえて、100人から千円を集めてギターを購入する。もちろん、そこには100人から千円を集めるための自分自身の信用や企画のようなものが必要になりますが、そうすることで、たった1人の企画から100人の企画になるわけです。そうすると、僕は100人からの期待に応えるべくギターの練習を一層頑張らないといけないと思うし、弾き語りライブ当日は支援してくれた100人は少なくてもお客さんとして来てくれる可能性が高いですよね (もしかしたら、その100人が、さらに友人知人を連れてきてくれるかもしれない)。このように1人の企画と比べて、100人の企画のほうが、オモシロい結末にたどり着いている可能性が高いわけです

 

この場合のクラウドファンディングは、完全に”資金”を集めることを目的にしていないんですね。ここではお金をコミュニケーションツールとすることで、企画を一緒に盛り上げてくれる”仲間”を集めているんです。いわばお金は“絆の証”になっているんですね。

 

クラウドファンディングは、もっと自由になるべきだ

こういう話をすると「自分で集められる金なら、わざわざクラウドファンディングを使うな!」「それぐらいの金額なら自分でなんとかしろ。甘えるな!」みたいな意見があったりすると思いますが、これに関しては家入さんがスゴく良いことを言っていれています。

 

これはつまり、「個人的に必要なお金をクラウドファンディングで集めることは是か否か?」という議論である。これはクラウドファンディングを語るときにいつもついてくる話だ。

 

でも本来は単純な話で、そこに出す価値を見出す人は出すし、見出さない人は出さない。価値観が多様化したことで人がお金を使うときの「向き先」も多様化しているからだ。

 

そもそも、「それくらいなんとかしろ」と思うより、「それくらいだったらみんなで」という発想のほうが楽しいし、優しい

 

得られるリターンは感謝状だけかもしれないけど、それによって人を応援したり、夢を買ったり、単にネタとしてその物語に乗っかったりすることで得られる付加価値は人それぞれ。だから一番理不尽に聞こえたのは、「クラウドファンディングをそんな用途で使うな」という批判だった。じゃあ、どんな用途だったら「正しい」のか?それを決めたのは誰か?クラウドファンディングはもっと自由になるべきだ。

 

書籍『なめらかなお金がめぐる社会。 あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。』家入一真 (著) より抜粋

 

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※著者撮影

 

僕も、家入さんの考えに大賛成で、お金を払うという分かりやすい形で、誰かの夢を応援したり、ネタに乗っかることのできる価値って非常に高いと思うんですね。

 

ということで、お金を自力で用意できる手段があったとしても、あえてクラウドファンディングを使うという選択肢をとることに躊躇する必要はないと僕は思っています。

 

企業はクラウドファンディングで何をすべきか?

ここでクラウドファンディングに詳しくない方もいらっしゃると思うので、クラウドファンディングで実施できるプロジェクトのタイプについてご説明します。主に以下の2パターンとなります。

 

  1. プロジェクト方式
  2. ファンクラブ方式

 

「プロジェクト方式」とは、単発のプロジェクトに対して、目標金額と募集期間を設定し、その金額の達成を目指して支援者を集めるパターンです。例えば、CAMPFIREの場合、「All-or-Nothing」という募集期間内に目標金額を達成できなかった場合、プロジェクトは不成立となって、支援者からの支援金の決済は行なわれず、プロジェクトオーナーに集まった支援金は支払われないパターンと、「All-In」という目標金額の達成・未達成に関わらず、集まった支援金はプロジェクトオーナーに支払われまるパターンがあります。ただし、「All-In」でプロジェクトを立てる場合は、掲載時にプロジェクトの実施を確約する必要があり、プロジェクトの内容によっては、「All-In」が利用できない場合もあります。

 

また、「ファンクラブ方式」とは、支援者から月額で継続的に支援金をもらえるサブスクリプションモデルの仕組みです。オンラインサロンやファンクラブ限定イベントの実施、限定商品の提供など、ファンクラブで集めた資金の使い方については制限は特になく、プロジェクト方式のクラウドファンディングとも併用可能とのことです。

 

 

ということで、例えば、企業のブランド担当者であれば、どんなプロジェクトができそうか考えてみましょう。

 

プロジェクト方式であれば、例えば、社内会議でボツになった尖ったアイディアをファンと一緒に共創するプロジェクトなんて、僕は面白いんじゃないかと思います。メーカーの場合、流通や小売りを通じて商品を販売する際に様々な制約があったり、そもそも商品企画を決定する際に大きな売上が見込める企画以外は通りづらかったりと、どうしても企業の個性が抑えられた商品が世の中にでていく傾向があると思います。そのためボツになってしまったけれど、そのブランドらしさが詰まっていて、一部のファンには熱く支持されそうな面白いアイディアはクラウドファンディングで資金と仲間を集めて商品を共創し、その"ブランドらしさ"を磨いていくのは面白いと思います。

 

また、上記のような商品づくり以外にも、ファンイベントの実施といったことでも良いと思うんですね。「ファンイベントをやりたいけど、マーケティング予算は広告や販促に使うことが社内で決まっていて、既存のファン向けの施策にお金を割くのが難しいです…」といった悩みを聞くことがよくあります。だったら、クラウドファンディングを使えば良くて、ファンを仲間に変えて、ファンと一緒に作ってしまえばいい。そのほうが、仲間が増えて、企業単独で主催するよりも、断然、盛り上がるのは間違いないです。 

 

パトロンと顧客の違い

「自分も一緒にこのブランドを育てているんだ」「自分たちが頑張って、このブランドを大きな存在にしていこう」といった“共同体感覚”を持ってくれる顧客を増やしていくことが、これからの時代のブランドづくりにおいて重要だと僕はよく言うのですが、クラウドファンディングこそ、“支援金を払った・もらった”という最もわかりやすい形で“共同体感覚”を醸成してくれると思います。

 

クラウドファンディングでは、プロジェクトに支援金を提供したヒトのことを”パトロン”と呼びます。パトロンですよ!メディチ家とか、時のローマ教皇とか、そういう存在なわけです。

「コイツの作品をもっと見てみたい!」

「世の中に、コイツの才能や魅力をもっと伝えたい!」

といった想いで彼らは、ダ・ヴィンチだとかを支援していたわけです。

 

自分のために商品やサービスを購入するのは”顧客”です。ここでは、企業にお金が支払われていますが、あくまで顧客自身の生活や楽しみのためのお金のやり取りなので、お金のベクトルは顧客に向いています。

 

“パトロン”の場合は、支援される側や、そのプロジェクトを通じて実現したいビジョンにベクトルが向いていますよね。だけど、パトロン側も、そのプロジェクトに参加することの喜びや、貢献していることの満足感を感じることができ、結果的に幸せになっている。こういうスパイラルが発生しているわけです。

 

このように、クラウドファンディングは、お金を“絆の証”とすることで、ブランドに共感してくれているファンを仲間として迎え入れ、顧客の中でブランドに対する共同体感覚を醸成するのに、非常に向いているということです。

 

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 ※CAMFIREのマイページよりスクリーンショット 。こちらは、キングコング西野さんがプロジェクトオーナーをしている「スナック『キャンディ』ファンクラブ」のプロジェクト詳細ページです。僕はこのプロジェクトを支援しているので、上部にパトロン表示がでています。

 

初めからクラウドファンディングは上手くいかない。まずは”ファン”や”協力者”をつくることから始めよう

ただ、ここまでクラウドファンディングの持つ“仲間づくり”の価値を繰り返し主張してきましたが、クラウドファンディングで仲間や価値をつくるには、そもそもブランドの”ファン”や”協力者”といった存在がいないといけません。要は、「仲間になりたい」と思ってくれている人が誰もいない状態で始めても、パトロンたちが集まらず、ブランド価値を高めるプロジェクトの実現が厳しいということですね。

 

そのためには、まずは、ブランドの想いやビジョンを伝え、共感してもらう活動が必要になります。いわゆるエンゲージメントの獲得による”ファンづくり”で、これに一番向いているのは、ソーシャルメディアの活用ですね。なぜなら、TVも観ないし、広告を邪魔なものとしてスルーする生活者が増える中で、FacebookやTwitter、Instagramといった顧客が日々使っているメディアにお邪魔させていただき、生活者とコミュニケーションすることができるからです。もちろん、ブランドのアカウントをフォローして頂くためのキッカケづくりは必要になりますが、生活者とコンスタントかつ長期的に接触できることが、ソーシャルメディアの最大の魅力になります。

 

そして、ブランドのファンになっていただいた方への次のステップとして、有効なのがファンコミュニティです。これまでの企業からの一方方向な情報発信ではなく、企業側と顧客側がフラットな関係でコミュニケーションをとり、コミュニティのミッション(例えば、ブランドの持つ価値を高めるとか、こういう楽しさを世の中に広げたい…など)に対して、お互いが助け合うことで仲間意識が生まれます。コミュニティを通じて、ファンをブランドの価値を高めたり、ブランドの魅力を伝える"協力者"になっていただくことができるわけです。お金という強い絆でつながる仲間の一歩手前の状態ですね。

 

このように、

①ソーシャルメディアを通じた”ファンづくり”

②コミュニティを通じた”協力者づくり”

③クラウドファンディングを通じた”仲間づくり”

という架け橋がつながって、ブランドに対するファンベースマーケティングは完成に近づいていくと僕は確信しています。まとめると、以下の図の形になります。 

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まずは、クラウドファンディングでパトロンになってみよう

ということで、今回のブログでは、「ファンベースマーケティングの実践において、企業が、なぜクラウドファンディングを選択肢に入れるべきなのか?」についてご説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?

 

もしかすると、”お金を払うことで生まれる共同体感覚”ということにピンとこなかった方もいるかもしれません。そんな場合は、一度、クラウドファンディングで何かしらのプロジェクトのパトロンになってみることをお勧めします

 

例えば、CAMPFIREでプロジェクト一覧やファンクラブ一覧をのぞいてみてください。プロジェクトの内容だけでなく、プロジェクトを立ち上げているオーナーのプロフィールをチェックすることもおススメです。TwitterやブログなどのURLがリンクでついているので、オーナーの人柄や想いのようなものもわかります。きっと、応援したいと思えるプロジェクトやオーナーに出会えるのではないかと思います。

 

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CAMPFIREよりスクリーンショット 。


最後に、繰り返しになりますが、クラウドファンディングの誠の価値は、「資金」を得ることではなく、「仲間」を得ることです。ファンベースマーケティングの実践を志すマーケターの方は、是非、クラウドファンディングという選択肢を懐刀としてもつことを激しくお奨めしたいです!

 

《参考図書》

《参考記事》

マーケター必読!『人生の勝算』(前田裕二著)から学ぶ熱狂的なファンのコミュニティを創る秘訣とは?

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 こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

いきなりですが、みなさん、仮想ライブ空間『SHOWROOM』で代表を務めている前田裕二さんの著書『人生の勝算』は読まれましたか?

 

まだ読んだことがないという方は、今すぐ読んでもらいたいです!!!!

★ちなみに、キングコング西野さんのブログで、『人生の勝算』の中身を試し読みすることができます。まずは、この第一章「人は絆にお金を払う」だけでも読んでもらいたい!

 

“エンゲージメント”、“ロイヤリティ”といった「顧客との感情的な結びつき」を高めていくことの重要性は、企業のマーケティングに取り組む方なら誰もが知っていることだと思いますし、モノの価値での差別化が難しくなりつつある現代において、その重要度はますます高まってきていますよね。

 

このテーマに関して書かれた書籍は、世の中にたくさん出回っていますし、僕も散々読んできているつもりなのですが、この『人生の勝算』は、1位、2位を争うくらい学びがありました!ヤッホーブルーイング、乃木坂46、福岡ソフトバンクホークス…などなど、熱狂的なファンに沢山囲まれて、ビジネス的にも成功している存在には、この本に書いてある「愛されるため(応援されるため)に必要な要素」が確かに入っているんですよ。

 

前田さん曰く、熱狂的なファンのコミュニティが形成される上での重要なエッセンスとして以下の5つをあげています。

  1. 余白の存在
  2. 客から中の人へ
  3. 仮想敵を作ること
  4. 秘密やコンテキストなどの共通言語を共有すること
  5. 共通目的やベクトルを持つこと

※2は、私の解釈で書籍に掲載されていた表現から少し変えています。

 

ということで、「ブランドの熱狂的なファンをつくっていきたい。増やしていきたい」と思っているマーケターの方々のお役に立てればと思い、今回は、この5つのエッセンスに関して僕自身の解釈も入れながら、解説していきたいと思います。

 

完璧な存在よりも、見守りたくなる存在へ

まずは「① 余白の存在」。ここが、とにかく重要です!

 

完璧すぎる人間よりも、多少の粗や欠点がある人間のほうが魅力的。これは、ほとんどの人が、共感いただけるのではないでしょうか。また、完璧すぎると、「私がいてもいなくても、この人にとっては関係ないだろうな」ということで、愛情が持ちづらいということもあるかと思います。

 

これまでブランディングというと、ブランドが掲げるコンセプトに沿って緻密に創り上げていくものだと考えられてきたと思います。何かしら施策を実行しようとすると、「ブランドのガイドラインにのっとれ」とか、「クオリティ管理は入念に」など、“完璧さ”を重視する傾向が強かったと思うんです。

 

しかし、前述したとおり、完璧なものに“愛情”を抱きづらいというのが人間です。一時的なオドロキや感動は発生するかもしれませんが、長い目で見たときに、そういった完璧すぎるものへの愛情は、なかなか生まれづらいのではないかと思うんですね。

 

ここで、考えなきゃいけないのが“余白”の存在です。余白とは、「かまってあげなきゃ」とか「応援してあげようかな」と思わせるような“弱み”や“ツッコミどころ”のことです。

 

前田さんの本で、とても印象的なのがスナックの話です。「シャッター通り」という言葉があるように、地域の商店街は、どこも経営的に苦しんでいます。そのような廃れゆく商店街において、唯一元気なのがスナックということで、なぜスナックが生き残っているのかというと、食料品や日用品などのモノを売っている商店は郊外のショッピングモールやECサイトなどに価値を奪われているのに対して、スナックは“ママとの繋がり”や、“ママや常連仲間との温かいコミュニケーションの場”を提供しているので、価値が消滅しにくいというわけです。

 

そして、スナックのママは若くて綺麗な女性である必要はなく、例えば一緒にお酒を飲んだお客さんより先に潰れても良いし、どこか頼りなくても良いとのこと。プロフェッショナルとしては粗だらけですが、その未完成な感じが、逆に共感を誘い、仲間を作るそうで、「みんなでこのママを支えよう」という結束力が生まれ、コミュニティが強くなるそうなんですね。

 

この“余白”って、すごい大切だと思っていて、僕の愛する「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイングも、社長をはじめ、様々な社員の方々がファンイベントやSNSなどで登場するのですが、やっぱり完璧さをもって接するという感じではなくて、どこかに愛嬌のある“余白”があるんですよね。本来は、プロフェッショナルとして振舞わないといけないかもしれない場で、あえて、少しゆるんだ対応をしているというか。

 

これは、アイドルやスポーツチームでも一緒です。例えば、僕は乃木坂46にドハマりしていますが、なぜハマっているかというと、「かわいい女の子達を見て癒されたい」といった感情ではなくて、やっぱり「放っておけない」とか、「応援したい」なんですよ(もちろん、癒されたい感情がゼロではないですが)。「学校に行きたくないから乃木坂に入った」みたいな理由の女の子が、様々な苦難や葛藤を抱えながら、ステージで最高の輝きを放つ。しかし、その先には、また新たな壁が…。みたいな戦っている姿をみて、おもわず「応援したい」という気持ちがどんどん醸成されていっているわけです。アイドルとして苦しむ姿は一切表に出さず、笑顔で最高のパフォーマンスを続ける。それも一つの美しい姿かもしれませんが、あえて、彼女達がもがき苦しんでいる姿をファンに見せる。秋元康さんのファン心理に対する深い理解、恐るべしです。

 

このように、愛されるブランド、応援されるブランドになるためには、完璧な存在として立ち振る舞うのではなく、あえて余白の部分を顧客と共有し、「見守ってあげたい」、「支えてあげたい」、「応援したい」といった余白への共感を生むことが重要になると僕は確信しています。

 

みんなで叶える物語

そして、“余白”があるからこそ、発生するのが「② 客から中の人へ」です。

 

例えば、スナックの話でいうと、前田さんが通っているスナックではママが本当にずぼらで、すぐに酔いつぶれてしまったりして、お客さんがグラスを洗ったり、お酒を作ったりしているそうで、お客さんと店員の境目がなくなってきているようなんですね。そして、一度、店員というゾーンにまで行ってしまったお客さんは、お店が自分の居場所でもあり、守るべき城だと思うようになって、結果的に通い続けてしまうそうで、「今月はお店が苦しそうだから、ボトルを一本多く入れよう」とか「飲み放題だけど、高いお酒を頼みすぎないようにしよう」など、お客さんながら、完全にお店側の目線で行動を起こすようになるらしいんですね。

 

このように余白をうまく演出し(スナックのママの場合は天然かもしれませんが)、顧客にブランドに対する“共同体感覚”を醸成していくことが、顧客のロイヤルティを高めることに最もつながるのではないかと思っています。

 

ブログ記事「『グレイトフル・デッド』と『ヤッホーブルーイング』が教えてくれたマーケティングのあるべき姿。」でも書きましたが、ヤッホーブルーイングさんも、こういう現象が起こっていて、ヤッホーの熱狂的なファンの方々は、ヤッホーさん主催のファンイベントに参加すると、会場を積極的に盛り上げたり、ヤッホーの魅力を一生懸命語ったり、酔っぱらいすぎてしまった方の介抱や、後片付けのお手伝いを申し出るなど、まるで社員のような動きをしている方が多いんですよね。

 

アイドルやスポーツチームでも一緒で、例えば、乃木坂46の常連ファンは、まるで自分たちが運営側のように自分の押しメンやグループ全体を応援しています。僕がスゴイと思った事例を一つ話すと、中田花奈さんというメンバーが乃木坂46にいるのですが、ファン有志の「中田花奈生誕祭実行委員会」という団体があって、なんと、8月6日の中田さんの誕生日の時に、乃木坂46の公式運営事務局の許可と広告代理店の協力をもらって、中田さんの誕生日祝いのポスターを乃木坂駅に掲載しているんですね。これ、スゴくないですか!?また、実行委員会の方々のコメントがよくて、中田さんの誕生日を祝うことはもちろん、いかに中田さんのことを、一般の通行人の方々にも知ってもらうか、ということも大きな目的だと言い切っているんですね。まさに中の人になっています。

 

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※Twitterアカウント「乃木坂46中田花奈生誕委員会2017@nkyk_prpr」さんのツイートよりスクリーンショット 。

 

このように「自分も一緒にこのブランドを育てているんだ」「自分たちが頑張って、このブランドを大きな存在にしていこう」といった“共同体感覚”を感じる顧客やファンを増やしていくことがファンのコミュニティをより強固にすることにつながっていくのです。そして、これを実現するには中心にいるブランドや企業の“余白の存在”が大切で、余白と共同体感覚の醸成は切っても切り離せない関係と言えるでしょう。

 

コミュニティの絆を強くするスパイス 

そして、ファンのコミュニティの絆を強くする後押しをするのが、「③ 仮想敵をつくること」「④ 秘密やコンテキストなどの共通言語を共有すること」「⑤ 共通目的やベクトルをもつこと」の3つです。

 

まず、“仮想敵”をつくること。僕は平和主義者なので、この表現はあまり好きではないのですが、確かに仮想敵をつくることで、ファンの団結が深まることはよくあります。例えば、アップルの熱狂的な信者たちにとって仮想敵はIBMやマイクロソフトです。初代Macintosh発売時にIBMのコンピューターを世界を支配するビッグブラザーに見立てたTVCMは有名ですよね。乃木坂46であれば、「AKBの公式ライバル」としてデビューしている段階で、当時アイドル界の頂点に君臨するAKBを”仮想敵”に仕立てられていて、「いつかはAKBに負けないグループに育てていこう」ということで、ファンの心が結束したことは言うまでもありません。

 

次に、秘密やコンテキストなどの“共通言語”を共有することも大切です。いわゆる“お約束”みたいなものですが、スポーツの応援や、アイドルのライブなどを見ていると、必ず、「こういう時には、この掛け声」とか「このシーンでは、この身振り手振り」といったお約束のようなものがあります。一見さんからすると、初めはとっつきづらいのですが、常連のファンの方の動きを見ながら、「こういう時には、こういう風にすれば良いのか…」などと、みんなに合わせて動いているうちに、だんだん自分も熱狂の輪の中に入ってきて、気が付けばハマっていたといった経験はありませんか?ファンじゃないと知らない世界。だけど、それを知っていることで、自分もファンの一員になったと強く自覚することができる共通言語をコミュニティ内でつくり、それを共有することが大事なのです。

 

そして、最後がコミュニティ内で共通目的”などの“ベクトル”を持つことです。乃木坂46であれば、「自分たちの応援で、AKBを超える最高のアイドルグループに育てていこう」。ヤッホーブルーイングであれば、「多くの人にヤッホーの魅力を伝えよう」。福岡ソフトバンクホークスであれば、「日本のプロ野球界から、世界に通用する球団を生み出そう」など、ファンがその目標・目的に対してワクワクし、一つになれる強力な旗印が必要になります。顧客目線でのミッションやビジョンですね。顧客にこのような共通目的を抱いていいただくためにも、企業側は自分たちの描いているミッション・ビジョンを熱く伝えていく必要があります。

 

このように、この3つのスパイスが掛け合わさることで、顧客はそのブランドやブランドを取り巻くコミュニティにより愛情を感じ、熱狂の輪が深まっていきます。

 

企業主導のコミュニティに“熱狂”は生まれない

ということで、熱狂的なファンのコミュニティが形成される上で、重要なエッセンスの5つをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

 

僕は仕事柄、様々なブランドの「ファンコミュニティ」と言われるものをチェックしているのですが、世の中には、“企業主導”のコミュニティ“ユーザー主導”のコミュニティがあると思っています。

 

みなさんだったら、どちらのコミュニティに参加、もしくは、応援したいですか?

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僕だったら、絶対に“ユーザー主導”ですね。

 

正直、「顧客を囲い込みたい」、「顧客を管理していこう」といった上から目線の企業主導のコミュニティは、ほとんど上手くいっていないように思います。企業側の目論見が透けて見えて参加者が萎えてしまうというのもありますし、そもそも、「自分がいようがいなかろうが、このブランドにとって関係ないな」と思ってしまった瞬間に、そのコミュニティに参加するモチベーションがなくなってしまうんですよね。こうなると、ポイントを与えるとか、商品を贈るとか、物理的なメリットを提供し続けない限り、成立しないコミュニティになってしまうわけです。

 

逆に、「皆さんと一緒に、こういう事を実現していきたく、力をかしてくれませんか?」、「企業一人の力では限界があるので、みなさんの力が必要なんです」といった低姿勢で、顧客に対して、ある意味、すがるようなコミュニティのほうが上手くいっている印象があります。人間、頼られた時のほうが、力が発揮しやすいものですし、前田さんが上手いことをおっしゃっているのですが、すでにでき上がった「他人の物語」を受け取るよりも、仮に完璧でなくても自分がコンテンツに介在できる「自分の物語」のほうが、得られる充足感は高いと思うんですよね。こういうコミュニティの場合、参加者はモノをもらうどころか、ブランドやコミュニティを盛り立てるためにお金や時間を費やすなど、与える立場に変わることすらあります。クラウドファンディングや、前田さん達が運営しているSHOWROOMなどを見ていると、この現象は明らかですよね。

 

“余白”をあえて演出し、余白に共感した顧客を“中の人”に変え、また、仮想敵や共通言語、共通目的をつくることで、コミュニティ内の熱量を高める。

 

これからの時代、中長期的に成長していくブランドには、熱狂的なファンのコミュニティが必ず必要になってくると思います。ファンコミュニティを強固なものに育てるためにも、この『人生の勝算』から教わった5つのエッセンスはしっかりと胸にとどめておくようにしたいです。

 

《参考図書》

 

《参考記事》

『グレイトフル・デッド』と『ヤッホーブルーイング』が教えてくれたマーケティングのあるべき姿。

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こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

熱狂的に愛される製品や体験を作り、顧客も、社員も、ブランドに関わる全ての人たちの人生をハッピーに彩る。そんなブランドのことを“熱狂ブランド”と呼び、熱狂ブランドを提供している会社を“熱狂カンパニー”と呼んでいるのですが、熱狂カンパニーとして、心底尊敬してやまないのが、「よなよなエール」、「水曜日のネコ」などのクラフトビールでお馴染みの『ヤッホーブルーイング』(以下、ヤッホー)です。

 

ご存知の方も多いと思いますが、「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションを掲げ、バラエティのある美味しいビールを提供することにとどまらず、顧客の人生をより楽しく、豊かなものにするために様々な取り組みを行い、「いつかはノーベル平和賞をとりたい!」とまで豪語しているチャレンジング、かつ最高にオモシロイ会社です。

 

僕もヤッホーが主催するイベントに参加したり、メルマガ会員やSNSアカウントのフォロワーになっているのですが、様々な社員の方が、芸人のような仮装をしたり、ビールへのこだわりを熱く語ったり、クスっと笑えるシュールなコンテンツを届けてくれたりと、あの手この手で、お客様に喜んでいただくために全力を尽くしている姿を見て、いつも感心してしまいます。しかも、皆さん、とても楽しそうに取り組まれているんですよね。

 

「ヤッホーのような会社が社会に増えていけば、もっと世界は幸せになるはずだし、仕事も楽しいものに変わるはず!」と、マーケターとして志すうちに、「世の中に、ヤッホーのような熱狂的なファンを創りながら、自分たちも最高に楽しんでいる会社は他にないのだろうか?」と考えるようになりました。そういう会社を発見して、共通する要素を洗い出し、様々な業種・規模の企業に応用できる秘訣のようなものを得られないかと思ったんですね。

 

こうして、様々な企業の事例を見ていく中で、『ザッポス(Zappos)』だとか、『ホールフーズ(Whole Foods Market)』だとか、以前にブログで紹介した『メトロバンク(METRO BANK)』『伊那食品工業』などがヤッホーに近いのかなと思いましたが、最近、「もしかしたら、これがヤッホーに一番近いんじゃないのか…!?」と思う存在を発見しました。

 

その存在とは、伝説のロックバンド『グレイトフル・デッド(Grateful Dead)』です。

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 ※Wikipedia「グレイトフル・デッド」より

 

『グレイトフル・デッド』はアメリカで1960年代に生まれたバンドで、ビートルズやローリング・ストーンズと同じくらいアメリカでは人気や歴史があるそうなのですが、おそらく大半の日本人は、名前くらいは聞いたことがあるけど、それ以上は知らないのではないでしょうか(僕もそうでした)。グレイトフル・デッドはヒットチャートとは、ほとんど無縁の存在ながら、毎年のようにスタジアム・ツアーを行っていて、常にアメリカ国内のコンサートの年間収益では一、二を争う存在だそうで、あのスティーブ・ジョブズも熱狂的なファンだったそうです。

 

「あれ。会社じゃなくて、バンド?」というツッコミもあるかと思いますが、糸井重里さんが監修するなどして話題になったグレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶを読んだりしながら、グレイトフル・デッドの取り組みを知れば知るほど、グレイトフル・デッドとヤッホーは非常に似ていることが分かってきたんです。

 

例えば、ヤッホーは自分たちのことを“知的な変わりもの集団”と呼んでいて、世の中の知的な変わりもの達をブランドのコアターゲットに掲げていますが、グレイトフル・デッドこそカウンターカルチャー全盛期のころからの“知的な変わり者集団”であり、アメリカの、いや世界中の知的な変わりもの達を魅了し続け伝説となったバンドです。「これは、もうグレイトフル・デッドを掘り下げるしかない!」と僕は強く確信しました。

 

ということで、今回のブログでは、グレイトフル・デッドとヤッホーブルーイングという「知的な変わりもの」たちから、熱狂的なファンを創りながら、自分たち自身も最高に楽しむことのできるブランドを創るための「ヒント」を探っていきたいと思います。

 

グレイトフル・デッドとは「人生そのもの」

グレイトフル・デッドは、1965年から、バンドのリーダーであったジェリー・ガルシアが亡くなる95年までの間に、2300以上のライブを行いました。13枚以上発売したスタジオ録音のアルバムも売れたそうですが、バンドを別格の存在にしたいのが、独自の“ライブ体験”です。

 

派手な演出もなく、あっさりとライブが始まることや、ビルボードのヒットチャートにのっている曲がないこと、温かいコミュニティの雰囲気、そして何千人もが吸うマリファナの濃い煙など、すべてが独特で、何もかもが変わっているにも関わらず、奇妙な心地よさを感じ、その虜になってしまう人が続出したそうです。

 

グレイトフル・デッドのファンは「デッドヘッズ」と呼ばれています。ヒッピーのような自由人がデッドヘッズには多いと思っていましたが、大部分は、普段は名門大学に通っていたり、大企業で真面目に勤務している方々のようです。 そんなデッドヘッズにとってライブは、いつもの日常を抜け出して、自分を表現し、自由に楽しむことを許してくれる場であり、自分と考え方の似た仲間たちが集まる居心地の良い場所になっているそうです。

 

デッドヘッズは、もちろん、グレイトフル・デッドの音楽が大好きです。けれども、デッドヘッズにとってファン同士のコミュニティは、好きな音楽と共通の価値観を共有する仲間の集まりということで、音楽以上の意味があるようです。「ライブは、古くからの仲間であるデッドヘッズたちとの友情をあたためる場であり、新しいデッドヘッズたちとの出会いの場なんだ。グレイトフル・デッドは素晴らしい音楽と仲間が集まる場所を提供してくれる最高のバンドだよ!」。こんなコメントをするファンが少なくない規模で存在しているらしいんですね。

 

これって、スゴいことだと思いませんか!?ミュージシャンという枠を飛び越え、「人生そのもの」を彩る存在になっているというか…。グレイトフル・デッドのライブに行くと、顔なじみのデッドヘッズと再会して、演奏前や休憩時間にビールを飲みながら、それぞれの近況を報告しあう。まさに、「グレイトフル・デッドなしでは語れない人生」です。

 

そして、このような”共同体感覚”は、偶然の産物ではなくて、グレイトフル・デッドのメンバー達が意識的に創り上げていったようです(もちろん、熱狂的なデッドヘッズ達によってメンバーたちの想像を超えて、拡張&進化していったのではないかと思いますが)。例えば、ファン同士が交流する際の話のネタをつくるということで、1970年初頭からバンドの近況などを掲載した手の込んだ会報を定期的にファンの自宅に送ったり、ライブの録音を許可することで、録音テープの交換がファンの交流のきっかけになったりと、ファン同士のつながりや仲間意識が濃くなっていくような仕掛けを次々と実行していきました。「デッドヘッズ」というファンの呼び名も、ファン同士の共同体感覚を強める大きな後押しになっているのは間違いありません。

 

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※書籍 『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』よりグレイトフル・デッドのライブを楽しむデッドヘッズたちの写真を抜粋(著者撮影)

 

「宴」はヤッホーファンにとっての“同窓会”

さて、一方のヤッホーブルーイングです。ヤッホーの魅力の源泉は、もちろん、個性的な味わいのある美味しいエールビールです。看板商品の「よなよなエール」は世界三大ビール品評会の金賞やモンドセレクション最高金賞を何年も連続して受賞するなど、世界的に評価されています。また、「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY」というシリーズをはじめ、ビールの持つ可能性の広がりを感じてしまう美味しくて面白いビールを毎年毎シーズン届けてくれて、ヤッホーのおかげで、ビールライフが楽しく豊かなものになっているのは間違いありません。

 

ただ、ヤッホーファンにとってヤッホーを別格の存在に導いているのは、「宴」をはじめとした“ファンイベント”だと僕は確信しています。「宴」というのは、ヤッホーの様々なビールや、ビールと相性がよくて、美味しい料理を楽しむことのできる「よなよなビアワークス」というお店(本当におススメ。特に、ローストチキンは絶品)を会場に、80名程度のヤッホーファンを集めて定期的に開催するヤッホー主催のファンイベントで、ヤッホー社員の皆さんも毎回多数参加されています。

 

今でも、初めて、宴に参加した時のことを覚えています。宴の最大の魅力。それは、「よなよなビアワークス」のビールや料理の食べ放題だと当初は思っていました。好きなヤッホーのビールをたくさん飲めて、あのローストチキンや旨いソーセージを食べまくる…、確かに、考えただけで胸熱です。しかし、そうではなかったんです(もちろん、食べ放題も大きな魅力ですが)。

 

まず、宴の会場に入ると、ヤッホーの社員さんからニックネームをシールに書いて、胸に貼ることを推奨されます。ヤッホー社員はお互いをニックネームで呼び合う文化なので、宴でもそれを踏襲したいと。そして、宴が始まるのですが、ここからがビックリ。参加者は6名がけくらいのテーブルにそれぞれ座るんですが、そのテーブル内での交流が、まずスゴい!ヤッホー社員の司会の方から、テーブル内で自己紹介をするように促されるのですが、ヤッホーのビール好きという共通の趣味嗜好を持っているからなのか、ニックネームの効果なのか、アルコールの力なのか、初対面とは思えないくらい、会話がとても弾むんですね。「何年ぐらい前からヤッホー飲んでます?」、「この間、発売されたあのビール飲みました?」、「今度やるヤッホーのイベント行きますか?」…とか、こんな具合にネタが尽きないんです。しかも、途中からヤッホーの社員さんも加わってくれて、会話がどんどん盛り上がっていくんです。

 

そして、会が始まってから一時間くらい経つと、はじめに座っていたテーブル以外の方とも交流するようになってきて、顔に「よなよな」のシールを張ることを強烈に薦めてくるチャーミングなおじさんだとか、ヤッホーが好きすぎて、自分でオリジナルグッズを作ってきているデザイナーの方(ちなみに、めちゃくちゃクオリティが高い)など、面白くて個性的な方々と、次々と遭遇するようになるんです。そして、場が盛りがってきたタイミングで行わる終盤の「よなよなウルトラクイズ」!これが、また盛り上がるんです!…と、こんな具合のイベントなのですが、会が終了して帰るころには、初めて会ったヤッホーファンやヤッホー社員の方々とFacebookの連絡先を交換していたり、「また、宴で会いましょう!」なんて言って、別れたりするんですね

 

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※「宴」のイベントの様子(参照元:「ただの飲み会にあらず!年間契約イベントレポート ~宴 feat. 年間契約~」よなよなの里 エールビール醸造所 公式通販サイトより) 

 

10年以上も前からヤッホーを応援している大ベテランのヤッホーファンの方がおっしゃっていた言葉がとても印象に残っているのですが、「宴」などのヤッホー主催のイベントは“同窓会”みたいなもので、参加すると、気心の知れたヤッホー社員の方々はもちろん、これまでのイベントで知り合ったファンの方々と再会できるのが最高に楽しいし、そういう人たちとヤッホーのビールを飲みかわしながら、楽しい時間を過ごせるのが嬉しいとおっしゃっていたんですね。これ、すごい良くわかります!僕もヤッホーのイベントに参加するたびに魅力的な人との出会いがあって、この同窓会って表現はピッタリだなと思いました。

 

そして、イベントで知り合った社員さんが、その後、ヤッホーのメルマガやWebサイト、SNSなどで登場したりすると、「おっ、頑張ってるな。応援しなきゃ」みたいな感じで、友達が活躍していて嬉しいような感覚になったり、SNSで繋がっているファンの方々がヤッホーに関する投稿をしたりすると、“いいね”やコメントをしあったりしていて、気がつくとヤッホーが生活の一部になっているんですね。「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションをヤッホーは掲げていますが、まさにヤッホーのおかげで、僕の人生が豊かになったのは間違いないですし、同じようなことを思っているヤッホーファンはたくさん存在していると思います。もう、ここまでくるとファンにとってヤッホーの存在は、明らかにクラフトビールメーカーという域を超えているわけです

 

“共同体感覚”をいかに創りだすか 

ここまで読んでいただくと、グレイトフル・デッドとヤッホーが行っていることが、近いといった意味がご理解いただけたのではないでしょうか? ブランドの魅力が体現される場(グレイトフル・デッドであれば“ライブ”。ヤッホーであれば“宴”)を創り、個性的なブランドに惹かれて集まってくるファン同士をユニークなやり方でつなげ、その結果、ファンの中に強烈なブランドへの、またファン同士の“共同体感覚”を創りだす。両者とも、これが実現できているんです。

 

そして、このファンが抱いている“共同体感覚”は、ブランドが提供する体験価値を確実に引き上げていると思います。デッドヘッズたちは、初めてグレイトフル・デッドのライブに訪れたファンに対して、グレイトフル・デッドを愛する仲間として、素晴らしい時間を味わってもらえるように、自分流のライブの楽しみ方を伝授したり、お気に入りのマリファナをシェアしたりと、フレンドリーでオープンな人が多かったそうです。僕が知っているヤッホーファンの方々も、初めて宴に参加した方に楽しんでもらいたいという想いから、テーブルのトークを積極的に盛り上げたり、ヤッホーの魅力を一生懸命語っていたり、人によっては、酔っぱらいすぎてしまった方の介抱や、後片付けのお手伝いを申し出るなど、まるで社員のような動きをしている方もいらっしゃいます。

 

このように、熱狂的なファンがブランド体験価値を高め、その結果、新しい熱狂的なファンが増えていく。そんな素敵なサイクルが回っているんですね。そして、このようなブランドを応援してくる熱狂的なファンの方々の姿は、ヤッホー社員の皆さんのモチベーションを大いに高めてくれることは、間違いないでしょう。

 

熱狂的なファンを創りながら、自分たち自身も最高に楽しむことのできるブランドを創るために必要なコト。それは、いかにファンとブランドの、そして、ファン同士の“共同体感覚”を創出できるかだと僕は思います。

 

「どうやってファンと通じ合うか?」

「ファン同士が仲間意識を持てるような、”共通の価値観”とは何か?」

「ファン同士の”交流を促すキッカケ”をいかにつくるか?」

「ファンとブランド、ファン同士が”一体感を持つことを後押しができる施策”の展開はできないか?」

 

このような問いに対する答えを考え、顧客も、社員も、ブランドに関わる全ての人たちの人生をハッピーに彩る熱狂ブランドを増やしていきたいと思います。皆さんも、是非、自社のブランドに当てはめて、考えてみていただけると幸いです!

 

 

…さて、最後に、グレイトフル・デッドは前述のとおり、愛すべきデッドヘッズたちとともに、ロックの音楽史で伝説となっているバンドです。僕は、ヤッホーも、「ビールに味を!人生に幸せを!」という旗印のもと、最高に面白くて個性的で愉快なヤッホーファンたちと共に、きっとグレイトフル・デッドのような伝説のブランドとなってくれるのではないかと期待してやみません。

 

ヤッホーファンにとって聖地と呼ばれている「超宴」というイベントがあります。これは軽井沢のキャンプ場で行われる一泊二日のファンイベントで1,000人規模の人数が集まります。このイベントは、すでに伝説となっていて、ヤッホー社員も、ヤッホーファンも、はじめてヤッホーのイベントに参加した人も含めて、皆で最高の空間を創り上げている最高のイベントになっています。

 

そして、この秋、2017年10月7日(土)。なんと、この超宴が、神宮外苑軟式球場で初めて開催されます!!!公式サイトには、以下のようにイベントを紹介していました。

 

「よなよなエールの超宴」とは、よなよなエールファンとヤッホーブルーイングスタッフで創り上げるBIGなファンイベント。

よなよなエールを通した、新しい出逢いや発見がつまった超!HAPPYな宴です。

 

 

生産者と消費者という垣根を越えて、ヤッホーブルーイングというブランドのもと、一緒になって盛り上がる。その体験を味わうことのできるビッグチャンスです!ビール好きな方はもちろん、志のあるマーケターの方は、足を運ぶことを激しくお奨めします!!!そして、是非、会場で一緒に乾杯をしましょう!

▼超宴の素晴らしい空間を感じることができるオフィシャル動画があるので、是非、見てみてください!


よなよなエールの超宴 in 新緑の北軽井沢2017 after movie

 

 

≪参考図書≫

48期連続増収増益!奇跡の会社『伊那食品工業』の「戦わない経営」とは?

こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

企業の経営の在り方について話をするときに、よく「近江商人の三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」を引用して熱く語る経営者や事業担当者の方って多いですよね。この考え方は、素晴らしいと思いますし、否定する人は、ほとんどいないと思います。

 

でも、当たり前ですが、これを実現するのは、なかなか難しいですよね。企業の成長が優先され、高い利益目標が課せられる中で、顧客はもちろん、従業員、仕入れ先など、全てのステークホルダーが皆ハッピーになる状況を創りだすのは、困難の極みです。しかも、技術環境が刻々と変わり、グローバル規模での影響を受ける現代において、三方よしの状況を中長期的に持続させることは“奇跡”といっても過言ではないでしょう。

 

その中で、従業員や地域から支持され、さらに、48期連続増収増益を成し遂げている、まさに奇跡の会社が存在しているということを、最近知りました。48期連続ですよ!48期!

 

みなさん、『伊那食品工業』という寒天メーカーをご存知でしょうか?

 

伊那食品工業は長野県伊那市に本社があり、従業員数が500名程度の地方の中小企業です。ところが、この会社は寒天の製造で国内シェア80%、世界シェア15%を占めている寒天の世界的トップメーカーで、48年間増益増収、しかも、売上高経常利益率は10%以上という経営の教科書でお手本にすべき偉業を達成しています(現在の年商は約200億 ※2016年12月期)。この偉業の秘密を探ろうと、様々な業種・業態の経営者の方々が頻繁に視察に訪れているそうで、あのトヨタの豊田章男社長も伊那食品工業の経営から学んでいることが多いとのことです。

 

この伊那食品工業の素晴らしいところは、単に経営の数字だけではなく、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是にしていて、創業以来一度もリストラを行わず、同業者とも戦わず、とことん環境に配慮した工場をつくるなど、社是を具体化した経営で成長していることです。

 

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※著者撮影 

 

伊那食品工業のことを知ってから、「顧客から末永く愛される企業やブランドを世の中に多く生み出していきたい」と志すものとして、この企業の存在をもっと多くの人に知ってもらいたいと思うようになりまして、今回のブログでは、目先の利益より、社員の末永い幸せを築くために伊那食品工業が貫いてきた「戦わない経営」について紹介したいと思います。

 

無理な成長は追わない

繰り返しになりますが、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是に掲げている伊那食品工業。この社是を実現するために、創業者である塚越会長は、3つの経営方針をつくったそうです。

 

最初の1つ目は、「無理な成長は追わない」ということ。これは、景気やトレンドに踊らされないことを意味しています。普通、好景気や業界的に追い風の時には、攻めの経営で設備投資や人員の増強などに、お金をかけたくなってしまうのがヒトの性ですよね。しかし、状況が変わって、不景気や向かい風になると、それが過剰投資という事態をまねき、人件費の削減やリストラを敢行したり、ラインを動かすために大幅なディスカウントに走るなど、企業やブランドの価値や信頼を落とす結果になってしまうことが多々あります。

 

もちろん、顧客や社会から求められる商品やサービスを提供するという面で、世の中の動きをキャッチすることは重要です。ただ景気やトレンドは日々変わっていくものであるという前提に立ち、自分たちの目指す姿に対して、何をすべきかを冷静に考えよとおっしゃっているわけです。

 

会社の業種や規模、歴史や時代背景、マーケットの変化、地球環境、かかわる人々の幸せ、人に迷惑をかけないことといった視点まで含めて、総合的に判断して「最適成長率」を見極めることが、経営にとって重要だと塚越会長は言います。成長のない企業には夢がなく、すぐれた人材も集まらないし、企業内の士気もやる気も育たないので、成長することが重要だということは、百も承知です。ただ、やみくもに成長をすることを善とせずに、社員の能力や会社の体制を整えながら、景気やトレンドに流されずに、一歩一歩着実に成長していこうということですね。

 

この方針にそって経営していることがよくわかるエピソードが、2005年の寒天ブームです。「○○が体にいい」「××で血液をさらさらに」など、テレビや雑誌では様々な食材が取り上げられブームになりますよね。2005年には、その白羽の矢が寒天に当たり、「カロリーが低くてダイエットにいい」などと紹介されたわけです。伊那食品工業は寒天のトップメーカーですから、全国各地から注文が殺到しました。普通なら、注文が殺到すれば増産しようということになると思いますが、塚越会長は「すべて断ってください。これは一過性の流行です。必ず廃れ、そのあとには必ず嫌なことが起こる。その時に社員を犠牲にしたくない」と明言したそうです。

 

「ご注文いただいて、ありがとうございます。しかし、わが社が一番大切にしているのは社員です。社員に残業させることはできませんので、せっかくのご注文ですが今は対応できません」と、電話や手紙で謝罪したりしながら注文を断っていたそうですが、社員の方々から、「商品がほしくて困っている人たちがいるのですから、応えてあげましょう。社長が私たちのことを気にしてくださっているのは十分わかっています。私たちはかまいませんから」という声があがり、結局増産することにしましたが、社員にとって無理のない範囲内にとどめたそうです。翌年、塚越会長が予想した通りブームは去りましたが、伊那食品工業にとって、少しも慌てることはなかったと塚越会長はおっしゃっています。

 

創った人の苦労と喜びを正しく伝える

また、「無理な成長は追わない」という軸で、とても印象深いのが、製造している寒天商品を一般の大型スーパーで売らないという点です。伊那食品工業では「かんてんぱぱ」というブランドを展開して、200~300種類の商品アイテムを持っています。「かんてんぱぱ」の存在を知った大手スーパーから、「とても良い商品なので、ぜひ、我々のスーパーで売らせてほしい」と交渉が入ることが多々あるそうです。

 

しかし、伊那食品工業は、創った人の喜びと苦労を正しく顧客に伝えたいという想いにのっとり、生産から顧客の販売まで一貫して行う事業の在り方を目指しています。現在は、通販での販売を始め、本社工場や全国の営業拠点に併設した場所で直営の店舗を構えており、それ以外のルートでの販売はしていません。単に商品を売るのではなく、商品を創る上での想いを顧客と共有してこそ価値があるという考えなので、自分たちのコントロールが効かない流通経路はとらない方針なんですね。

 

僕も、初台駅近くの東京営業所の1階にある「かんてんぱぱカフェ 初台店」にお邪魔させていただいたのですが、「かんてんぱぱ」の各商品の詳しい説明はもちろん、試食コーナーが充実していたり、商品の楽しみ方を伝える冊子や、伊那食品工業の社内報も配っていたりと、お客さんに商品や自社の想いを伝えようとする姿勢を強く感じることができました

 

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※著者撮影 ( 「かんてんぱぱカフェ 初台店」にて) 

 

全国展開している大手スーパーの注文を受ければ、年間で、何十億単位の売上がもたらされる可能性もありながらも、誘惑に負けずに自分たちの目指す成長にあった道を選ぶ。正直、なかなか、この決断はできないですよね…。ほとんどの会社は1年単位や、3年単位の事業数値を追いかけていますし、特に株主からの圧力が強い場合は、目先の利益に飛びついてしまうことが多いと思います。上場していないからこそできるといえば、それまでかもしれませんが、この中長期的なビジョンを持ち、トレンドや誘惑に踊らされない姿勢こそが、伊那食品工業が持続的に成長できている要因として大きいのではないでしょうか。

 

オンリーワンな存在になり、敵をつくらない

3つの経営方針の残り2つは「敵をつくらない」ということと、「成長の種まきを怠らない」ということです。

 

「競合からシェアを奪え!」とか、「他社を圧倒しろ!」といった怒号に近い言葉が飛び交い、同業者を“商売敵”と呼ぶことも多いビジネスにおいて、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」を目指す伊那食品工業は、なんと、自社の繁栄の陰で泣いている企業やヒトがたくさん存在していることを前提とした成長は目指さないと公言しているのです!

 

そのためには、他社と同じ土俵に立たないように、この世になかった商品、他社では真似できない商品、しかも、顧客や世の中の需要を満たすオンリーワンな商品を開発し続けないといけません。そのために、注力しているのが、「成長の種まきを怠らない」ことです。これは、“研究開発”のことをさしていますし、“社員への投資”のこともさしています。

 

研究開発においては、「人材の1割を研究開発に」をテーマに、社内に研究室を設け、研究者を育て、寒天の原料である海藻や生産技術の本格的に取り組んできたそうです。その結果、食品以外にも、化粧品や医薬品、あるいは細胞培養するための素地など、さまざまな事業展開につながっているそうで、利益成長の土台となっています。

 

また、寒天の新しい用途開発やマーケティング展開を行うために、社員の方々に、さまざまな経験や、体験をしてもらうように心がけているとのことで、よその会社の工場の見学や、異業種が交流する研究会や講演会への参加をはじめ、寒天の原料の現地であるインドネシアやロシアへの出張も積極的に促しているとのことです。

 

特に、「スゴイな!」と思ったのが、伊那食品工業では、1973年から毎年1回ずつ、国内と海外への社員旅行を交互に続けているそうです。慰安や社員同士の親睦をはかることも目的に含まれていますが、一番の目的は社員の見聞を磨くことのようで、上質な空間を知ることで、マナーを身につけ、モラルを高めてもらいたいという想いから宿泊施設や食事は質の高いところをあえて選んでいるとのことです。社員旅行から帰ってきた社員がニコニコしながら、塚越会長曰く「とっても有意義でした!」とか、「社長、最高でした!」と言ってくれていて、社員のやる気や志気、そしてモラルを高めることができているとのことです。

 

このように、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」という社是に対して、全くブレない経営をしていることを知り、僕は心の底から感動しました。もちろん、スタートアップの企業や、業界内における一定のポジションの獲得を目指している状態の企業であれば、貪欲に成長を目指すというのも正しい姿だと思いますが、市場全体が成熟を迎え、モノの豊かさからココロの豊かさを求めはじめている現代において、伊那市食品工業の経営姿勢は学ぶべきところが多いと思います。

 

21世紀のあるべき経営者の心得

最後に、伊那食品工業の塚越会長が自分の経営に対する考えを綴った著著『いい会社をつくりましょう』の中に書かれている「21世紀のあるべき経営者の心得」を紹介したいと思います。

 

  1. 専門のほかに幅広く一般知識をもち、業界の情報は世界的視野で集めること。
  2. 変化し得る者だけが生き残れるという自然界の法則は、企業経営にも通じることを知り、すべてにバランスをとりながら常に変革すること。
  3. 永続することこそ企業の価値である。急成長をいましめ、研究開発に基づく種まきを常に行うこと。
  4. 人間社会における企業の真の目的は、雇用機会を創ることにより、快適で豊かな社会をつくることであり、成長も利益もそのための手段であることを知ること。
  5. 社員の士気を高めるために、社員の「幸」を常に考え、末広がりの人生を構築できるように、会社もまた常に末広がりの成長をするように努めること。
  6. 売り立場、買う立場はビジネス社会において常に対等であるべきことを知り、仕入先を大切にし、継続的な取引に心がけること。
  7. ファンづくりこそ企業永続の基であり、敵をつくらないように留意すること。
  8. 専門的知識は部下より劣ることはあっても、仕事に対する情熱は誰にも負けぬこと。
  9. 文明は後戻りしない。文明の利器は他社より早くフルに活用すること。
  10. 豊かで、快適で、幸せな社会をつくるため、トレンドに迷うことなく、いいまちづくりに参加し、郷土愛をもちづつけること。

 

どうですか? とても、素晴らしい心得だと思いましたし、このような心得をもった経営者の方々が一人でも多く存在するようになったら、もっと豊かな社会になるのではないかと思います。

 

「より大きく、より早く」と成長を急ぐ気持ちもわかるのですが、目の前の従業員や関係者の幸せを考えながら、「最適成長率」を見極め、着実に社会に貢献できる経営や事業展開を目指していきたいですね!

 

≪参考図書≫

≪参考記事など≫

銀行に熱狂!? 英国銀行『メトロバンク』のチャレンジャー戦略がヤバい

こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

マーケティングについての理解と知識を深めようと、日々、様々な書籍を読み漁っているのですが、「この会社の戦略はスゴい…。チャレンジャー戦略の鏡だ!」と驚愕した海外企業のケースを発見しました。

 

みなさん、イギリスの銀行『メトロバンク(METRO BANK)』をご存知ですか?

 

ロイズ、バークレイズ、ロイヤルバンクなどの大手銀行「ビック5」がひしめくイギリスにおいて、1世紀ぶりに誕生した新銀行で、2010年に開業してから破竹の勢いで急成長。現在、イギリス全土で店舗を展開しており、イギリスで最も活気ある金融サービスブランドと呼ばれているそうです。

 

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※「メトロバンク」公式サイトよりスクリーンショット

 

まず、何がすごいかって、「Changing the way Britain banks (ばかげた銀行ルールを変える) 」という『メトロバンク』のミッションです。「これまでの銀行は、業界のルールに縛られており、顧客目線になっていない。顧客にとって必要とされる銀行サービスを提供するのが我々メトロバンクである」という、挑戦的かつ刺激的な旗印を掲げています。顧客向けのコーポレートスローガンが『JOIN THE REVOLUTION』ですよ。日本の銀行で、こんな刺激的なスローガン、見たことないですよね。

 

大手銀行の縄張りだった市場に風穴をあけて、急成長しているメトロバンク。大手企業がひしめく業界において、シェアを獲得していきたいチャレンジャー企業やブランドにとって、非常に学びの多いケースだと思いましたので、今回のブログでは、『メトロバンクのチャレンジャー企業としての競争戦略』について紹介させていただきます。

 

顧客を熱狂させるサービス

 

メトロバンクが戦略を立てる上で、目を付けたポイント。それは営業時間が短いこと、そして行員の態度が悪いことなど、多くの生活者が既存の銀行サービスに対して強い不満をいだいていることでした。働いている人や子育てをしている人、長時間通勤をしている人にとって、銀行が平日の午前10時から午後4時までしか空いていないのは非常に不便です。おまけに、銀行の窓口担当者の態度は、お世辞にも愛想がいいとは言えない状況のようで、やたらと横柄な態度をとる銀行員は、イギリスのコメディーの定番キャラクターとなっていたそうです。

 

実際、ロンドンのキャス・ビジネススクールのレポートによれば、イギリスの個人口座の77%、法人口座の85%を占めている大手銀行のビッグ5には、2008~2014年半ばに2100万件の苦情が寄せられたそうです。大手銀行は、やる気のない従業員、不満を抱える顧客、世間からの信頼の低さなど、「長年培われた悪しき文化」の中でもがき苦しんでいて、この文化を一掃するには数十年はかかるだろうとレポートは警告していました。

 

そこで、メトロバンクは大胆にも、祝日で休むのはクリスマスなど年4日だけ。それ以外は年中無休で、営業時間は平日が朝8時から夜8時まで。土曜日は夜6時まで、日曜日は午前11時から午後4時まで店を開くという業界の常識を覆す方針をとったのです。

 

そして、イギリスの銀行というと、対応の遅さと長蛇の列が有名だそうで、口座の開設では、大手銀行だと1週間後の予約しか取れない場合もあるそうですが、メトロバンクでは予約は必要なく15分で口座を開設でき、デビットカードとクレジットカードも即時発行されるとのこと。そして、なんと、そのスピードを活かして、ドライブスルーの店舗まで作っているそうです!これは、スゴい!

 

このようなサービスだけでなく、顧客体験を高めるために、現場のスタッフは陽気なサービス精神を発揮し、笑顔で元気よく顧客を迎えるよう教育されており、イギリスの銀行で初めてペット同伴の来店を歓迎しただけでなく、子供にはキャンディーを、ペットの犬にはビスケットまで配っているそうです。そして、店舗空間も顧客に親しみを感じてもらえるように、店舗は全面ガラス張りの洗練された建物で、店舗の中の様子が分かるようになっています。そしてスタッフのドレスコードは、女性スタッフは赤いドレスに黒のブレザーか、黒いドレスに赤のブレザー。男性スタッフは白いシャツに赤いネクタイのスーツ姿で統一。お固い銀行の印象は全然感じませんよね。

 

▼こちらの動画をご覧いただくと、メトロバンクの目指しているものや、サービスの具体的なイメージをつかんでいただけると思います。


The Metro Bank Journey

 

メトロバンクの店舗内には、「NO STUPID RULE」という書かれたサインが様々なところにありますが、既存の大手銀行の馬鹿げたルールに飽き飽きしていた生活者の心をメトロバンクはガッチリと掴んでいるんですね。 

 

 メトロバンクが選んだトレード・オフ 

でも、ここで考えてほしいのが、ほぼ年中無休で、朝8時から夜8時まで営業するというのは、人件費をはじめ、コストが大きく膨らみますよね。ビッグ5が営業時間を限定してきた最大の要因は、長時間営業を実施することのコストが主な原因でした。

 

では、メトロバンクはどうやって長時間営業を実現したのか? その秘密は、商品設計にあります。メトロバンクは出店先のすべての地域で、預金金利を最低水準に設定していて、これにより浮いた資金を活用して、営業時間の拡大を成し遂げているそうです。つまり、ビッグ5と比べて、メトロバンクに預金しても利息は少なく、預金金利の面では、極めて低水準なサービスしか提供しないかわりに、営業時間の面では飛び抜けたサービスを提供するという選択肢をとっているのです。

 

また、顧客対応の面でも、このようなトレード・オフをとっています。例えば、銀行の現場スタッフとしてベストな人材としては、接客態度と業務処理能力の両面で最高レベルの人材ですよね。だけど、有能で愛想がいいスタッフは、どの企業からも需要が高いので、このようなスタッフを雇おうとすると、採用費で膨大なコストがかかってしまう。

 

そのため、メトロバンクでは、業務処理能力は課題があっても、情熱とコミュニケーション能力に長じた人材を採用することにしました。こうしてフレンドリーで熱心なスタッフをそろえた結果、メトロバンクのスタッフは笑顔で顧客を出迎えて、待ち時間に読むための新聞を手渡し、雨の日は顧客の車の前まで見送るなど、他の銀行と違って、親切で、愛想がよくて、優しいといったポジティブな評判が広がっていったのです。

 

その反面、業務処理能力に長けた人材が手薄になるというマイナス面も発生します。銀行で取り扱うのは、専門性の高い金融商品が多いので、専門知識や技能が乏しければ、顧客に手際よく商品を説明するのは難しいですよね。そこで、メトロバンクでは、取り扱う金融商品の種類を徹底的に絞り込んでいるそうです。従来の銀行業界が重視してきた取扱商品の豊富さという面では、圧倒的に最下位です。しかし、このような思い切った選択をとったからこそ、驚くほどフレンドリーな接客を実現できているわけです。

 

すべてが最高には無理がある。切り捨てる勇気を持つ

マイケル・ポーターの「戦略の本質(1996年)」という有名な論文の中にトレード・オフの重要性が、このように書かれています。

 

“ マネジャーたちは「トレード・オフは解消することが望ましい」という考え方を身につけてきた。しかし、トレード・オフがなければ、持続的優位は獲得できない。 ”

 

“戦略とは、競争においてトレード・オフを作ることなのである。 ”

 

つまり、ビジネスにおいて選択肢があった際に、競合他社が躊躇するような選択肢を勇気をもってとれるか? これかそが競争戦略を策定する上で、欠かせない要素ということです。トレード・オフがないところに、差別化は創れないし、持続的な競争優位も生まれないということですね。

 

ただ、これって言うのは簡単ですが、実際は難しいです…。僕も会社で担当しているサービスのこれからの戦略についてメンバーと話し合うことが多いのですが、やっぱり、サービスを提供する側からすると全ての面で良いサービスを顧客に提供したくなってしまうんですよね。また、どこかの部分で質を落とすことに対する不安もあります。「本当にここを捨ててしまって良いんだろか…。これによって顧客離れが起きないだろうか…。」、 そんな思いに苛まれ、結局、どっちつかずの選択肢をとってしまうことも多いです。

 

しかし、メトロバンクしかり、サウスウエスト航空やザッポスなど、大手企業がひしめく業界に風穴をあけて躍進していると称賛されている企業は、どこかで戦略的にトレード・オフをとっているんですよね。僕の敬愛する「よなよなエール」でお馴染みのヤッホーブルーイングのてんちょ(井手直行社長) もトレード・オフの重要性をセミナーなどでよく語っています。

 

やはり、経営資源の量や、規模の経済ではかなわないチャレンジャー企業は、顧客視点でリーダー企業に対して(もしくは市場に対して)、顧客が抱えている不満やニーズを見出し、リーダー企業が採用したくても選択できない選択肢を勇気をもって実行することが重要だということを、改めて、メトロバンクのストーリーを知って思い知りました。

 

最後に、メトロバンクの共同創業者のバーノン・ヒル氏と、その奥さんであるシャーリー・ヒル氏の言葉を引用して締めくくります。

 

「イギリスの銀行家が同じようなことを始めようと考えたとする。彼は10人の友人を集め、10人のコンサルタントを雇い、なぜやれないのかを示す100の理由を考え出すだろう」

 

「大銀行は我々が何をしているのかを理解している。だが自分たちのビジネスモデルの分析となると、お決まりのROI分析を使うだけで、そのモデルがどのように機能しているかを明らかにできない。状況を打破するには、思い切ってやってみることが大事だ。だからこそ、たいていの物事はこれほど退屈なんだ。誰も思い切ろうとはしないからね」

 

「既存の銀行を見てください。みな同じことをして競争しています。ロイズのテーマカラーは緑、バークレイズは青ですが、扱う金融商品も、支店の営業時間も、何もかも同じなのです。それを競争と呼べるのかもしれませんが、顧客に選択肢があるとは言えません。私たちは選択肢を提示しています。やっていることが違うのです。

 

「メトロバンクは私たちのためではなく、顧客のために存在しています。私たちが行うことのすべては、顧客を喜ばせるためです。メトロバンクのメッセージ、姿勢、文化がそのあらわれです。多くの従業員がよその銀行を訪れ、写真を撮り、私たちに送ってくれます。『ひどいと思いませんか』という言葉とともに。私たちは、他の誰もやらないことをやっている。そう心から信じています

 

う~ん、本当にカッコいい…。こういう熱いビジネスを展開できるようになりたいですね!

 
≪参考図書≫

モノからコトへ。『フジロック』にマーケターが行くべき理由

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みなさん、毎年、欠かさず楽しみにしている恒例イベントって、ありますか?

 

僕の場合、それはフジロックです!初めて参加したのは2014年だったのですが、その時の体験と衝撃がすごくて、それからは毎年参加するようになりました。今年も参加しまして、興奮覚めやらぬなか、このブログを書いています。

 

ちなみに、フジロックというと、どういう印象がありますか?

 

フジロックに参加する前の僕の印象だと、「音楽好きの玄人向けのフェス」というイメージでした。アーティストのラインナップも渋めの洋楽アーティストが多いし、場所(新潟県の湯沢町苗場スキー場)も遠いし、宿泊も必要だし、チケット代も結構高い(1日券で17000円、3日券で約4万円)。その結果、3日間全部参加しようとすると、宿泊費&交通費含め10万円近くかかってしまう…。そのため、音楽雑誌を愛読していて、タワレコに通うような、音楽にどっぷりハマっている人たち向けのフェスだと思っていたわけです。僕も音楽はもちろん好きですが、「フジロックはちょっと敷居が高いな…」と思って、特に関心をもっていませんでした。

 

しかし、会社の先輩から、「フジロックを楽しむには、別に音楽に詳しくなくても大丈夫!フジロックは”音楽フェス”という枠を超えて、色んな切り口から感動を提供してくれる。人の気持ちを動かすマーケターになりたいのなら、絶対に参加したほうが良い。というか、参加しなさい!」といったようなことをプレゼンされまして、すさまじい熱量に押され参加したのですが、全くその通りでした!

 

ということで、今回のブログでは、フジロッカー歴4年目と熟練フジロッカーズと比べると経験値はまだまだ低いですが、僕なりに「マーケターがフジロックに行くべき理由」を伝えていこうと思います。

 

時代は”モノ消費”から”コト消費”へ

さて、フジロックの話をする前に、マーケティングに起きている潮流の話をさせてください。「モノ消費”から”コト消費”へ」。こんな言葉を新聞やニュースなどで見かけることが多くなってきました。市場が成熟し、生活に必要なモノは、ほとんど手に入っている現代において、人々の関心は「モノ」の所有欲を満たすことから、経験や体験、思い出、人間関係、サービスなどの目に見えない価値である「コト」に移行してきているという話ですね。”物質的な豊かさ”から”ココロの豊かさ”に興味関心が移ってきているという話として、よく使われます。

 

確かに、FacebookやInstagramなどのSNS上の投稿を見ていても、「○○を購入したよ」とか「この●●(商品やブランド名)がおススメ」といったモノ起点の投稿より、「今日、こんな体験をした!」とか「こんな思い出ができました」といったコト起点の投稿のほうが圧倒的に多い印象がありますよね。マーケティングを行う側からすると、機能として満足を与えることはもちろん大事ですが、顧客のココロを満たす(動かす)ことの重要度が増してきているといえるでしょう。

 

どのアーティストが出演するかは二の次。フジロックという空間が好き!

「”モノ消費”から”コト消費”へ」ということを考えたときに、フジロックほど、”コト価値”を創出できている空間は、なかなかないと思います。

 

よく音楽フェスの話になると、「今年は、××(アーティスト名)が、○○のフェスにでるらしいから、○○に行こうぜ」という会話になることが多いですよね。音楽フェスに行く動機として、自分が好きなアーティストが出演するから参加するといった理由が大半を占めていると思います。でも、フジロックは、そうじゃないんですね。もちろん、出演するアーティストも大事ですが、フジロックに参加すること自体に大きな価値を見出している人がとても多いのがフジロックの特徴です。

 

まず、フジロックの魅力を語る上で、苗場の山々に囲まれた景観の素晴らしさは絶対に欠かせません!豊かな森と澄みきった渓流。都会に慣れ親しんでいるものにとって、とても開放的な空間が広がっているんですよね。また、夜の景色も幻想的で心をうたれます。森の中に飾り付けられた沢山のミラーボール。カラフルなイルミネーション・アートで彩られたボードウォーク。昼間とはまた違った魅力を感じることができます。そして、この最高のシチュエーションの中で織りなすライブアクトは、他のライブ会場と比べて別格の味わいをもたらしてくれます。

 

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そして、フジロックの魅力として、よく語れるのが、“ご飯の美味しさ”“会場のクリーンさ”です。「フェス飯」とも呼ばれる屋台での食事は昔から評価が高いようで、日本酒や”もち豚”といった地元・新潟の名産品が数多く出品されているのに加え、ヨーロッパやアフリカなど世界各国の料理が味わえるエリアなど、飲食のこだわりがスゴイ。そして、飲食が充実しているにも関わらず、会場にゴミが少ないんです!フジロックは「世界一クリーンなロックフェス」と世界中で評価されているほどで、来場者にはゴミの回収と分別に協力してもらうように、積極的に働きかけています。

 

また、フジロックの面白い点として、楽しみ方に縛りがないということもあげられるかと思います。フジロックは親子連れでも楽しめるように、会場内にキッズランドと呼ばれる子供が遊べる場所があったり、川遊びもできたりするので、子供たちと夏の思い出を作ることがメインという方もいれば、フジロックの会場を探索することがメインという方もいます。僕の知り合いの一人は、フジロックの空間で飲むビールと食べ物が”おかず”で、音楽は供え物のようなものだと断言していました(笑)

 

「苗場の美しい景色」、「参加者の会場に対するリスペクト」、「食事の美味しさ」、そして、アーティスト達による素晴らしいパフォーマンスが加わることで、フジロックは最高の空間を作り出しています。2016年9月に全世界の音楽フェスティバルを規模、経済効果、影響力、観客動員数から総合的に格付けしたランキング「世界の最重要音楽フェスティバルランキング」というのが発表されたのですが、「フジロック」は、なんと、世界第3位にランクインしているんです!これってスゴくないですか!?ちなみに、日本の他の音楽フェスだと、100以内に「サマーソニック・東京」が74位にランクインされていました。

 

来場者はフジロックの「価値共創者」

そして、僕がフジロックの素晴らしいところを語る上で、特に強調したいのが、来場者の皆さんのマインドです。先ほど、会場にゴミが少ないという旨を書きましたが、これは運営側の努力だけではなくて、来場者側の「フジロックを最高のフェスにしよう」「苗場の自然を大切にしよう」という意識が高いから成り立っていると思うんですよね。

 

「自分のことは自分で」「助け合い・譲り合い」「自然を敬う」

その上で、音楽と自然を自由に楽しみ、出演者、来場者、スタッフの全員で創り上げていくフェスティバル。それがフジロック・フェスティバルです。

 

この言葉は、フジロックを運営するスタッフの方々が、フジロックに参加する来場者に向けたメッセージとして掲げているものです。そして、20年を超える歴史の中で、フジロックを愛してやまないフジロッカーズに、このメッセージは浸透していき、まさに全員で創り上げているフェスティバルになっていると思います。ちなみに、フジロックの会場内にあるボードウォークは地元の人たちと共同でフジロッカーズのボランティアのメンバーで作っているそうで、まさにファンが参加するだけでなく、創り上げる側に回っていると言って良いでしょう。

 

常々思うのですが、”コト価値”を極めるには企業からの一方的な発信だけでなくて、顧客を巻き込んだ価値づくりが重要になってきていると僕は考えています。例えば、ディズニーランドも”夢の国”と呼ばれていますが、運営しているオリエンタルランドやキャストの努力だけでなく、訪れるゲストが、「ディズニーランドで素敵な思い出を作ろう」という想いのもと、“思いやり”をもった行動や、「ディズニーの世界観を楽しもう」という積極的な姿勢が“夢の国”を創りだしていると思うんですね。

 

ディズニーランド、スターバックス、無印良品…などは、顧客との”価値共創”を創りだしているブランドとして、マーケティングに関する書籍やニュースでモデルケース事例として取り上げられることが多いと思うんですが、僕は、その中に、フジロックも入れたほうが良いと本気で思っています。

 

最後に

このように、フジロックは奇跡的な空間を創り上げることに成功しているわけですが、フジロックも初めから今の状態があったわけではないし、今後もこの状態を繋げていくためには新しいチャレンジも必要なわけで、そこにマーケターとしては学ぶことがとても多いと思っています。

 

「顧客を感動させたい!熱狂させたい!」という志のあるマーケターの方は、是非、一回はフジロックに参加して、この空間を肌で体験してもらいたいです。熱狂は苗場にあります!

 

☆フジロックの風を感じることができる素晴らしいオフィシャル動画(こちらは2016年のダイジェストムービ。2017年版が楽しみ!)があるので、是非、見てみてください!

 


20th Anniversary FUJI ROCK FESTIVAL’16 Aftermovie

『乃木坂46』から学ぶ「競争優位を創る源泉」

こんにちは!SNS×コミュニティ×PRを通じて、様々な企業・団体の『ファンづくり支援』に日々奮闘しております「沸騰ナビゲーター」こと井手 (@kei4ide) でございます。

 

みなさん、いきなりですが、「乃木坂46」のメンバーの名前を5人以上、言えますか?

 

僕は、一ヶ月前、同じ質問を友人からされましたが、2人しか言えませんでした…。

 

その友人は広告会社に身を置いているのですが、「マーケターとして、世の中を熱狂させているトレンドに対するアンテナが弱すぎる!乃木坂から、ファンマーケティングのありかたをもっと学んだほうが良いよ」と力説されまして、そこまで言われたら調べてみるかと動きはじめて、はや一ヶ月……。

 

個人としても、マーケターとしても、メキメキとハマってしまいました(^O^)

 

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※著者撮影(約2万円ほどする、神宮ライブのDVD(完全生産限定盤)も購入してしまいました。なかなかのハマりようです!)

ブランドマーケティングの支援を行っていると、「いかに持続的な競争優位を獲得するか?」という話によくなります。様々なブランドがひしめく熾烈な競争環境の中で、自社の商品やサービスが利益をあげ続けるための優位性をどう創っていくのかという話です。

 

アイドル戦国時代と言われる現代において、アイドルグループ界の頂点に登りつめたといわれる乃木坂46…。これは、明らかに乃木坂が競争優位を築くことができているということですよね。

 

ということで、今回のブログでは、個人の主観的な仮説を大量に混ぜながら、「乃木坂46における競争優位の源泉とは何か?」ということと、「マーケターとして乃木坂から学ぶべきことは何か?」について、ファン初心者の身で恐縮ですが、心のままに展開していきます。

 

競争優位を構築するための3つの基盤

さて、乃木坂について論じる前に、競争優位を獲得するために必要な要素を整理したいと思います。競争優位や競争戦略というと、マイケル・ポーター先生が有名ですが、ポーター先生の理論をかみ砕き、”ストーリー”という視点を加えて執筆された『ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件』という書籍の内容が、非常にわかりやすかったので、引用させていただきます。

 

企業、または、ブランド(商品・サービス)が競争優位を築くための3つのポイントは、以下の3つ。

  1. 業界の競争構造
  2. ポジショニング (Strategic Positioning)
  3. 組織能力 (Organizational Capability)

 

「業界の競争構造」というのは、自社が身を置いている業界が、「もうかりやすい業界なのか?それとも、もうかりにくい業界なのか?」という話です。業界の競争構造を分析する方法としては、ポーター先生のファイブフォース分析が有名ですね。既存同業者との関係、新規参入企業の脅威、代替品の脅威、売り手の交渉力、買い手の交渉力…といった5つの視点から、業界内の競争構造を分析するという手法です。

 

「ブルーオーシャン戦略」という言葉にあるように、競合が少なく、外部環境からの圧力も低い、さらに参入障壁も高い最高の業界に身を置けば、それだけで持続的な競争優位が達成できるでしょう。ただ、そんなブルーオーシャンに身を置くことは、ほぼ夢のまた夢で、ほとんどの企業は競争の厳しいレッドオーシャンに身を置いています…。そのため、「業界の競争構造」以外の「ポジショニング」と「組織能力」が非常に重要ポイントになってきます

 

競争を勝ち抜くための本質としては、競合他社と”違い”を創り、“違い”を顧客に評価してもらうことです。書籍の中で紹介されていたレストランの例が、非常に分かりやすいのですが、他のレストランとは違うメニューやレシピを作り”違い”をはかるのが、「ポジショニング」。他のレストランとメニューは一緒だけど、厨房内やホールのオペレーションがすぐれ、競合と比べて質の高いサービスを提供することにより“違い”をはかるのが、「組織能力」です。

 

例えば、セブンイレブンは、コンビニ業界のなかで圧倒的なシェアを得ていますが、他のコンビニと比べて、「ポジショニング」での差は、ほぼないですよね。では、なぜ、ここまでセブンイレブンが強いのかというと、圧倒的に「組織能力」に要因があるわけです。様々な要因があると思われますが、最も重要なものとして語られるのが、「仮説検証型発注」と呼ばれる発注システムです。これは、コンビニの本部に発注を委ねるのではなく、各店舗の店長が地域の特徴をもとに発注内容を決め、本部がそれをサポートし、各店舗にとって最適な発注内容についてPDCAサイクルを回していくというシステムです。現在は、他のコンビニ各社も「仮説検証型発注」を模倣しようと取り組んでいるそうですが、セブンイレブンが、さらに先にいっていて、なかなか追いつけない状態だそうです。

 

セブンイレブンは、「組織能力」で競争優位を創りだしましたが、ベストな選択肢としては、「ポジショニング」と「組織能力」のどちらかを極めるというのではなく、「ポジショニング」で他社との”違い”を明確に創り、そのベクトルに沿って「組織能力」を高めていく掛け合わせができるのが理想です。

 

 乃木坂46における「ポジショニング」

ここから、乃木坂46に話を戻しましょう。乃木坂の場合、当たり前ですが、アイドル業界に身を置くことが前提にあるため、競争優位を築くためのポイント①「業界の競争構造」は期待できません。レッドオーシャンな業界の中で、戦っていくことが前提になります。ということで、②「ポジショニング」と③「組織能力」で競争優位を築いていく必要があるわけです。

 

さて、アイドルグループでポジショニングというと、でんぱ組のように『秋葉原文化との融合』や、BABY METALのような『ヘビメタとの融合』など、強いポジショニングを行うことで差別化をはかることは可能ですが、AKB48の公式ライバルとしてデビューした乃木坂は、秋元康さんがプロデュースで、大多数のメンバーが、センターなどの選抜の座をかけて争う、AKBグループのフォーマットを流用していることもあり、わかりやすい差別化が難しいという制約があります。

 

そんな制約下での乃木坂46のポジショニング。それは総合プロデューサーの秋元康さんがおっしゃっていたのですが、AKB48グループを体育会系だとしたら、乃木坂は女子高の文科系というポジショニングです。元気いっぱい、笑顔全開なアグレッシブな女の子たちが多いアイドルグループの王道のAKBと比べて、乃木坂46はアイドルっぽくない容姿端麗で自分のこだわりを大切にしていそうな女の子たちがアイドルとして頑張っているという印象です。

 

ミュージックビデオなどを見ていても、このポジショニングの差はでていて、例えば、AKBでYoutube上で最も再生回数の高い『Everyday、カチューシャ』のMVは、メンバーが水着で元気いっぱいに踊っていて、いかにもアイドル全開な印象です。それに比べ、乃木坂の夏のヒット曲である『裸足でSummer』のMVを見ると、上智、慶応、青山大学とかにいそうなセンスの良い女子大生たち(完全に主観ですw)が、おしゃれキャンプをして夏を楽しんでいる風景をまとめたような仕上がりになっています。

 


乃木坂46 『裸足でSummer』

 

このポジショニングの良いところは、これまでアイドルに関心が薄い層のファン獲得に成功しているという点です。特に言われているのが、容姿端麗でこだわりを持っているメンバーを意識的に採用した結果、まいやん(白石麻衣)の『Ray』や、なぁちゃん(西野七瀬)の『non‐no』など、多くのメンバーがファッション雑誌の専属モデルとして活動しており、女性からの支持を大きく得ているということです。乃木坂の握手会に行けば全体の2割が女性ファン。また、20万部以上売れた「白石麻衣写真集 パスポート」の購入者の3割は20代女性とのことです。

 

ファンを感動・熱狂させる「組織能力」の源泉 

ということで、独特の「ポジショニング」を築き、新しい層の顧客獲得にすることに成功した乃木坂ですが、これだけで、大きく成功したわけではなく、ポジショニングで定めたベクトルにそって、ファンを感動・熱狂させる「組織能力」が競争優位を築く上で原動力になっているのは間違いありません。

 

組織能力を高める要因としては、「”AKBの公式ライバル”という看板」と「AKB流のチームビルディング」が効いているのではないかと思っています。これは、秋元康さんがプロデュースをしていないと実行できないので、他のアイドルグループでは模倣したくても模倣が難しい要素です。

 

芸能人としてのキャリアも、グループとしての実績も何もない状態で、当時アイドルグループの頂点に君臨しているAKBの公式ライバルとしてデビューをし、SKEやNMB、HKTのように地域からの応援も期待できないなか、「AKBのようにブレイクできるのか?」という疑問符をなげかけながら、活動を続けていくプレッシャーは相当のものがあったと思います。

また、センターや選抜といった場所をメンバー間で競いあわせることで、AKB流のマネジメントにより、グループとしてはもちろん、メンバー各人のパフォーマンスの成長を大きく促したのではないでしょうか(メンバーたち自身は、ものすごく大変だったと思いますが)。そして、グループとして大きく成功した今でも、「AKB流のチームビルディング」によりとどまることなく成長を続けていると思います。

 

その様子は、『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』というドキュメンタリー映画を見ていただくと、よくわかると思います。オトナからプレッシャーをかけられる中、周りと比較されたり、自分と向き合ったり、いろんな想いを抱えながら、戦っているんだなぁと、心の底から感動しました…。(この映画、本当に多くの方に観てもらいたい。)

 


7月10日(金)公開『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』本予告/公式

 

最後に

独自の「ポジショニング」をとりながら、そのベクトルを強化し続ける「組織能力」も高い。乃木坂46が多くの人を熱狂させることができるわけです。もちろん、乃木坂の魅力はこれだけではないのは確かです。例えば、乃木坂は楽曲の素晴らさや、ダンスやライブでのパフォーマンスもそうですし、「NOGIBINGO!」や「乃木坂工事中」などのバラエティー番組での頑張りなど、他にも色んな魅力があると思います。ただ、持続的な競争優位を築けている要因として、この「ポジショニング」と「組織能力」というのは、大きな要因になっていると思います。

 

乃木坂46の躍進を見て、マーケターとして思うことは、しっかりと戦略を持つことの重要性です。『ストーリーとしての競争戦略』に、戦略の本質は「違いをつくって、つなげること」であると書いてありました。

 

「自分が担当しているブランド、商品、サービスと競合との”違い”は何なのか?」

「その”違い”を強化するために、どのような仕組みや組織体制が必要なのか?」

 

熾烈な競争環境が続く中で、ブランドの持続的な競争優位性を創っていくために、この2つを念頭に入れてマーケティングに取り組む大切さを、改めて教えられました! 乃木坂46をあまりキャッチできていないマーケターさん、是非チェックしてみてください。きっと学ぶことが多いと思いますし、応援したくなると思いますよ♪